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第  十五 章 予兆 モルグ暗殺

 暗鬱な黒い皇帝は言った。

「死が喉を壓す。

 余は間もなく、死するであろう。シルヴィエの策略によって」

 側近のブルトゥスは困惑の表情を泛べた。モルグはその顔をじっと見続ける。まるで嘘がないか探るかのように。

 やがて、ブルトゥスは逮捕された。皇帝の前に引きずり出され、釈明する。

「陛下、私は無実です」

 シザエルが来た。

「証拠があります」

 シルヴィエとの取引の手紙を証拠として出す。

「見せてみよ」

 モルグはそれを一瞥すると、シザエルを逮捕、ブルトゥスを釈放した。

 護送されるシザエルをアウグストが刺殺し、出奔、神聖シルヴィエ帝国イータの下へ。

「よくぞ来た」

 そう言って、イータはアウグストを処刑する。

「ふ、裏切る者は再び裏切るであろう、今から処分しておけば後に憂いが減る」

 その知らせを聞いて、「裏切りの裏切りか、辣韭の皮のようだ」とスパルタクス皇帝モルグはつぶやく。



 その晩のことであった。

 モルグが就寝前の酒杯を渡された時、それが毒の杯であることに気がつく。

「これをそちが飲め」

 側近の薬師ヤルムークは慌てた。

「いや、皇帝陛下、それは」

 その時、事が露見していることを察した警護と、警護を見張る見張りと、それを見張る見張りと、それを見張る見張り、それぞれに二名ずつで、計八名いる。彼らがモルグを襲って惨殺した。

 黒き皇帝は斃れる。


 

 イータ皇帝は自らを囲繞し、自らを荘厳する、聖の聖なるコレクションの過剰の上にも過剰なる、繁文縟礼を眺めた。

 秘儀のために配置された、天然宇宙の理に適った美しき配置。コプトエジャの学者たちが描くヒエログリフ、忘れ去られた砂漠の魔法陣、天文の精密なる科学、いにしへの数学、聖なる真咒による精緻細密なる大曼荼羅、聖杯や聖骸布、神秘なるルーン文字、法輪、経文、叡智の石、ウジャトの眼、天空の金剛石、蜥蜴の皮、十干十二支、六爻八卦、神官の祈祷、聖仙の詠唱。

 そして、リョンリャンリューゼン(龍梁劉禅=大華厳龍國)のラヲタヲが作った迦楼羅の太極図。

 世界の最高の叡智のすべてがここにあった。

「すべてが黄金に変わるであろう。聖者イヰの真義が全うされる」

 幻のように、少年のような少女のような若々しい神が現れ、皇帝は膝真突き額突く(叩頭く)。

 神は言う、

「私を顕現させよ。その時、真義が世界に聖なる悦びを謳うであろう。

 見よ、私こそは究竟の真義」

 細くすらりと伸びた四肢は初々しく、未だ熟さぬ青き林檎、生硬くもあり、又は()()めの新たな芽のような柔らかさもあり、華奢な生命に生き生きと、繊細であった。

 イータはさらに平伏した。

「御心のままに」

 未だ顕現しない幻の神は言う、 

「完成は近い、疾く行え、良き知らせを、速やかに我が耳に」

「この世で最も崇高なる使命、必ずや果たします」

 神の(いら)えはなく、ただ沈黙があって、(こうべ)を上げれば既に去っていた。



 去った後、皇帝は水盤を覘く。 

 大理石の盤は水面にシルヴィエ軍を映す。大航空母艦。ジェット戦闘機。聖イヴァント山の銀嶺。龍の背。そして、異様なランドマークとも言える龍肯の砦。それらが映し出される。

「これでよい。後は、その瞬間を待つ丈だ」

 

 

 弩と大砲で、ジェット戦闘機を墜とす訓練。動体視力と予測能力を鍛える。リヨンが指揮した。

 必然的に彼は龍の背のように連なる嶺の砦に布陣することとなる。ジェット戦闘機が奇跡を起こして嶺を超えた場合は最前線であった。

 そこにはガリオレもつく。彼独自の希望で、

「すべてを俯瞰できる高い位置で、我が建築の崩壊を見たい」

 というものであった。建設にあたっての最大の功労者の奇妙な願望は速やかに叶えられる。反対する者は誰もいなかった。

 かくして布陣は、上の砦にこの二人の指揮官を配し、イユ、イリューシュ、エリイ、リンレイ、アガメムノン、マハールーシャ、リカオンなどは皆、龍肯の城砦の中央にあたる、神象の聖堂がある砦を囲んで陣を構えることとなった。

 マコトヤとユリアスは最下部、峡谷に作った港に研究室を構えた。

 アカデミアの兵部卿、イミリヤを統治する司教にして大将軍のイースが兵糧と五千人の兵士を送り込んできた。 

 さらには、アカデミアのユリイカの取次で、クラウド・レオンドラゴ連邦と連携することとなる。

 連邦の代表であるアンカと統合大臣であるエリコが兵糧と大砲二百門、二万の兵士を送ってきた。

 人口は一気に倍増したが、ガリオレが十万人都市として造っていたため、収容可能であった。



 イリューシュがしみじみイユに言う。

「何だか途方もないところまで来ちまったな。二人っきりだった頃が懐かしいぜ」

 彼に他意はなかったが、イユは頬を染めた。イリューシュは複雑な思いで、何かをかなぐり捨てるように、ぐいっと顔を背けて眼を伏せた。



 でも、いつかは訊いてみなくては。確かめなくてはならない。

 

  


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