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 第九章 ダイヤモンド家の執事ヌルヒチのたくらみ

 ローラ号がレイクシティにまぎれこんだのちの話だ。アリエとオヨネとツタの三人はレイクシティの牢にほうりこまれた。王宮を取りかこむように建つ十本の塔のひとつだった。五階の一室に三人はとじこめられた。中年女と少年ふたりだからか待遇は悪くない。濡れた服のかわりをあたえられて食事ももらった。死刑になるおそれはないようだ。

 食事を食べ終えたとき牢番がやってきた。

「オヨネ出ろ。身元引受人がいらっしゃった」

 オヨネが首をかしげる。そんな心あたりはない。

「身元引受人? 誰?」

「おれが知るもんか。そう言えと命令されただけだ。早く出ろ」

「ボクひとり?」

「そうだ。オヨネだけをつれて来い。そう命令された。これ以上は質問しないでくれ。おれはここを見張って囚人を出し入れするだけだ。それ以外はなにも知らされてない」

 牢番がこまった顔をしてオヨネが牢を出た。牢番がオヨネをつれて行く。

 ツタはアリエと顔を見あわせた。だがなにもわからない。身元引受人に心あたりはない。

 オヨネは塔の一階におろされた。縄は打たれていない。

 塔の一階にある面会室でふたりの男がオヨネを待っていた。ひとりはダイヤモンド家の執事ヌルヒチ四十歳だ。もうひとりはムーア・ムーンストーン三十歳だった。ムーアはオヨネいやターニャ・ダイヤモンドの婚約者だ。

 オヨネはびっくりした。

「な? なんであんたたちがこんなところにいるわけ?」

 執事のヌルヒチが身を乗り出そうとしたムーアを押さえた。

「それは私どものセリフですターニャお嬢さま。ご結婚をすっぽかしてなにをやっておられるのです? 聞けば海賊どもといっしょに海賊船に乗ってたというではありませんか? お嬢さまは五公家筆頭ダイヤモンド家のひとり娘なのですよ? 海賊といっしょに行動するとはなんとなげかわしい」

 オヨネはうんざりした。ヌルヒチのこういうところががまんできない。

「はいはい」

「はいはいじゃありませんよまったく。とにかくお嬢さまには結婚していただきます」

「えー? やだよぉそんなのぉ」

 ヌルヒチがうしろに引っこんだ。かわりにムーアが前に出る。

「おれと結婚しろターニャ」

 オヨネはそっぽを向く。

「やーだね」

 ムーアがふふふと笑った。トカゲみたいないやな笑みだ。舌がふたまたにわかれているのではないかとさえ思う。ムーアは広大な大陸の五分の一弱を支配する公国のひとり息子だ。本来なら結婚相手にはこまらない。そのムーアが三十歳にもなって結婚できないのはゆがんだ性格だからだ。昆虫や動物をバラバラにして喜ぶ変態だった。うわさではすでに女を何人も殺してバラバラに解体したという。女をバラしたうわさの真偽はさだかではない。しかしやっていても不思議はない。そう思わせるいやらしさをぷんぷん発散している男だ。

 そのムーアがもったいをつけた。胸を張っている。自分をえらく見せたいらしい。

「それなら牢の中のふたりを殺そう。海賊船に乗ってたんだ。海賊と見てまちがいない。海賊は斬首か縛り首とミッドナイト皇国の法律で決まってる」

 オヨネもふふふと笑う。

「バーカ。ここはレイクガルド王国よ。ミッドナイト皇国じゃないわ」

 ムーアが動じない。

「ははは。知らないのか? 一週間後にはレイクガルド王国はミッドナイト皇国の一部になる。四天王のひとり灰の王のイグドル・イルパが到着ししだい合併の調印式が行なわれる手はずになってるんだ」

