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私が転生したのは推しの敵役でした ~新旧主人公が仲良くなったなら~  作者: 北条S


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【48.ハドラーの魔導書】

 学校から歩いて十数分ほどの場所にある中央図書館についた頃には、リタはすっかり授業を受けた後のような気持ちになっていた。

 それでも話し足りなかったのか、目的地についたことに気が付いたウィルは、若干テンションが落ちたように見える。


「ここに隠してあるって噂だけど、具体的な場所は分からないんだ」


 図書館は木とガラスで出来たお洒落な建物だが、なにせ大きい。しかも七階建て。噂によると千五百万冊近くの本が置いてあるらしい。


「二人がかりでも、今日中には終わらないだろうな……」


 自分から言い出しておいて、ゲンナリした顔をするウィル。

 この建物の中を何のあてもなく探し回ることを想像すると、いくらハドラーのためとはいえ気が滅入ってしまうのも無理はない。しかも彼は休みのたびにそれを繰り返しているらしいから、その苦労も窺える。


「まあ今日は時間もあることだし、出来るだけ頑張ろうよ。手分けした方がいいだろうし、私は一階から三階を探すね」

「分かった。なら俺は四階から探そう……あ、でも一階の大半は既に調べ終えてるから、二階から始めてくれていいよ」

「了解」


 まくしたてるように言ってしまったが、ウィルは怪しむことなく頷いてくれた。

 そのまま図書館の中に入り、四階へ向かうウィルを見送る。


 わざわざ探す場所を指定したのは、リタには魔導書が置いてある場所の検討がついているからだ。

 ゲーム通りなら、三階の一番隅の本棚の、左から三番目。

 特に隠すこともなく普通に置いてあるのだが、よく今まで誰にも見つけられなかったものだ。よほどこの周辺の本は人気がないのか、タイトルの読めないボロボロの本なんて誰も気にならなかったのか。そもそも司書たちは館内の本を全て把握していないのか——まあ、これもご都合展開だから考えるだけ無駄かもしれない。

 

 お目当ての本を手に取ると、表紙には奇妙な文様と読めない文字が記されている。

 間違いない、ゲームのスチルで何度も見たことがあるハドラーの魔導書と全く同じものだ。


「……流石にこんなすぐに見つけたって言ったら、怪しまれるかな」


 ウィルならそれよりも真っ先に喜びそうだとも思ったが、怪しまれないようにある程度の時間をおいてから声をかけることにしよう。


 その前に一応、魔導書の中身がゲームと同じものか確認するため、開いてみる。

 日焼けでやや茶色くなったページには、手書きと思われる小さな文字が並んでいた。流石にゲーム内で全文が明らかにされているわけではないが、この魔導書には後世には伝えられていないハドラー独自の魔法や特殊な魔法も記されている、のだが。


「……さっぱり分からない」


 リタはホリエンの大ファンだが、さすがにこの世界の古代文字の知識まではない。

 なので内容は全く分からないが、とりあえず何となくゲームと同じっぽいことだけ確認して、本を閉じた。




 一階にある料理の本などを眺めながら適当に時間をつぶして、お昼前になった頃、リタは四階に向かった。

 家族連れ、老夫婦、若い男性女性など、色々な人達の中から探すこと数分、見慣れた黒い制服姿のウィルを見つけた。


「ウィル、それっぽいのが見つかったんだけど」


 声をかけると、本棚を凝視していた瞳がこちらに向けられる。


「本当か!?」

「これ。なんかすごく古い本みたいだし、文字も昔のもので全然読めなかったけど……絵とかなんかそんな感じかなって」


 どれどれと言いながら、受け取った魔導書に目を通し始めるウィル。


 ゲームの中で文章のみで軽く説明されるが、ハドラーの魔導書は彼が存命していた頃に「悪用されると危険な魔法も記載してある為、もしも今後悪魔に匹敵する人類の脅威が現れた時にだけ見てほしい」と友人に預け、その後は密かに持ち主を転々とし、最終的に何故かこの図書館の本棚に並ぶことになった。


