第14話:伝説の海竜、西京焼きとペットになる
「はざま村」の庭にある、ソラ自慢の池。そこには最近、困った問題が発生していた。
「うーん。アレンさん、見てください。うちの池の金魚、最近ちょっと育ちすぎじゃないですか? ほら、あそこ。水面から角が生えてますよ」
ソラが指差した先には、池の面積の半分を占拠する巨躯、蒼玉のように輝く鱗を持つ伝説の海竜『リヴァイアサン』がいた。彼がひとたび尾を振れば、津波のような飛沫が上がり、周囲の木々を濡らしている。
「……いや、ソラさん。あれ、金魚じゃないから。世界を飲み込むと言われる『終焉の海竜』だから! 角っていうか、あれは雷を操る魔導角だよ!!」
勇者アレンは、膝まで水に浸かりながら絶叫した。彼の『万能翻訳』には、リヴァイアサンの傲岸不遜な咆哮が届いている。
『……ククク……。この地の霊水、我が住処に相応しい……。人間ども、我を崇めよ。さもなくば、この村ごと大海に沈めて——』
「(……ひえぇぇ、めちゃくちゃ脅してる! 海に沈めるって言ってるよ!!)」
アレンが震え上がる中、池の縁で洗濯板を使っていた元魔王ゼノン(チッチさん)が、不機嫌そうに「チチチ」と鳴いた。
「……チチッ。(騒々しい魚だな。ソラ殿、あいつは身が締まっていて美味そうだぞ。……焼き魚にすれば、少しは静かになるのではないか?)」
「あ、チッチさんもそう思います? ちょうど今夜のおかずに困ってたんです。……よし、一本釣りして、今夜は『西京焼き』にしましょう!」
ソラは物置から、特製の「釣り竿」を取り出した。
それは、世界樹の枝をしならせ、糸には『万象創造』で編み上げた「絶対に切れない不可視の糸」を張った、ソラ基準の釣具である。
「はい、ポチ。餌のキュウリ(邪神のぬか漬け)を投げてくれますか?」
「ガウッ!」
ふわふわになった三首の番犬ポチが、三つの口で器用にキュウリを池の中心へ放り込んだ。
『……フン、我を餌で釣ろうとは……。ん? ……な、なんだこの芳醇な香りは!? このドロドロとした闇の力(邪神の魔力)……美味そうだ……!』
リヴァイアサンが、プライドを捨ててキュウリに飛びついた。その瞬間、ソラが竿を引き上げた。
「かかりました! 意外と引きが強いなぁ。……よいしょっと!」
ソラが軽く手首を返した瞬間、池の空間そのものが歪んだ。
スキル【万象創造】——の、因果逆転・強制収束。
『……なっ!? ぐ、わぁぁぁ! 逃げられん……!? この糸、私の魂ごと引き寄せて……死ぬ! このままでは、本当にまな板の上に乗せられる!!』
死の恐怖を感じたリヴァイアサンは、究極の生存本能を発動させた。
秘奥義『身代わり脱皮』。
自らの魔力と肉体の九割を「最高級の切り身」としてその場に残し、本体の魂だけを最小サイズまで圧縮して逃れる、伝説の逃走術である。
「おや?」
ソラが釣り上げると、そこには——。
リヴァイアサンの姿はなく、眩い光を放つ「巨大で肉厚な白身の切り身」が、十数枚ほど空から降ってきた。
「わあ、親切なお魚ですね! 釣り上げられる直前に、自分でおろして『切り身』だけ置いていってくれたみたいです。……あ、見てください。本体はあんなにスリムになっちゃって」
池の中に残っていたのは、手のひらサイズの、青くて可愛らしい「小さな竜(の姿をしたトカゲのような魚)」だった。
「ピピピ、ピピピッ……!(……命拾いした……。我が肉体の九割を失ったが、命さえあれば……。というか、あのキュウリ、もう一口欲しかったな……)」
「あ、ピピピって鳴きましたね。体が軽くなって嬉しいのかな? よし、君の名前は今日から『ピピさん』です。池の浄化係として、ここで仲良く暮らしましょう」
「……待て待て待て! 自分の身を捧げて命乞いした奴を、そのまま飼うのかよ!!」
アレンのツッコミを無視して、ソラはホクホク顔で切り身を回収した。
「よし、チッチさん、アカさん! この切り身を、昨日作ったぬか床とお味噌で漬け込みますよ!」
その日の夕食。
「はざま村」の食卓には、香ばしい香りを漂わせる「海竜の西京焼き」が並んでいた。
「……あ、美味しい。身がプリプリしてて、口の中でとろけますね。ま、なんとかなるもんですね」
ソラが幸せそうに箸を動かす。
その横で、アレンは震える手で「伝説の海竜(の切り身)」を口に運んだ。
「……っ!? う、美味すぎる……。全身の魔力が、海のように深く穏やかに満たされていく……。これ、一口でレベルが百くらい上がるやつだろ……」
「あら、本当に美味しいわね。美容にも良さそう!」
女神ユウナがパクパクと食べ、聖女エルナは「神の恵みに感謝を……」と涙を流しながら完食している。
ふと窓の外を見ると、庭の池では、新入りの「ピピさん」が、ポチ(番犬)と仲良く並んで、おこぼれのキュウリを食べていた。
「ピピピッ!(……美味い。切り身になった甲斐があったというものだ)」
「ポポポッ!(……お前、意外と適応能力高いな)」
「チチチッ(……ふん、新入り。池の掃除をサボるなよ)」
アレンは、窓の外で繰り広げられる「魔言(鳴き声)の合唱」を聞きながら、静かに遠い目をした。
「(……門番がケルベロス、庭に魔王と古龍、池にリヴァイアサン……。そして、それらを全部『ペットか肥料か食材』だと思ってる家主……)」
世界最強の軍隊ですら一分で全滅するであろうこの村は、今日もソラの「無自覚」という名の、何よりも強固な結界に守られていた。
「ピピさん、お水が汚れたら教えてくださいねー」
ソラののんびりした声が響き、ピピさんが「ピピピッ(了解です、ご主人様!)」と元気に跳ねる。
「はざま村」に、また一つ、新しい「平和」が定着した一日だった。
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ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。
【お知らせ】
「無事に救出されました!イケメンに戻ったアレンをぜひ見てあげてください」
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