「えっ? それ本当?」

「おれがウソをついてどうなるんだ?」

 オヨネは考えた。ムーアはウソつきだ。ウソをついてるに決まってる。

「ところでさムーア。どうしてあんたがこのレイクシティにいるわけ?」

「おまえと結婚するためだ。おれは結婚式場の予約と下見にきただけさ」

「はい? ああそうか。結婚の塔ね?」

「そのとおり。セントラル一世が結婚式をあげた塔で式をあげる。それが五公家同士の式にふさわしい。そうだろ?」

「そうかも」

「おまえが家出したから日取りは決まってなかったんだがな。見つかったから一週間後にしようと思う。イグドル・イルパも出席してもらえてちょうどいい」

 オヨネは引っかかった。

「ちょうどいいってどういうこと?」

 ヌルヒチがムーアとかわった。

「ミッドナイト皇国から除籍と結婚の認定書を発行してもらわないと五公家同士の結婚は成立しないのです。五公家を四公家にすると話がややこしくなりますからね。それで皇国は五公家同士が結婚して合併することを認めてないのですよ。ですからこの場合ムーアさまにはダイヤモンド家の入り婿になっていただかないとなりません。そのためにいったんムーンストーン家から籍をぬく。次にターニャお嬢さまと結婚をする。そのふたつを皇国から認定してもらって初めてムーアさまがダイヤモンド家の当主となられる。女性は当主になれませんからね。その認定書の発行をイグドル・イルパさまにおねがいしてあります。除籍はすぐですが結婚の認定書は結婚式から一年後でないと発行されません。偽装結婚ではないと確認するために」

「それでイグドル・イルパにワイロを贈った。そういうことね?」

「儀礼の範囲でございますよお嬢さま。ワイロなどと人聞きの悪い」

 オヨネはふと気づいた。

「ところでヌルヒチ。あんたはどうしてここにいるわけ?」

「お嬢さまを探しにきたんでございますよ。最初はお嬢さまを手配いたしました。けど手がかりがまったくつかめません。そこでハタと気づいたのでございます。ツタのほうが簡単に見つかるのではないかと。それでツタを探させました。すると報告がはいりました。ツタらしい女がこのレイクシティにいたと」

「だからここにいるわけ?」

「さようです。紅獅子号に乗っていた海賊たちは全員水死しましたよお嬢さま。海賊ごっこはもうおやめになってください」

 これは真実ではない。海軍がそう報告しただけだ。船長たちが見つからないのは溺死して湖にしずんだせいだと解釈して。実際はローラに助けられてレイクシティ内に潜伏中だ。しかしオヨネにそんな事情はわからない。あの包囲網から船長たちが逃げられたと思えないオヨネだった。オヨネは叫ぶ。

「ウソ! ウソよそんなの!」

 けど本当だと心のどこかで思っていた。

「お嬢さま。このレイクガルド王国がミッドナイト皇国の一部になるのも本当でございます。灰の王イグドル・イルパほどの大物がわざわざこの小国にくるのですからね。牢にいるふたりが海賊として処刑されるのも遠い日ではありません。ここはひとつムーアさまと結婚されてあのふたりを助けられてはいかがですか? お嬢さまとムーアさまが結婚されれば牢にいるふたりもムーアさまの身内にできます。ツタはダイヤモンド家の身内ではありません。使用人です。五公家の身内でないと他国の牢にいる囚人を解放できません」 

「裏取引なわけ?」

「いえ。この国の法律にそうあるのです。他国の王室またはそれに相当する家の身内の犯罪はそれぞれの国に送り返すことで処理すると。簡単に言えば国外追放ですな。戦争になることをおそれているわけですよ。五公家は王室の一種とみなされます」

 オヨネはムカッときた。

「どうしてムーアなら身内にできてあたしじゃできないわけ? おなじ五公家じゃない?」

「ですからお嬢さまには当主の資格がございません。男性でないと。いまは男装をしておられるがそれではだめです。ムーアさまもいまは当主ではありません。お嬢さまと結婚して初めてダイヤモンド家の当主になるのですから」

「認定書がいるって言ってなかった?」

「正式にダイヤモンド家の所領を受け継ぐにはです。ダイヤモンド公国はミッドクロス皇帝からあずかってる土地。それを治める資格が認定書でございます。しかしここはレイクガルド王国。ムーアさまとお嬢さまが結婚式をあげればムーアさまが当主と認められます。レイクガルド王国における当主とミッドナイト皇国の認定する当主とは同一ではありません。それぞれの国で事情がちがうのです」

