表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

第13話:番犬ポチの、三つの首と一つの悩み


「はざま村」の朝は、賑やかな「おはよう」の声から始まる。

村の入り口にある大きな犬小屋(とソラが呼んでいる神殿のような建物)の前で、ソラは特大のボウルに「特製ペットフード」を盛り付けていた。

「ポチ、おはよう! さあ、朝ごはんですよ。みんな喧嘩しちゃダメですよ」

ソラが呼びかけると、そこには全長五メートルを超える巨躯、漆黒の毛並みに鋭い爪、そして不気味に蠢く三つの首を持つ冥界の番犬『ケルベロス』がいた。

しかし、その首にはそれぞれ、ソラが手作りした可愛らしい「水玉模様の首輪」が巻かれている。

「(……なぁ、ゼノン。俺、さっきからポチが『神話級の猛毒のヒュドラ・ブレス』を吐き出しそうになってるのを見たんだけど、気のせいか?)」

勇者アレンは、縁側で朝茶を啜りながら、隣の元魔王チッチさんに囁いた。

ゼノンは面倒そうに、箒の手を休めて「チチチ」と鳴く。

「……チチッ。(気のせいではない。昨夜、ポチは村の近くをうろついていた低級悪魔デーモンの群れを、一口で炭に変えていたからな。……ま、ソラ殿の前では、ただの『落ち着きのない多頭犬』だがな)」

ソラの視点では、ポチは「少し喉を鳴らす癖がある、食いしん坊な三首のワンちゃん」に過ぎない。

「ほら、右のポチ、左のポチを押し退けちゃダメでしょ。真ん中のポチも、ゆっくり食べなさい」

ソラは、一つの体に三つある首を、あたかも「三匹の別の犬」であるかのように扱い、それぞれの頭を順番に撫でていく。

「グルルゥ……(……至福。この御方の撫で方は、魂の根源まで癒やされる……)」

「ガウッ!(……真ん中だけずるい! 俺ももっと強く撫でてくれ!)」

「クゥーン……(……あぁ、この手に撫でられるなら、冥界の門番など、今すぐ辞めてやる……)」

アレンの『万能翻訳』には、地獄の番犬たちの「職務放棄」に近いデレデレな本音が筒抜けだった。


そこへ、ソラのポケットからトカゲの姿をした古龍アカさんが顔を出した。

「ポポポ、ポポッ!」

「あ、アカさん。おはよう。ポチの毛並みが気になるって? 確かに、最近少し毛艶が悪いかな。やっぱり野山を駆け回るから、汚れちゃうんですよね」

アレンの脳内では、アカさんの言葉が別の意味で響く。

「……ポポポッ。(おい、三つ首。お前の左の頭、昨日食べた悪魔の魔力が少し残ってて、焦げ臭いぞ。ちゃんと浄化しておけ)」

それに対し、ポチの左の頭が「ガウッ!」と、『うるさいトカゲめ、焼き殺すぞ!』と返すが、ソラは「あぁ、仲良くお喋りしてますね」と微笑んで、物置から特大のブラシを取り出した。

