第2話:新種の害虫(魔王)には聖水スプレーがよく効く
今回ものんびりお届けします!
転生して二週間。ソラの村(現在、住民二名と一匹)の朝は早い。
隣の部屋で「うーん、布団から出たくないわぁ……」とゴロゴロしている女神ユウナを尻目に、ソラは庭の家庭菜園の手入れに精を出していた。
「お、芽が出てきたな。やっぱりこの『黄金の土(実は神界の腐葉土)』は育ちがいいな。……ん?」
ふと、ソラは庭の境界線あたりに、どろりとした不気味な黒い影が立っているのに気づいた。
それは、禍々しい角を生やし、周囲の植物を一瞬で腐らせるほどの「死の魔力」を放つ男。魔界を統べる者——魔王ゼノンであった。
「(ククク……。この地に、神をも凌駕する聖域を築いた不遜な人間がいると聞いて来てみれば……。貴様がその主か?)」
魔王は低く、地響きのような声で告げた。だが、その言葉(魔言)はソラの耳には届かない。
「……うわぁ。なんだか真っ黒で、カサカサ動いて……。最近の田舎の虫は、人型に擬態するまで進化したのか。デカいし、ちょっと不気味だな」
ソラは、魔王が放つ漆黒のオーラを「虫が撒き散らす不衛生な粉塵」だと解釈した。
「(……虫だと? この我を……魔界の覇者たるゼノンを虫だと申したか!? 貴様、死にたいようだな!)」
魔王が怒りに震え、その右手に「世界を滅ぼす魔炎」を灯した、その時だった。
「あー、ダメだよそんなところで火遊びしちゃ。家が燃えたら困るし。……ちょうどいい、昨日作った『虫除けスプレー』の試作一号を試してみるか」
ソラは、手近にあった霧吹きを手に取った。
中に入っているのは、ソラが「なんとなく効きそう」という理由で、庭の雑草(聖草)を煮出し、天然水(聖水)で割っただけの代物。
だが、『万象創造』の力で作られたそれは、魔族にとっての猛毒を極限まで濃縮した『超・高濃度浄化液』へと変貌していた。
「はい、しゅっしゅー。あっち行けー」
シュパァァァァァッ!!!
「(ぎゃ、ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? 何だ、この魂を焼かれるような光の雨はぁぁぁ!? 溶ける! 我の魔力が、存在が、純白に塗り替えられていくぅぅぅ!!)」
魔王は、スプレーを浴びた瞬間、地獄の業火よりも熱い「浄化の洗礼」にのたうち回った。
彼が纏っていた禍々しい鎧は一瞬でピカピカの銀色になり、角はポロリと取れ、あろうことかその表情からは邪悪さが消え去り、まるで仏のような穏やかな顔つきに変わっていく。
「お、効いてるな。やっぱり田舎の虫には、自然由来の成分が一番だな」
ソラは満足げに、全力で逃げ惑う魔王に、さらに追い打ちのスプレーを浴びせた。
「ちょっとぉ! ソラくん、外で何してるのよ! 騒がしいわね……って、ひぇぇぇ!?」
騒ぎを聞きつけてパジャマ姿で飛び出してきたユウナが、庭の惨状を見て白目を剥いた。
そこには、純白の光に包まれて「……我は、何のために戦っていたのだろう……」と悟りを開いたように跪く、魔界の王がいた。
「そ、ソラくん! 今、あそこにいたの、魔王ゼノンよね!? 勇者が百人がかりでも勝てないっていう、あの終焉の魔王よね!? なんで洗濯物みたいに真っ白になって拝んでるのよぉぉぉ!!」
「あ、ユウナさん。おはよう。いやぁ、なんか新種のデカい害虫がいたから、特製スプレーで追い払ってたんだ。まぁ、大人しくなったからいっか。なんとかなったし」
「そのスプレー、ちょっとワタシに触れただけで浄化されすぎて実体が消えちゃうわよ! 女神としての存在が、あまりの高貴さに耐えきれなくて昇天しちゃうわよぉぉぉ!!」
ユウナは、ソラが持っている百円ショップの霧吹きのような容器を見て、ガタガタと震え出した。
「(……お、おお……。これこそが、真の救済……。我は、この御方の『庭掃除係』として、余生を過ごしたい……)」
「あ、なんか虫が懐いちゃった。ユウナさん、この虫、掃除くらいは手伝ってくれそうですよ。ま、いっか。住民が一人増えたと思えば。なんとかなるか」
「虫じゃないってば! 魔王よ! 威厳も何もない魔王が、今、ソラくんの靴を磨こうとしてるわよぉぉぉ!!」
こうして、ソラの村には、二人目の住民(という名の雑用係・魔王)が加わった。
世界を滅ぼすはずの魔王が、エプロン姿で庭の落ち葉を拾う光景を見ながら、ユウナの「ツッコミ」が止まる日は、まだ当分先になりそうであった。
徐々に住人が増えてきました(笑)
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