第7話:伝説の聖杯で『豚汁』を作る
今回ものんびりお届けします!
「はざま村」の入り口に、金縁の豪華な馬車が停まった。
降りてきたのは、隣国クローバー王国の宮廷料理長。彼は震える手で、ソラに一枚の羊皮紙を差し出した。
「お、お噂はかねがね……『はざまの聖者』様! ぜひ、我が国の建国記念祭で行われる『至高の料理大会』にご出場いただきたい!」
ソラは、庭で大根の泥を落としながら、その豪華な招待状をチラリと見た。
「……しこうの……りょうり……? ああ、なるほど。町内会の親睦会ですね。炊き出しのボランティアなら、ちょうど野菜も余ってるし、いいですよ」
「……チチチ、チチチッ! (ソラ殿、それは『炊き出し』などという規模ではない。国中の貴族が集まる、命がけの美食の宴だぞ!)」
庭の掃除番(元魔王)ゼノンが、箒を止めて鋭い警告を発した。だが、勇者アレンだけがその「警告」を『爽やかな標準語』で受信して戦慄する。
「……ゼノン、無駄だ。ソラさんにはもう、あの豪華な招待状が『回覧板』にしか見えてないんだ……」
「あ、アレンさんも行きます? ちょうどいい運動になりますよ。ま、なんとかなるでしょ。ユウナさんは、お腹空いちゃうかもしれないけど待っててくださいね」
「え、ワタシも行くわよ! 隣国の限定スイーツ、食べ逃すわけにいかないじゃない!」
こうして、ソラ一行は「ちょっと近所の集まりに行ってくる」程度の軽いノリで、王都へと向かうことになった。
王都の広場には、世界中から集まった超一流の料理人たちが、金銀の調理器具を並べて気合を入れていた。
その中で、ソラだけが「マイ鍋」を抱えて、のんびりと入場する。
「お待たせしましたー。場所、ここでいいですかね?」
ソラが調理台に置いたのは、古びているが不思議な銀色の光を放つ大きな鍋だった。
それを見た審判員の一人が、椅子から転げ落ちた。
「な、ななな……あ、あれは伝説の失われたアーティファクト、『無限の滋養を生む聖杯』ではないか!? なぜあんな至宝が、煤けた鍋のふりをしているんだ!?」
「あ、これですか? 納屋に転がってたんですよ。形が深めで、豚汁作るのにちょうど良さそうで」
ソラは、聖女エルナが「洗濯板」として使おうとしていた伝説の盾を『まな板』にし、魔王が掃除していた庭で採れた「世界樹の芽(に見えるネギ)」をトントントンと軽快に刻み始めた。
「(……アレンよ、見ろ。あの鍋、中に入れた食材の魔力を一兆倍に増幅させているぞ。あれを食べた人間、天界に昇天してしまうのではないか?)」
「……ゼノン、もう手遅れだ。俺たちができるのは、食べ終わった後の皿洗いの準備をしておくことだけだ……」
アレンは、ゼノンの「不気味な羽音」を『ベテランシェフの解説』として聞きながら、遠い目をした。
「制限時間終了! 審査を開始する!」
宮廷料理人たちが、金粉をまぶしたフォアグラや、ドラゴンの尾のムニエルを次々と審判の前に並べる。
そんな中、ソラの番が回ってきた。
「はい、お待たせしました。具沢山の豚汁です。熱いから気をつけてくださいね」
並べられたのは、木の器に入った、何の変哲もない(ように見える)豚汁。
審判たちは「この大舞台で、ただの汁物だと……?」と鼻で笑いながら、一口啜った。
ドォォォォォォォンッ!!
「な……なんだ、この衝撃は!? 体中の魔力が……細胞の一つ一つが、歓喜の歌を歌っている!!」
「大根が……大根が口の中で溶ける! まるで天使の羽を食べているようだ……! 胃袋から魂が浄化されていくぅぅぅ!!」
審判たちの背後に、実体化した「女神の幻影(本物の女神ユウナが横でつまみ食いしている影響)」が立ち昇る。
彼らは涙を流しながら、器の底まで舐めるように完食した。
「優勝だ……! 文句なしに優勝だ! 料理人殿、この一品の、この奇跡の出汁の秘密を教えてくれ!!」
興奮した国王が身を乗り出して尋ねる。
ソラは、首を傾げてこう答えた。
「秘密……? いや、特には。強いて言えば、火加減を『なんとなく』調整したくらいですかね。あと、この鍋、保温性が高いから便利ですよ。」
「『なんとなく』で神の領域に達しただと……!?」
広場は、静まり返った。
ソラの「全知全能の解析眼」が無意識に最適な火加減と味付けを導き出し、「万象創造」の右手がただの具材を「神の供物」へと変えていた。
だが、本人は相変わらず「ちょっと腰が疲れちゃったなぁ」と、伸びをしていた。
結局、ソラは優勝賞金の「金貨一万枚」と「伯爵の地位」を提示されたが、
「あ、お金はそんなにいらないです。それより、この国の名物の『お徳用味噌』をいくつか貰えますか? 村の在庫が切れそうで」
と、あっさり断って、山のような味噌樽を馬車に積んで帰路についた。
「……ソラくん、本当にもったいないわね。伯爵になれば、ワタシももっといい服買えたのに!」
「……チチチ、チチチッ。(ユウナよ、ソラ殿が権力などに興味を持つはずなかろう。あの御仁にとっては、世界の覇権よりも『明日の朝食の献立』の方が重要なのだからな……)」
「……だな。あ、ゼノン、お前のその『チチチ』って鳴き声、王都の女の子たちに『可愛い鳴き声のペット』だって勘違いされてたぞ」
「…チチチッ!(……なっ!? 私を愛玩動物扱いするとは……! 呪ってやる……いや、掃除の時間が遅れるからやめておこう)」
アレンがゼノンの翻訳に呆れ、ユウナが味噌の匂いでお腹を鳴らす。
その後ろで、ソラは夕焼け空を眺めて満足げに呟いた。
「やっぱり、みんなで食べるご飯が一番ですね。ま、今日もなんとかなりましたね。明日はおにぎりでも作ってみますか」
ソラの鼻歌に合わせて、馬車が揺れる。
また一つ、隣国の歴史に「伝説の料理神が現れた日」として刻まれたことも知らず、はざま村の一行はのんびりと帰途につくのだった。
聖杯で作った豚汁、私も一杯飲んでみたいです(笑)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今日もソラくんの「ま、いっか」のせいで、世界の常識と伝説のアイテムが一つ犠牲(?)になりました……。
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公式テーマソング公開中!
本作の世界観をイメージした楽曲『ま、いっかの魔法 〜はざま村の日常〜』をYouTubeで公開しています!
https://youtu.be/NC5ZRXHX7eQ
歌詞にも注目して聴いてみてくださいね(笑)
明日も(投稿時間:18:00頃)にお会いしましょう!




