第11話:普通の村人(?)の能力測定
「はざま村」の朝は、ソラののどかな独り言から始まった。
「アレンさん、僕、気づいたんです。最近、うちの庭先に遊びに来る人たち……みんななんだか肩に力が入っているというか、ピリピリしてる気がするんですよね」
鏡の前で麦わら帽子を整えるソラを見て、アレンは死んだ魚のような目をした。
「(……いや、ソラさん。みんなあんたの規格外な行動にビビり散らかして、生命の危機を感じてるだけだよ……)」
しかし、アレンはそれを口に出さなかった。それを言うと、またソラから「お疲れなんですね、これでもどうぞ」と、伝説の聖剣を『光るマッサージ棒』にして肩を叩かれるハメになるからだ。
「きっと、僕が『ただの村人』だってことがはっきりしていないから、みんな『この家には何か恐ろしい罠があるんじゃないか』って、勝手に深読みして疲れちゃってるんだと思うんです。……そうだ! 隣町のギルドに行って、公式な『能力測定』を受けてきませんか? 僕が『平均的な村人』だって証明書をもらえば、みんなも安心して、もっとリラックスして遊びに来てくれるはずです!」
「……あ、あぁ。ソラさんがそうしたいなら、止めないよ(どうせ平均なんて出るわけないけど、一度現実を知ってもらうのもいいかもな……)」
「私も行くわ! 町で新作のスイーツをチェックしたいし!」
女神ユウナが、神々しいまでの美貌を揺らして名乗りを上げる。
「は、はい……。ソラ様が外界へ出向かれるのでしたら、このエルナ、どこまでも日傘係としてお供いたします……!」
聖女エルナは、なぜか「対・邪神用」の最高位防壁呪文を無詠唱で展開しながら立ち上がった。
こうして、ソラ、ユウナ、エルナ。そしてソラのポケットに潜り込んだアカさん(元・終焉龍)という、世界を更地にするのに十分すぎる一行が隣町へと出発した。
隣町「カザル」の冒険者ギルドは、石造りの立派な二階建てだった。
中に入ると、受付の女性が愛想笑いを浮かべた。しかし、ソラの背後に立つユウナとエルナの「圧倒的な存在感」を見た瞬間、その顔は引き攣った。
(な、なにあれ……!? あの金髪の女性、漏れ出ている聖なる力が強すぎて、ギルド中の魔力感知器が狂い始めてるわ! それに隣の女性……美しすぎて直視できないのに、本能が『逆らえば消滅する』って叫んでるんだけど……!)
「あ、あの……ご用件は……?」
「能力測定をお願いします。一番平均的な、村人のレベルを証明したくて」
ソラが屈託のない笑顔で答える。受付嬢は「……はい?」と首を傾げながらも、奥にある国家級の『魔力測定水晶』へと案内した。それは、一国の軍事予算を数年分つぎ込んだ、最新鋭の装置だった。
「この水晶にそっと手を触れて、少しだけ魔力を込めてください。無理をすると装置が壊れますから、本当に、少しだけでいいですからね?」
「わかりました。少しだけ……平均、平均……」
ソラは目を閉じ、周囲の冒険者たちの魔力値を『全知全能の解析眼』で読み取った。
(なるほど、平均はこのくらいですね。よし、極限まで抑えて……)
ソラは、自分の全魔力の『一兆分の一』程度を指先に込めた。
「ポポポ! ポポポポォッ!!(……待て! ソラ、その『一兆分の一』でも、この安物のガラス玉には耐えられん! 逃げろ!!)」
ポケットの中でアカさんが必死に警告を発したが、ソラの指先が水晶に触れた瞬間、すべては遅すぎた。
ピキッ。
「おや?」
水晶の中心に、ありえない密度の白光が凝縮される。次の瞬間、ギルド全体の魔力感知器が一斉に悲鳴を上げた。
「な、なんだ!? 魔力値が……測定不能!? 針が一周回って折れたぞ!? 嘘だろ、京、垓、……計算が追い付かない!!」
「あ、壊れちゃいましたか? 直しますね」
焦ったソラが、装置を『万象創造』で修復しようと手をかざした。
しかし、その善意の魔力が、飽和状態だった装置にトドメを刺した。
ドォォォォォォォンッ!!!
その日、世界中の魔力測定器が同時に一瞬だけ異常値を示したことを、まだ誰も知らない。
爆煙が収まった時、そこには何もなかった。
ギルドの立派な二階建ての建物も、頑丈な石壁も、受付のカウンターも。
ただ、ソラたちが立っている場所の周囲が、完璧なまでに平らな「更地」になっていた。
「…………えっ?」
ソラは呆然と周囲を見渡した。
地面にへたり込んだギルドの職員たちは、真っ黒焦げになりながら、自分たちの職場があったはずの「虚無」を見つめている。
「…………建物が、ない」
「僕らのギルド……ローンがまだ三十年も残ってたのに……」
泣き崩れる受付嬢を見て、ソラは激しい罪悪感に襲われた。
「あ、あわわ……! すみません! 装置が寿命だと思って触ったら、こんなことに……。皆さん、大丈夫ですか!? 怪我はないですか!?」
幸い、爆発の瞬間にエルナが反射的に聖域を展開し、ソラの魔力が「破壊」ではなく「消失(空間転移に近い現象)」を起こしたため、死者はゼロだった。しかし、職を失った職員たちの絶望は深い。
「ソラ様……。建物は消えましたが、爆風で町のゴミがすべて消え去り、地面が綺麗に整地されたようです。素晴らしい慈悲ですね」
「ちょっとエルナ、フォローになってないわよ」
ユウナが呆れたように言う中、ソラは拳を握りしめた。
「皆さん、安心してください! 僕、大工仕事は得意ですから! 今すぐ、以前よりもっと素敵なギルドに立て直します! 僕が責任を持って!」
「……は? 今から……?」
ギルド職員たちが呆然とする中、ソラの目が「超職人モード」に切り替わった。
「ユウナさん、買い物を後回しにして悪いんですけど、ちょっと手伝ってください! エルナさんは資材を運ぶための魔法をお願いします! チッチさんもアカさんもアレンさんも、総動員ですよ!!」
ソラは物置(空間収納)から、見たこともないほど輝く伝説の金槌を取り出した。
更地になったカザルの町に、今、異世界最強の「爆速リフォーム」の幕が上がる。
読んでいただきありがとうございます!
もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!
ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。




