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母ちやん

〈冬隣地軸の歪み氣にもせず 涙次〉



【ⅰ】


関東地方の廣範囲に亙り、色々な場處で停電があつた。某日夜更けの事である。悦美は風呂に入つてゐた、と云ふ。ガス湯沸器なので風邪を引くやうな目には遭はなかつたが、何せ眞つ暗である。「じつと浴槽で(電燈が點くのを)待つてたら、のぼせさうになつたわよ」と云ふ。政府の發表では、A變電所に闖入者があつた為、と云ふ。カンテラには、その闖入者とはルシフェルである事、分かつてゐた。奴は、折角魔界の盟主に復帰したと云ふのに、側近逹のヘマ續き(前回・前々回參照)でぢり貧狀態、自ら對カンテラ戰に出馬せんと、エネルギーを補給してゐた、と云ふ譯。變電所の嚴戒な警備網を容易く薙ぎ倒す事が出來るのは、奴ぐらゐなものだ- このカンテラの讀みは当たつてゐた。



【ⅱ】


時軸母子の住むアパートも、停電した。母・思緒が蠟燭に火を點け、「魔界にゐた頃を思ひ出すねえ」-「あゝ、ルシフェル統治の頃は、奴がエネルギー・チャージする為に、夜中は每晩停電だつた」-「これ麻、ルシフェルなどゝ呼び棄ては駄目だやう」-「今更、『ルシフェル様』もないだらう。今、俺が仕へてゐるのは、カンテラさんだ。母ちやんも多分、癖が拔け切れないだけなんだよ」-「さうかしらねえ」-だが思緒の、ルシフェル・リスペクトの時代は終はつてゐなかつた。習慣、と云ふのは恐ろしいものである。



【ⅲ】


翌朝、カンテラは「開發センター」に行つた。色んな機器が電動で、然もタイマーで連動してゐるので、牧野は停電の後始末に大わらはである。悦美の焼いたクッキーを土産に、陣中見舞ひのカンテラ。牧野が珈琲を淹れて一休み。「いやはや、先の事が分からないつて怖いもんスね」-「それは何もきみだけに劃つた話ぢやないよ、フル」-見ると、時軸も手傳ひに狩り出されてゐる。

と、見るみる内に、晴れ空が掻き曇つた。「(やつこ)さん、早速お出ましか。フル、じろさんに急ぎ『センター』迄來るやう、連絡付けてくれ」-じろさんは今日はオフだつたが、已むを得まい。奴さん、とは勿論ルシフェルの事である。



※※※※


〈全くもうやゝ寒どころぢやないつスよ俳句ぢやカヴァー出來ない季節 平手みき〉



【ⅳ】


思緒には運の惡い事に、息子・麻之介から、庭掃除のピンチヒッターを頼まれ(丁度落ち葉の季節で、箒掛けは欠かせない)、「開發センター」迄來てゐたところに、ルシフェルである。ルシフェルは、カンテラの為彼女が働く姿を見れば、恐らく氣分を害するだらう。



【ⅴ】


じろさん到着。「ルシフェルだつて?」-「オフのところ濟まないね、じろさん。奴自ら出て來たんぢや、俺一人では防ぎ切れない」-と、思緒、「カンテラ様、此井先生、おはやうございます」-カンテラ「おつと、おつ母さん、ルシフェル來襲だよ。危ないぜ」-

と、雨が降つて來た。この季節には珍しく、遠雷が鳴つてゐる。「ルシフェルだ!」-「如何にも、俺だ。まづは裏切り者の処刑から」一陣の風が渦卷く。と、思緒の姿が消えた。「母ちやん!!」龍巻狀の風の中で、何が起きたかは分からない。が、じろさんが何とか彼女を抱き留め救出した時、彼女の躰は既に冷え切り、元【魔】とは云へ、生きてゐられる狀態ではなかつた。「麻や...」「母ちやん、母ちやん、俺ならこゝにゐるよ」



【ⅵ】


時軸、思緒のすつかり冷たくなつた、小さな手を握り締めた。「カンテラ様に良く盡くすんだよ。わたしや冥府とやらで待つてるからね。お前はなるべくゆつくり來るんだよ。ケホツ、ケホツ」-「母ちやん、死んぢや嫌だ」-だが無情にも思緒は事切れた。「母ちやん、母ちやん、母ちやあゝゝん!!」-「糞、こつちは一人殺られたか」カンテラ。Turbo!! Charged by 白虎 influence!!- 呪文を唱へ、白虎と合力。カンテラ臨戰體勢である。



【ⅶ】


「折角だが今日はこゝ迄だ。真綿で首を絞めるやうに、一人づゝ殺つてやる、ふはゝゝゝ」

時軸「畜生、畜生! 母ちやんを返せ!」-ルシフェル*「俺の知つてる麻之介は、そんなに聞き分けの惡い子ぢやなかつたぞ。ふはゝ。ぢやまた、諸君」

ルシフェルは雷雲と共に去つた-



* 當該シリーズ第35話參照。



※※※※


〈坂鳥が夕陽啄む為に飛ぶ 涙次〉



【ⅷ】


「麻、濟まない。おつ母さんを守り切れなかつた」-「畜生、ルシフェルめ」-時軸、涙でくしやくしやの顔を擡げて、「カンテラさん、俺に仇を取らせて下さい」。カンテラ、沈思黙考の後、「良からう」。

さて、次回時軸の復讐譚。氣合ひを入れなきやな、作者。ぢや、續くつて事で。また。


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