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ま、いっか。で世界が壊れる件 〜全知全能を田舎スローライフ用スキルだと思ってたら〜  作者: しゅんすけ


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第74話:黄金の旋風――パラパラチャーハンと熱力学の崩壊


 はざま村の午前中。ログハウスのキッチンには、昨日の『銀河の結び(おにぎり)』で炊きすぎた、銀色に輝くお米の残りがボウルいっぱいに用意されていた。


 普通なら残り物として扱われる冷や飯だが、はざま村の環境下で一晩置かれたそれは、周囲の神気を吸い込み、一粒一粒が自意識を持つかのように結晶化していた。


「よし。冷や飯の方が、水分が抜けてパラパラになりますからね。……ま、いっか。今日のお昼は、このお米でチャーハンを作りましょう」


 ソラが鼻歌まじりに取り出したのは、作業小屋の隅に転がっていた、重厚な黒鉄の中華鍋だ。それはかつて、ソラが「焦げ付かないフライパンが欲しいな」と願って、オリハルコンの残骸を『万象創造』で適当に叩き出した、因果律すらも熱伝導の一部にする『超時空・蓄熱釜』であった。


「アカさん。少しだけ、お手伝いをお願いできますか? チャーハンは火力が命ですから」


 ソラが、肩に乗っていた手のひらサイズの赤トカゲ――元終焉龍『イグニール・ヴォルガ』ことアカさんに声をかけた。


「ポポポ!(我に任せろ、ソラよ。我が『終焉の業火』、お前の料理を彩る種火として、極限まで抑えて提供してやろう)」


「……おい、アカさん! お前の『極限まで抑えた火』は、普通に銀河を蒸発させる出力だろ!」


 縁側の隅で、聖剣(栓抜き)を抱えたアレンが戦慄する。


「ソラさん! 待て! そのコンロ、さっきからアカさんの鼻息で空間がドロドロに溶けて、背後の壁に未来の地獄が映し出されてるぞ!!」


「あはは。少し明るいだけですよ。……さあ、始めましょう」


 ソラが中華鍋に、ラード(実際には、冥界で採れた聖獣の脂)を投入した。


 瞬間に立ち上がる煙は、吸い込むだけで細胞の劣化を停止させ、不老不死の加護を与える『聖なるアロマ』となってキッチンを満たす。


 そこへ、エルナが『神の洗濯板』で分子レベルまで除菌・洗浄したネギと、ベアトリクスが『絶望の鎌』を使い、細胞を壊さない精密さでミクロン単位に刻んだチャーシューが投入された。


「……よいしょっと!」


 ソラが中華鍋を振った。

 その瞬間、キッチンの重力が消失した。


「……チチチッ!( 見よ、アレン! ソラ殿の手首のスナップ……あれは単なる鍋振りではない! 鍋の中に『超高密度・加速器』と同じ位相空間を生成し、お米と具材を原子レベルで衝突・融合させているのだ!)」


 掃除係のチッチさん(元魔王ゼノン)が、驚愕でハムスターの頬袋を膨らませる。


 ソラの『万象創造』の右手が中華鍋を躍動させるたびに、お米の一粒一粒が重力を無視して空中で円舞曲ワルツを踊り始めた。


 普通、チャーハンを煽ればお米はバラバラに舞うものだが、ソラが振るお米は、まるで意思を持っているかのように整列し、アカさんの放つ「優しい火(10万度)」を均等に浴びて、瞬時に黄金色の衣を纏っていく。


「あ、卵を忘れてました。……ま、いっか、後からでも馴染みますよね」


 ソラが適当に割り入れた卵は、空中で霧状に分散し、お米の表面を一ミクロンの誤差もなくコーティングした。その光景は、もはや料理というよりは新しい宇宙の創造に近かった。


 鍋の中では、具材の旨味が衝突するたびに小規模なビッグバンが起き、その余波でキッチンの換気扇から黄金のオーロラが空に向かって放出されていた。


「できました。『はざま村特産・黄金旋風チャーハン』です。熱いうちにどうぞ」


 縁側に並べられたのは、もはや食べ物というより発光する砂金を盛り付けたかのような一皿だった。


 一口食べた瞬間、村人全員の脳内に、宇宙の真理を記した『アカシックレコード』が直接インストールされた。


「…………ッ!!!」


 プリシラ姫が、スプーンを握ったまま、あまりの油の魔力とパラパラ感に、王族としての理性が灰燼に帰した。

「……美味しい……。昨日のおにぎりが『静』の救済なら、このチャーハンは『動』の福音……! 私の血肉が、高熱の油で揚がるように歓喜しておりますわ! ……今日からこの国は……パラパラ・チャーハン連邦になりますわぁぁ!!」


「……プリシラ! 国を連邦制に書き換えるまでの一歩が早すぎるんだよ!!」


 アレンが絶叫しながらも、自分もチャーハンを一口食べ、あまりの美味さに「……ま、いいか。世界なんて、このパラパラ感の前では些細なことだ……」と、ついにツッコミを放棄した。


 掃除係のミナは、ソラが使い終わった中華鍋から漏れ出す余熱を浴びて、呆然としていた。


「……ソラ様。この、鍋の余熱……。天界の太陽神の怒りよりも熱いのに、なぜか心が安らぎますわ。……私、この熱を利用して、村中の湿った洗濯物を一瞬で乾かす『爆速乾燥法』を思いつきましたわ!」


「あはは。ミナさん、家事の才能がありますね。ま、なんとかなりますよ」


 皆がチャーハンの多幸感に包まれ、腹をさすっていると、庭のジハンキさんが「ガコン!」と、これまでで最も激しい音を立てて明滅した。


『……分析。チャーハンニヨル、熱力学ノ法則、完全崩壊ヲ確認。……本日ノ、メニューニ「10円・宇宙最速パラパラチャーハン(スープ付キ)」ヲ、殿堂入リトシテ追加シマス。……ナオ、カザルノ、ハクサンヨリ、至急ノ報告デス』


 ジハンキさんのモニターに、ハクさんの冷静なシステムボイスが響く。


『……マスター。……チャーハンノ香リガ、時空ノ裂ケ目ヲ通ジテ、魔界ノ最深部マデ到達シマシタ。……空腹ニ耐エカネ、戦意ヲ完全ニ喪失シタ魔王軍ノ残党、約三万名ガ、現在白旗ヲ掲ゲテ、村へノ入村(という名の炊き出し)ヲ希望シテ、境界線ニ整列シテオリマス』


「え、三万人ですか。……ま、いっか。お米、まだありますし。皆さんで食べれば美味しいですよね」


 ソラのその一言で、再び中華鍋が黄金に輝き出し、アカさんの鼻息が火力を上げた。


 はざま村の夕暮れは、香ばしいラードの匂いと、パラパラと舞い踊るお米の音に包まれ、かつてないほど脂っこく、しかし清潔な平和に満たされていった。


「さて。明日は余ったネギで、お味噌汁でも作りましょうか。……ま、なんとかなりますよね!」


 ソラののんびりした声が響く中、魔界の軍勢が

「お、お米を……お米を食べさせてくれ……」と涙を流して村の門を叩く音が、心地よいBGMのように重なっていた。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。

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