 ちなみに数百年の間に何度か持ち主の手によって翻訳されている。ただ最後に翻訳されたのがかなり前らしいのでリタにはさっぱり読めなかったが、知識のある人なら十分に翻訳可能な範囲らしい、ゲーム曰く。


「信じられない……が、間違いない……これこそ彼の遺した魔導書だ!」


 ウィルは興奮したような声音で言った。確証もないのに断言できるのは、ファンの直感的なものなのか、単に願望からくるものなのか。


「やっぱり噂は本当だったんだ! リタ、君の運はすごいな! こんなに早くに見つけられるなんて、前世でどんな徳を積んだんだ!?」

「いやー、それほどのことは……」


 普段は落ち着いたイメージの強いウィルも、好きなものを前にはしゃぐ姿は年相応だった。


 嬉しそうなのは良いことなのだが、図書館では静かにするのがどの世界でも鉄則らしい。周囲の視線がこれ以上厳しいものになる前に、立ち去った方がいいだろう。


「とりあえずここじゃなんだし、外で話そうよ」


 リタの提案に、ウィルは上機嫌のまま頷いた。



◆ ◆ ◆



 約束通り、お礼に奢らせてくれ、良い店を知ってるんだ——そんな大人みたいなことを言ったウィルに連れられて来たのは、大通りから少し外れた場所にひっそりと建つ、古民家風の店だった。

 中に入ると、年配の女性が出てきて個室に案内される。


「ここは何を食べても美味い。ニコロにしか教えたことのない、俺のとっておきだ」

「ニコロとも来たことあるんだ」

「ああ。でもあいつは何を食べても基本的に美味いって言うから、食べさせ甲斐の無い奴だ。この間なんて、クラスの女子の作った石のようなマフィンを食べても美味いって言ってたよ」

「誰にでも優しいからねぇ」

「まあ、それが良いところでもあるが……」


 そんな話をしながら、リタはミートドリアとホットコーヒー、ウィルは海鮮スパゲティと紅茶、それから二人で取り分けて食べる用にサラダを一つ注文した。


 しばらくして運ばれてきた料理は、作り立てということを差し引いても、とても美味しかった。

 お腹がすいていたこともあり、思わずバクバクと食べ進めるリタを見て、ウィルが小さく笑う。


「君は食べ方も豪快なんだな」

「食べ方もって……他になにか豪快なとこあったっけ?」

「全体的にそうじゃないか。初日から決闘してる性格も、魔法の実力も。この間の実技の時だって、君の活躍はめざましかったよ」


 リタたちが魔法弾当てで白熱する間、ウィルは木陰で休みながらそれを見学していたのを思い出す。


「いや、私なんて全然。ウィルこそ出席すればよかったのに」

「俺は座って勉強するのは好きだけど、体を動かすのは苦手なんだ。疲れるし」


 勉強はそこまで好きじゃなくて、体を動かすのは大好きなリタとは真逆の考えだった。


「……そういえばあの授業以来、アイリはすっかり人気者だな」

「うん! ようやくアイリの魅力がみんなに正しく伝わって嬉しいよ」

「似たようなことを前にニコロも言ってたよ。君たちは大人だな」


 大人と言われた意味を図りかねていると、ウィルが言葉を続けた。


「ニコロもリタも、アイリのことが好きだろ。好きな相手と話す機会を別の相手に奪われるのは、嫌な気持ちにならないのか?」

「私はそれほど……同じ部屋だから完全に話せなくなることもないし」


 答えながら、エミリーにも似たようなことを言われたなあと思った。


 ようするに嫉妬しないのかということだが、友達をとられたからって嫉妬するほどリタの精神は若くない——いや、若い頃も今とあまり変わらなかったように思う。人に対しても物に対してもあまり独占欲がない。むしろ好きなものの良さを布教して周囲と共有したいタイプ。

