表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

第10話:古龍、庭の「トカゲ」になる


「はざま村」の午後は、突如として夜のような闇に包まれた。

空を覆い尽くしたのは、数千年の眠りから目覚めた終焉龍『イグニール・ヴォルガ』。その巨大な翼が一煽りするだけで、山々が震え、大気が悲鳴を上げる。

『……オォォォ……。我が眠りを妨げた不届きな人間どもよ……。この地の魔力の揺らぎ、不愉快なり……。すべてを灰燼かいじんと化してくれようぞ!』

その咆哮は、本来なら世界を滅ぼす「滅びの言葉」である。

しかし、地上で池の泥をさらっていたソラは、空を見上げてのんびりと呟いた。

「おや、急に暗くなりましたね。……あぁ、なるほど。今日は『夕立ゆうだち』の予報でしたっけ。大きな雷(古龍の咆哮)だなぁ」

ソラの『全知全能の解析眼』は、伝説の古龍を「少し重たそうな雨雲と、迷い込んだ野鳥」として処理していた。

「(……っ!? バ、バカな……! 空を覆っているのは、神話時代の終焉龍だぞ! )ソラさん、あれは雷じゃない!!」

勇者アレンは、膝をガクガクと震わせながら叫んだ。彼の『万能翻訳』は、龍の言葉を『近所の頑固な地主の怒鳴り声』として脳内に響かせていた。

『……ひれ伏せ! 我が劫火ごうかですべてを焼き尽くし——』

「(……ひえぇぇ、めちゃくちゃ怒鳴ってる……! 土地の境界線で揉めてるのか!?)」

アレンがパニックに陥る中、隣で池の縁を黙々と磨いていた元魔王ゼノン(チッチさん)が、面倒そうに空を見上げた。

「チチチ、チチチチッ……!!」

「(……相変わらず騒々しいトカゲだな。眠っていたなら、そのまま永遠に寝ていればいいものを……)」

アレンの脳内に「近所の毒舌な隠居」のような声が届く。

すると、ソラがゼノンの方を向いて、親しげに頷いた。

「あ、チッチさん。やっぱりそう思います? 最近の雷は騒がしいですよね。……え? 『放っておくと苗が焦げる』? あぁ、確かに。せっかく植えたトマトがダメになったら大変だ」

「(……えっ……!?)」

アレンは固まった。ソラは今、ゼノンの「チチチ」という怪音を、長年連れ添った夫婦のような「あうんの呼吸」で完璧に理解したのだ。

「……ソ、ソラさん、今ので分かったのか!?」

「ええ。長く一緒にいると、なんとなくニュアンスで分かりますよ。チッチさんはいつも的確なアドバイスをくれますからね。……よし、じゃあちょっと静かにしてもらいましょうか」