「ややこしいんだ」

「はい。なにせ大陸の五分の一を支配する家のことですのでね。庶民のように簡単にはまいりません」

 ううむとオヨネは考えた。

「じゃあのふたりを牢から出すにはムーアと結婚する以外にない。そういうこと?」

「そのとおりですお嬢さま。結婚式場の予約をすれば仮の夫婦と認められます。そうすればすぐにでもあのふたりを牢から出すことが可能です」

「そ。そんなに簡単なの?」

「結婚式場の予約と言っても出席者はこの国の王夫妻や皇国四天王のひとりです。五公家はこの国よりはるかに大きい。レイクガルド王国にとっては百年に一度もない巨大イベントになります。庶民の結婚式とは重さがちがいます」

「なるほど」

 そこにムーアが口をはさんだ。

「ターニャ。おれは牢番にカネをつかませることもできるんだぜ。おまえたちは晩メシを牢で食っただろ? おれが牢番にカネをつかませるよな? 牢番はおれの作ったメシを牢にはこぶ。もしもだ。もしもだぞ。そのメシに毒をいれたらどうなる?」

 オヨネの顔がまっ青にかわった。

「や。やめて。そ。そんなひどいことしないで」

「じゃおれと結婚しろ。それならあのふたりを牢から出す。結婚しないなら毒殺だ」

 オヨネはうつむいた。涙が石の床に落ちる。

「わかった。あんたと結婚する」

「あんたじゃねえ。旦那さまと呼べターニャ」

 泣きながらオヨネは頭をさげた。

「だ。旦那さま。あたし結婚します。ですからあのふたりを牢から出してください。おねがいいたします」

「わかった。すぐにでも式場を予約しよう。今夜じゅうにあのふたりを牢から出してやる。おれは約束を守る。ターニャおまえも約束を守れよ」

「わ。わかりましたわ。だ。旦那さま」

 ヌルヒチとムーアがオヨネをつれて結婚の塔に向かう。一階で結婚の予約をいれた。話はすでに通っている。いつするかという点が決まってなかっただけだ。それがいま一週間後と決定した。国王夫妻や四天王まで出席する式だ。当日になってやめましたなんて言えるはずがない。

 王宮にすぐ伝令が飛んだ。アリエとツタが身内と認められて釈放の許可書が王宮からもたらされる。

 オヨネはその許可書を手に牢に向かおうとした。そのオヨネをヌルヒチがとめた。いまオヨネをツタとアリエに会わせてはならない。とつぜん気がかわっていっしょに逃げられてはこまる。せっかく結婚する気になってくれたのだから。

「お嬢さま。お嬢さまも罪人でございます。本来は国外追放の身。私が身元引受人になったので牢から出られただけのこと。勝手にレイクガルド国内をうろうろしてはいけません。お嬢さまはこれからドレス作りや式の手順の説明など用事が山ほどお待ちです。ツタと少年の釈放は私の仕事でございますよ。罪人が囚人を釈放なさってはレイクガルド王国に迷惑がかかりますのでおやめください」

「ということはツタとアリエも国外追放になるの?」

「本来ならそうです。けどツタは結婚式に参列させるのでしょう? お嬢さまとツタは一週間後の結婚式のあとダイヤモンド公国に帰ることになるでしょう。しかしアリエという少年は好きにさせればいいと思います。ただしお嬢さまが望むのであれば国外追放にしてダイヤモンド公国に強制送還いたしますが?」

「あ。いや。アリエは自由にさせてやって。おねがいヌルヒチ」

「かしこまりました。ではそのように。ちなみに当座の費用として十万ガルほど少年に持たせましょうか?」

「そうね。そうしてやって。無一文でしょうから」

 そこに結婚の塔の男女職員が数人あらわれた。説明書やドレスの見本帳を手に。オヨネとムーアをそれぞれつかまえる。結婚式までの一週間はとてもいそがしくなりそうなオヨネとムーアだった。

 一方でヌルヒチは牢に足をはこんだ。先にツタを牢から出す。結婚の塔でターニャお嬢さまが待っていると告げた。すぐに行って結婚式の準備を手伝えと。ツタは不審顔ながら結婚の塔に向かった。