「よし、今日は『ポチの丸洗い』の日です! アレンさん、手伝ってください!」

「……えっ。いや、俺が!? あの、触れただけで魂が凍りつくと言われるケルベロスの毛並みを、俺が洗うの!?」

「大丈夫ですよ。ポチは大人しいですから。さあ、お湯を沸かしましょう!」


ソラは庭に置いた特大の鋳物いもののタライに、なみなみと水を張った。

そこに、ポチを「お座り」させる。

「ポポポォッ!(……よし、着火は任せろ。古龍の火で、最高の湯加減にしてやる!)」

アカさんが小さな口から、超高熱の『原始の炎』を吹き出す。タライの水は一瞬で沸騰し始めた。

「わぁ、アカさん。いい火加減ですね! 助かります。さあポチ、お風呂ですよ」

「……待て、今の温度、数千度はあるだろ! 石油王でも入らないぞ!!」

アレンの絶叫を無視して、ポチは「ヒャッホォォォウ!」と言わんばかりの勢いでタライに飛び込んだ。

「グルルゥ……(……あぁ、この温度、冥界の最下層を思い出すぜ。極楽だ……)」

ソラは、伝説の武器である「聖なる金槌」の柄の部分に、特製の石鹸(邪神のぬか床から抽出した発酵成分入り)をつけて、ポチの背中をゴシゴシと洗い始めた。

「ポチ、お利口ですね。……あ、耳の後ろに『黒い汚れ』が溜まってますよ。ほら、綺麗にしましょうね」

ソラが擦るたびに、ケルベロスの体から「呪い」や「怨念」といった邪悪なエネルギーが、『ただのフケ』のようにポロポロと剥がれ落ちていく。

「(……おい、ゼノン。今、ポチから剥がれ落ちたあの黒い塊、あれ一つで小国が滅びるレベルの呪詛だよな?)」

「……チチチッ。(心配するな、ソラ殿が今、肥料として土に埋めた。来年のナスは、さぞかし『魔力豊か』に育つだろうよ)」


「よし、仕上げに乾かしますよ!」

ソラは、物置から「特大の扇風機」を取り出した。それはかつて、ソラが「夏に涼むため」に作った、大気の精霊ジンを何十体も閉じ込めた(ソラ基準の)家電製品である。

スイッチを入れた瞬間、村一帯に猛烈な暴風が吹き荒れた。

「わあぁぁぁ!? ソ、ソラさん、風が強すぎるって!! 木が、木が根こそぎ持っていかれる!!」

アレンが庭の柱にしがみついて叫ぶ。

「あはは、ポチの毛量が多いから、これくらいじゃないと乾かないんですよ! ほら、ポチ、気持ちいいでしょ?」

「ガウガウガウッ!!(……最高だ! 毛並みが……俺の誇り高き漆黒の毛が、天使の羽のようにふわふわになっていく……!)」

風が止んだ時、そこには——。

不気味な冥界の番犬ではなく、「綿菓子のようにふわっふわで、シャボンの香りを漂わせた、超巨大な黒柴犬」のような何かがいた。

「よし、綺麗になりましたね! 今日のポチは、一段と可愛いです。あ、エルナさんも見てください、ポチがふわふわですよ!」

「ま、まぁ……! ソラ様、この神聖な香り……ポチ殿から漏れ出る邪気が、完全に『芳香剤』に書き換えられていますわ! これぞ神の御業……!」

エルナが感動して祈りを捧げ、ユウナが「あら、ちょっと可愛いじゃない」とポチのふわふわな耳を突っついて遊んでいる。

「……ポポポッ。(おい、三つ首。調子に乗るなよ。お前、今なら俺のブレス一発で燃え尽きそうなくらい、隙だらけだぞ)」

「……チチチッ。(まぁ、良いではないか。今日は平和だ)」


その日の夕方。

門の前では、ふわふわになったポチが三つの首を仲良く丸めて昼寝をしていた。

ソラはその横で、ポチの体を「クッション」代わりにして読書をしている。

「やっぱり、ポチはいい子ですね。三匹(?)仲良しなのが一番ですよ」

アレンは、世界最強の防衛布陣(魔王、古龍、冥界の番犬)が、一人の青年の「勘違い」によって、ただの「賑やかな大家族」として機能している光景を眺め、深くため息をついた。

「(……ま、いっか。……なんか俺も、ポチの背中で昼寝したくなってきたな……)」

ソラの「ま、いっか」の魔法は、勇者の警戒心すらも、ゆっくりと、しかし確実に溶かしていくのだった。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。


本作の世界観をイメージした楽曲『ま、いっかの魔法 〜はざま村の日常〜』をYouTubeで公開しています!


https://youtu.be/NC5ZRXHX7eQ


【お知らせ】

本日、勇者アレンのビジュアルを活動報告にて公開しました!

……が、どうやらソラさんのスキル(と私の入力ミス)が暴走した結果、アレンがとんでもない姿で降臨してしまったようです。

脂の乗り切った「勇者」の姿、ぜひその目で確かめてみてください。

【キャラビジュ公開】勇者アレン、限界突破!?

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3030454/blogkey/3600450/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