ソラは、物置から一本の『古びた虫取り網』を取り出した。

それは以前に、ソラが「高いところの果実を採るため」に自作した、魔導金属を適当に編み込んだだけの(ソラ基準の)日用品である。

「ちょっと、静かにしててくださいねー」

ソラは、空に向かってひょいと網を振った。

スキル【万象創造】——の、空間圧縮発動。

『……なっ……!? が、はっ……身体が……収縮……ぐわぁぁぁ!?』

イグニールの絶叫。

数千メートルの上空を舞っていた巨躯が、ソラの網に吸い込まれるように収束し、みるみるうちに手のひらサイズの「赤いトカゲ」にまで圧縮されてしまった。

「よし、捕まえた。……おや、綺麗な赤いトカゲですね。珍しいなぁ」

ソラは、網の中でバタバタと暴れる「元・終焉龍」を指でつまみ上げた。

「ポポポ! ポポポポォッ!!」

『……や、やめろ人間! 我をこのような矮小な姿に……! 焼き殺して——』

アレンの耳には「虐げられた王の叫び」が届くが、ソラはトカゲの顔をじっと見て微笑んだ。

「あ、今『ポポポ』って言いましたね。お腹空いたって意味でしょ? わかりました、ちょっと待っててくださいね」

「(……えぇぇ……。今のは『焼き殺す』だろ……。ポポポってなんだよ……!)」

アレンが戦慄する中、ソラは最近作ったばかりの『邪神のぬか漬け(キュウリ)』の端切れをトカゲの口に放り込んだ。

「ポ、ポポッ……。ポポポォ……」

『……ムグッ!? ……な、なんだこの芳醇な……!? 全身の魔力が、強制的に再構築されていく……。う、美味すぎる……。我、もう戦うの面倒くさくなってきた……』

伝説の古龍は、あまりの「食の衝撃」に、あっさりと戦意を喪失した。

「(……嘘だろ。古龍がキュウリ一本で懐いたぞ……)」

アレンは、ソラの掌で大人しくなったトカゲを見て、乾いた笑いを漏らした。

「……チチチ、チチチッ。(案外、物分かりがいいではないか。ソラ殿、そいつは火を吹くから、冬場の暖房代わりにちょうどいいぞ)」

「あ、チッチさん。いいアイディアですね! 冬のストーブ代わりかぁ。……じゃあ、今日から君は『アカさん』ね。よろしく」

ソラは、古龍の誇りを木っ端微塵にするような安直な名前をつけた。

『(……ポポポ、ポポポッ。(……ア、アカ……? 我が……アカ……? ……まぁ、いいか。あの緑色のキュウリを毎日くれるなら、私はアカでもなんでも構わん……)』

アレンの脳内では、龍のプライドが「食欲」に敗北した瞬間が克明に翻訳されていた。

「あ、今『ポポッ』って言ったのは『ありがとう』ですね。礼儀正しいなぁ、チッチさんとも仲良くしてくださいね」

「チチチッ(……ふん、よろしくな、トカゲ)」

「ポポポッ(……あぁ、よろしく頼む、掃除番)」

アレンは、ゼノンの「チチチ」とアカさんの「ポポポ」が飛び交い、それをソラが「言葉が通じないはずなのに、なぜか会話を回している」という神業的(無自覚)なコミュニケーションを見せられ、ついに膝から崩れ落ちた。


その日の夕方。

「はざま村」の縁側では、あまりにも情報量の多い光景が広がっていた。

ソラが淹れたお茶を啜る横で、元魔王チッチさんが庭を掃き、新入りの古龍アカさんがソラの膝の上でマシュマロを食べている。

「(……なぁ、ゼノン。俺のギフト(万能翻訳)、もうこの村じゃゴミ同然なんだけど……)」

アレンが虚空を見つめながら呟く。

「……チチチッ。(アレンよ、案ずるな。お前には『ソラの無自覚を解説する』という、世界で唯一の仕事が残されているではないか……)」

「あ、アレンさん、何をボソボソ言ってるんですか? ほら、アカさんも『ポポポ(アレンさんも食べなよ)』って言ってますよ」

「……あぁ、そうか。……ありがとうよ、アカさん(……今のは絶対に『もっとマシュマロ寄こせ』だった気がするけど、もういいや……)」

アレンは、ソラの「超解釈」に合わせることを選んだ。それが、この村で正気を保つ唯一の方法だと悟ったからだ。

「さて、今日は新しい家族の歓迎会ですからね! 豪華にいきますよ!」

ソラの呼ぶ声に、魔王と龍が、尻尾と箒を揺らしながらキッチンへと向かっていく。

「ま、なんとかなるもんですねぇ」

ソラの「ま、いっか」の魔法にかかれば、どんな伝説の脅威も、ただの「賑やかな家族」の一部になってしまう。

はざま村に、また一匹(柱)、騒がしくも強力な住人が増えた一日だった。


読んでいただきありがとうございます!


もし面白かったら【★★★★★】やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


ソラくんの「ま、いっか」は、まだまだ続きます。


本作の世界観をイメージした楽曲『ま、いっかの魔法 〜はざま村の日常〜』をYouTubeで公開しています!


https://youtu.be/NC5ZRXHX7eQ


活動報告にて、ソラとユウナのキャラビジュを公開しました!ユウナ様がめちゃくちゃ美少女なので、ぜひ見てみてください!


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3030454/blogkey/3599284/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