 推しのことは自分が一番好きでありたい、みたいな対抗心のようなものなら、人並みにはあるが。


「ニコロもアイリが学校に馴染めるか心配してたみたいだし、むしろ今の状況の方が嬉しいんじゃないかな」


 まあ、アイリはまだ十三歳とはいえ、この世界基準なら色恋に進展しても全然おかしくない年齢ではあるし、そういう意味でニコロはヤキモキする機会が増えたかもしれないが。


「ニコロも本当に喜んでるように見えたから、大人だと言ってるんだよ。俺にはあまり理解出来ない」


 ウィルはリタの言葉に頷きながら、フォークですくった海老を食べる。それを飲み込んでから「でも」と続けた。


「彼女自身はどうなんだろうな」

「え? ……そりゃアイリは、友達がいっぱい出来て嬉しいんじゃない?」

「俺は彼女とあまり話したことはないが……クラスメイトに囲まれてる時は、少し疲れているように見えたよ」

「疲れてる……?」


 そう言われると確かに、クラスメイトに囲まれている時のアイリは少し困ったような顔で笑っていた。でもそれは、単に初めての経験に戸惑っているだけだと思っていた。


「たとえば俺が明日から急に大勢に囲まれたら、嫌過ぎて即その場から逃げ出す。アイリがそういう人間かは分からないが」

「アイリは……あんまり人に囲まれるのは慣れてないとは思うけど」

「だったら、もう少し別の意味で気にかけた方がいいかもしれないな。意外と今の状況にストレスを感じていたりするかもしれない」


 ストレスという単語を聞いて、部屋を掃除すると言っていたアイリの姿を思い出した。それと同時に、アイリが以前、たくさんの人と話すのが苦手だと言っていたことも。


「き、気をつける! 私、もっとちゃんとアイリのこと見るよ!!」


 自分のせいでアイリが周囲に嫌われたらどうしよう——そんなことばかり考えていたせいで、肝心のアイリの気持ちを考えていなかった。

 ファン失格だと、穴があったら埋まりたいくらい気分が落ち込んできたリタを見て、やたらお上品にパスタを食べていたウィルが言う。


「……ところでリタは、どうしてそこまでアイリと仲が良いんだ? ニコロみたいに、昔からの知り合いってわけでもないんだろ」

「そう聞かれると難しいけど……ウィルはニコロと仲良い理由あるの?」

「単にあいつは頭が良い……性格もあるか。俺の好きなものを変に追及してこないし、馬鹿にもしてこない。俺自身が一緒にいて気楽だからだ」

「なら、私もアイリと一緒にいると楽しいからかな。あと、可愛いし、優しいし、生まれてきてくれたことに感謝したくなるほど天使だし」

「へえ」


 自分で聞いてきた割に、どうでもよさそうな返しだった。


「気を悪くさせたならすまない。単純に気になったんだ。二人は、性格的には正反対に見えるから」

「確かに似てはいないね」


 平然とした感じで答えつつ、リタは心の中でガッツポーズを決めていた。

 なにせ本来の『リタ』は、アイリとキャラ被りと批判を受けたほど、似通った性格のキャラ。

 クラスメイトであるウィルに、ゲームの『リタ』のような清楚で可憐なイメージを抱かれていないのは、リタの思惑通りだった。


 今後も自由気ままに生きて、これ以上攻略対象たちに恋愛感情を持たれない、女らしくない女を目指していきたい。そしてラミオやエミリーにも早く恋愛的な意味で愛想を尽かしてほしいものだ。


「でも、友達ってそんなもんじゃない?」

「……それもそうだな。よく考えれば俺とニコロも似ていないし……、ああ、そうだ、アイリといえば」


 ウィルは皿に残っていたイカをフォークで追いかけつつ、何か言おうと口を開いて、やめて、という動作を二度ほど繰り返した。彼にしては珍しく、言い辛いことなんだろうか。


「どうかした?」

「これは俺の感覚の話なんだから、真剣に聞いてくれなくてもいいんだが……たまに彼女から妙な気配を感じることがあるんだ」

「妙な気配?」

「あ、妙とは言っても、嫌な気配じゃない。むしろ心地いいというか……言葉にし辛いな。リタは感じたことないか?」



続く

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