第18話:勇者帰還? 隣国の姫と泥だらけの英雄
「はざま村」の入り口に、場違いなほど豪華な騎馬隊と、金装飾が施された馬車が停まった。
馬車から降り立ったのは、隣国ロザリスの第一王女、プリシラ。彼女は「魔王討伐の旅」に出たきり、辺境の村で消息を絶った(と国では思われている)勇者アレンを連れ戻しに来たのだ。
「ああ、アレン様……! きっと恐ろしい魔物に捕らわれ、過酷な労働を強いられているに違いありませんわ! 今すぐお助け……」
プリシラ姫が涙ながらに叫ぼうとしたその時、目の前を一人の男が通りかかった。
泥だらけの作業着に身を包み、両手に山盛りの「邪神のぬか漬け(キュウリ)」が入ったザルを持った男——アレンである。
「お、重てぇ……。おいゼノン、お前も半分持てよ! ぬか床の魔圧が強すぎて、腰が抜けそうなんだよ!」
「チチチッ(……ふん、軟弱な勇者め。我は今、ソラ殿から頼まれた『世界樹の枝の剪定』で忙しいのだ)」
「……ア、アレン様……?」
プリシラ姫の震える声に、アレンが足を止めた。
「……げっ。プリシラ!? な、なんでこんなところに……」
アレンは慌ててザルを置き、土を払ったが、時すでに遅し。
プリシラ姫は、アレンの背後にそびえ立つ「巨大な三首の番犬」を見て、悲鳴を上げた。
「ひっ……! め、冥界の番犬ケルベロス!? やっぱり、アレン様はこんな恐ろしい魔物の監視下に……! 騎士団、構えなさい!」
「待て待て待て! 違うんだプリシラ! ポチはただの番犬で……ほら、今はブラッシングされて寝てるだけだから!」
そこへ、家の中からソラがのんびりと顔を出した。
「アレンさん、どうしたんですか? お客さんですか?」
「あ、ソラさん。ああ、ちょっと昔の知り合いが……」
プリシラ姫は、ソラを一瞥して「この男がアレン様を奴隷にしている黒幕ね!」と勘違いし、剣を突きつけた。
「無礼者! アレン様を解放しなさい! 勇者は国の宝、このような僻地でキュウリを運ばせて良い御方ではないのです!」
「……え? アレンさんが勇者?」
ソラはキョトンとして、アレンの泥だらけの姿を見た。
「あぁ、なるほど。アレンさん、以前は『勇者』っていうコスプレイベントの仕事をされてたんですね。それで、ファンの方が迎えに来ちゃったんだ」
「(……コスプレじゃねぇよ!! 本職だよ!!)」
アレンの脳内ツッコミが虚しく響く。
「とにかく、立ち話もなんですし、お茶でもどうぞ。ユウナさん、エルナさん、お客さんですよー」
ソラの呼びかけに、家の中から二人の女性が現れた。
その瞬間、プリシラ姫と騎士団は、文字通り石のように固まった。
「……な、何かしら、この神々しい女性は……? 美しすぎて、私の王女としてのプライドが粉々になるんだけど……」
「(……聖女エルナ様!? なぜ王国の至宝である聖女様が、ここでエプロン姿でおにぎりを握っているのですか!?)」
ユウナは優雅に髪をかき上げ、エルナは慈愛に満ちた(しかしどこか狂信的な)笑みを浮かべていた。
「あら、アレンのファンかしら? ちょうど良かったわ、今から『10円自販機』の新商品発表会をするから、見ていきなさいよ」
「ソラ様が作られたおにぎり、一口食べれば、あなたの貧弱な魔力も聖域級に跳ね上がりますわよ?」
プリシラ姫は、あまりの異常事態に頭が追いつかなかった。
伝説の魔王が庭を掃き、古龍がバーベキューの火を起こし、海竜が噴水のように池で遊んでいる。
そして勇者アレンは、それらの化け物たちを相手に、ごく自然に「ツッコミ」を入れているのだ。
「ア、アレン様……ここは、一体……」
「……ここはな、プリシラ。世界で一番平和で、世界で一番『常識』が通じない場所なんだよ。俺は……ここでキュウリを運んでる方が、世界を救う旅よりずっと『生きている』実感がするんだ」
アレンの言葉は、かつてないほど晴れやかだった。
結局、プリシラ姫は連れ戻すのを諦めた。
というより、ソラが振る舞った「リヴァイアサンの西京焼き」、「10円自販機の魔力増強コーラ」を口に含んだ飲んだ瞬間、彼女の価値観は完全に崩壊した。
「……美味しい。……アレン様、私もここに住んでいいかしら? 王宮の食事より、ここの『ぬか漬け』の方が、細胞が活性化する気がするわ……」
「(……おい、王女までダメになっちゃったよ!! ロザリス王国の未来が!!)」
ソラは、そんなアレンの絶望をよそに、ニコニコと微笑んでいた。
「アレンさん、お友達と仲直りできて良かったですね。ま、なんとかなるもんですね」
「……ソラさん。なんとかなってないんだよ、色々と。……まぁ、いいけどさ」
アレンは、馬車を見送ることもなく、再びキュウリのザルを持ち上げた。
勇者としての栄光よりも、この非常識で温かい「日常」を守ること。それが今のアレンの、唯一にして最大の使命となっていた。
隣国の姫をも魅了(あるいは胃袋を掴んで制圧)してしまった「はざま村」。
その平和な(?)一日は、今日も賑やかな魔言の合唱とともに暮れていくのだった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。
ついに登場したプリシラ姫!
実は……彼女が例の「ぬか漬け」をボリボリ食べている衝撃の具現化画像を、活動報告にて公開中です(笑)。
格式高い姫君の「陥落の瞬間」を、ぜひその目で確かめてみてください!
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3030454/blogkey/3604071/