 ヌルヒチはアリエの釈放についてすこし悩む。本来アリエは殺してしまうべきだ。ターニャお嬢さまは明らかにアリエに好意を抱いている。将来に不安を抱かせる危険分子は殺してしまえば話が早い。しかしヌルヒチはこう考えた。

 アリエに十万ガル金貨を持たせて解放する。相手は頭の軽い海賊だ。すぐに十万ガル金貨をつかうだろう。するとどうなる? 十万ガル金貨はあまり流通していない。一般に用いられるのは一万ガル金貨だ。十万ガル金貨を見たことがない国民も多いはず。片目の海賊小僧がめずらしい十万ガル金貨を買い物でつかう。そうなれば誰かが記憶するだろう。ターニャお嬢さまが街に出たときそのうわさが耳にはいる。ターニャお嬢さまは育ちがいい。約束はかならず守る。ムーア・ムーンストーンがふたりを釈放するという約束を守ればあたしも約束を守らなければと考えるはず。逆にアリエを殺してしまったと疑われてはなにをしでかすかわからない。ターニャお嬢さまは育ちはいいが性格がハチャメチャだ。

 ヌルヒチは一階の面会室でアリエと会った。いかにも海賊っぽいアリエの眼帯を見て名案を思いつく。

「ターニャお嬢さまの通報のおかげで紅獅子海賊団を壊滅させることができた。うちのお嬢さまにもあきれたものだ。男装して海賊船にもぐりこむのだからな。性悪海賊を全滅させると宣言したときは腰がぬけそうだったよ。結婚前に世のためになることをひとつしたかったそうだ。きみは十五歳の少年だから殺すのはしのびない。私がこっそり逃がしてあげよう。これは旅費だ。二度と海賊になどなるんじゃないよ。今度つかまれば死刑になるぞ」

 ヌルヒチが十万ガル金貨をアリエににぎらせた。

 アリエは話が見えない。

「ターニャお嬢さま? それ誰?」

「きみたちがオヨネと呼んでた少年だ。彼女はミッドナイト皇国五公家の跡取り娘ターニャ・ダイヤモンドさまだよ。私はダイヤモンド家の執事でヌルヒチ・ヌアクジだ」

「ウソ? ウソだろ? オヨネが女でしかもダイヤモンド家の娘?」

「いいや。本当だ。ウソだと思うならあした街に出てみたまえ。一週間後にひらかれるダイヤモンド家とムーンストーン家の結婚の話で持ちきりなはずだ。かわら版にターニャお嬢さまの似顔絵がのるだろう。ツタはターニャお嬢さまの乳母だよ。結婚式の準備にツタも街じゅうを駆けまわるはずだ。海軍に見つからないように街を観察すればいい。ただし結婚式には来ないほうがいいな。塔の上から下まで警備の兵士でいっぱいになる。なにせ国王夫妻と皇国四天王が出席するからね。ムーンストーン家の当主夫妻もくるはずだ。では早いうちにこの国を出なさい。結婚式までの一週間は軍も警備でいそがしい。けど手があけばまたきみをつかまえるだろうからね。きみは眼帯をしていて目立つからな。つかまれば紅獅子海賊団のように殺されるよ。すでに紅獅子海賊団は全員が殺された。ターニャお嬢さまのお手がらだ」

 アリエはヌルヒチに塔の外に追い出された。キツネにつままれた顔のアリエは浮かれる人々に押される。人波に流されて広場に着く。手に十万ガル金貨をにぎりしめて。

 広場はダイヤモンド家とムーンストーン家の結婚のうわさであふれていた。前回の市場にはなかった活気がある。夜だというのにどこも店じまいをしていない。ターニャ・ダイヤモンドと書かれた娘のドレス姿の絵を広場のあらゆる店員がながめていた。店員たちのざわめきがアリエの耳を打つ。世紀の結婚だぜ。五公家同士の結婚だとよ。セントラル一世以来の豪華な結婚式にするんだそうだ。国王夫妻や皇国四天王も出席するとさ。レイクシティは来賓だらけでこりゃかせぎどきだぞ。大もうけまちがいなしだな。ターニャお嬢さまのおかげだぜ。そんな声が。

 広場に蔓延したターニャ・ダイヤモンドの顔は見おぼえのある顔だった。ついさっきまでオヨネと呼んでいた顔。紅獅子号でいっしょに旅をした顔。忘れようのない顔だ。

 アリエは歯をかみしめた。オヨネが紅獅子海賊団を全滅させたなんて。そんなのウソだと信じたい。しかしダイヤモンド家の執事を名乗った男の言葉は本当だった。オヨネはターニャ・ダイヤモンドだ。ミッドナイト皇国一広い領土をほこるダイヤモンド家のひとり娘。アリエはもうウソだと否定できない。オヨネがとても遠くに行ってしまった気がする。

 アリエはなにを買うでもなくぼんやりと歩いた。オヨネの顔だらけの市場を。

 そんなアリエを女の声が呼びとめた。

「あなたアリエじゃない?」

「オヨネ?」

 ふり返ったアリエの見た女はローラだった。ローラが不思議そうにアリエを見ている。

「どうしてアリエがこんなところに? 軍につかまったんじゃなかったの?」

「釈放された。いや。釈放してもらった。ダイヤモンド家の執事っておっさんに」

「ダイヤモンド家の執事? どうしてそんな人がアリエを釈放するわけ? アリエってダイヤモンド家の関係者なの?」

 アリエは顔をしかめた。苦い思いが胸の奥から突きあげる。いかりがとめられない。

「おれじゃない! オヨネだ! オヨネがダイヤモンド家のひとり娘だったんだ! オヨネのやつが裏切りやがった! あいつ最初から紅獅子海賊団を全滅させる目的で近づいたんだぜ! 男に化けてな! 船長! コニカール! ハンマー! ナツメグ! 七つ子! みんなみんな死んじまった! オヨネのせいでだ!」

 ローラがアリエの肩に手を置いた。

「そうなんだ。街でうわさになってるターニャ・ダイヤモンドってオヨネのことだったのね。でもねアリエ。船長たちは全員生きてるわよ」

 アリエはローラの顔を見た。

「ウソだろ?」

「ほんとよ。湖を泳いでたのをわたしが助けてたの。わたしえらい? いま近衛師団長のヨーゼフの実家にかくまってもらってるわ。アリエも行きましょう。夜食のおやつを買って王宮に帰るつもりだったけど予定変更ね。アリエをつれてったげるわ」

「本当に本当なのか? 船長たちが生きてるって?」

「行けばわかるわよ。ただエスエスが矢でケガしてるの。熱が出はじめたわ。エスエスはあぶないかもしれない。ほかにケガ人はいないんだけどね。あ。そうそう。ピペルネキャラコ三世もいっしょよ」

「サル吉もか!」

 アリエは安心した。同時に涙がこぼれる。この前レイクシティにきたときサル吉はいなかった。ローラがサル吉のことを知ってるのは紅獅子号が沈没したあとでサル吉に会ったからだ。ピペルネキャラコ三世の名を知っているということはローラがサル吉にサルと呼びかけたのだろう。

 ローラがふふふと笑う。

「わたしまさかしゃべるサルがいるなんて思いもしなかったわ。あんたたち妙な運命のめぐりあわせを生きてるみたいね」

 アリエもすこし笑えた。オヨネが裏切り者だったのはひどくこたえた。しかし船長たちが生きているならそれはうれしい。

 ローラに手を引かれてアリエはヨーゼフ家に向かった。やはり塔だ。ドアをたたくと中から声がした。近衛師団長のヨーゼフの声だ。いや。もと近衛師団長か。

「あい言葉を言え。サル吉と言えば?」

 ローラが答える。

「ピペルネキャラコ三世」

 ドアがあけられた。ヨーゼフがアリエを見て目を丸くする。

「アリエ! 釈放されたのか? 逮捕されたと聞いたが?」

 アリエという声に反応して多人数が階段を駆けおりてきた。エスエスをのぞく紅獅子海賊団全員が顔を出す。アリエの涙がとまらなくなった。


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