↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が転生したのは推しの敵役でした ~新旧主人公が仲良くなったなら~  作者: 北条S


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/210

【4.夏休みの旅行】

 たくさん考え事をしたせいか、相当お腹がすいていたらしい。

 リタが夢中で夕飯を食べている間も、おしゃべり好きな父はひたすら話続けていた。


「そういえばもうすぐ夏休みになるな」


 夏休み。待ちに待ったその単語で、リタは食べる手を止めた。


「あのさ、夏休みの旅行の行先ってまだ決まってなかったよね?」

「ええ。特別行きたいところがなければ、いつも通りお姉さんの所にするつもりだけど」


 母がそう言うと、今まで黙々と食べていた兄も、話に参加してきた。


「伯母さんちもいい加減飽きてきたよなー」

「なんて事言うの。お姉さんはあんたたちの顔を見るのを楽しみにしてくれてるのよ」

「そうだぞ。毎回あれだけご馳走を用意して出迎えてくれるじゃないか」

「だってさー、この間の冬休みに会ったばっかじゃん」


 不貞腐れた顔をする兄。

 リタ達に優しく接してくれる伯母さんのことは、リタも兄ももちろん嫌いではない。むしろ好きだ。

 しかしここ最近は長期休暇の度に遊びに行っているから、新しいもの好きの子供が飽きてしまうのも仕方がないこと。


「私、今年は行きたいところがあるんだ」

「お、リタがそんな事言うなんて珍しいな。どこだ?」

「アンディエゴ!」

「え、隣町の? せっかくの旅行なのに、そんなに近くでいいのか?」

「いいの! むしろそこがいい!」


 父の問いに力強く頷いたリタを見て、母は「やっぱり、なんだか雰囲気が変わったような」と呟いたが、すぐに賛同してくれた。


「リタがそこまで言うなら、アンディエゴにしましょう。いいわよね、あなた」

「ああ。あの辺りには良い宿屋もたくさんあるしな。たまには近場も新鮮でいいだろう」

「えー、俺はもっと遠くがいいー」

「確かアンディエゴに新しいパン屋さんが出来たらしいわよ。美味しいって評判みたいだったけど」

「アンディエゴ行きてーな!」


 好物を提示され、あっさりと手のひらを返す兄。こういう単純な所も子供らしくて可愛いとリタは思った。

 思ってから、今は自分のほうが年下なことに気が付いた。



 食事を終え、洗い物を手伝うというリタの提案は、先ほどと一言一句同じ理由で却下され、大人しく自室に戻る。



(よし、自然と行き先を変えられたぞ!)


 とりあえずこれで、あの二人と会う展開にはならないはずだ。

 アイリに会えないのは非っ常に残念だが、自分と出会うことでアイリが不幸になってしまう可能性があるのなら、会うべきではない。ファンとして。


(旅行の後も、アイリ達の住んでる町には近づかない方がいいかな)


 しかし、せっかく同じ世界に転生できたのだから、一度くらいは生の推しの姿を拝みたい。

 大人になった後なら、出会ったとしてもゲームのような展開にはならないだろう。学生時代のアイリも見てみたかったが、彼女ならきっと年を経ても可憐で愛らしいままだろうから、大人の姿を見られるのも楽しみだ。


(何十年後、アイリに会うことを目標に生きる……転生してもアイリが生きる糧なんて幸せでしかない!)


 二度目の人生でも同じ人を推せるなんて、ファンとしてはこれ以上ない喜びだった。


「よし! そのためにはまず、アイリにⅡみたいな思いをさせないぞ! アイリの幸せは私が守る!!」


 改めて決意を固めたリタは、天井に拳を突き上げた。



◆ ◆ ◆



 前世の記憶を思い出してから、あっという間に数週間の時が過ぎた。


 その間に変化したことといえば、学校での立場くらいのもの。

 リタは、この世界では珍しい真っ黒な髪と、庶民ながらに高い魔力を保持していたことから、周囲の人に白い目で見られていた。クラスメイトからの嫌がらせも日常茶飯事だった。


(……あの子達、絶対ロクな大人にならないな)


 まあ、クラスの子がどんな大人になろうと、リタの知ったことではない。

 ただ、物を隠したり足を引っかけてきたり、あまりに幼稚なイジメの相手をするのは面倒だった。それにまた怪我をして家族に心配をかけるのは嫌だ。


 なので魔法を使って少しだけ脅しのようなことをした結果、無事平穏な日常を手に入れることができた。


「魔法かぁ……」


 転生前のリタなら、魔法を自由に使えるという事実にテンションが上がったと思う。

 だが今のリタには、前世の記憶を思い出す以前の記憶もあるので、残念ながら既に魔法の存在には慣れてしまっている。

 

 この世界の魔力は遺伝的な要素が強いため、基本的に高い魔力を有しているのは貴族が多い。しかし稀に庶民にも突然変異のように高魔力保有者が現れたりする。それがリタやアイリだ。


 ちなみにリタの兄も多少魔力には自信がある方で、ゲーム内では『リタ』が十五歳の頃(今から二年後)に、兄の強い勧めで一緒に入学試験を受けに行き、リタだけが合格するという気まずい流れになる。


「せっかくだし、魔法を誰かに学ぶのも楽しそうだけど……学校に行ったら絶対アイリに会っちゃうもんなぁ」


 流石にゲームの舞台となる場所に行くのはリスキー過ぎる。いくら注意を払っても、高確率でアイリや攻略対象たちに遭遇してしまうだろう。


「あー、でもやっぱり生の制服アイリを拝みたかったな」

「アイリって誰だ?」

「うわぁっ!?」


 声に驚いて振り向くと、いつの間にか自室の部屋の扉が開いていて、きょとんとした顔の兄が立っていた。


「ちょ、ちょっと! レディの部屋に入る時はノックくらいしてよ!」

「レディもクソもあるかよ。で、アイリって誰だよ?」

「アイリ? 誰それ、聞いたことないや」

「まっすぐな目で嘘つくなよ……まあ、いいや。それより準備終わったのか?」

「ばっちり! もう出かけるって?」

「そろそろだってさ。母さんたちも待ってるし、行こうぜ」


 兄の後ろに続いて、部屋を出る。

 今日はゲーム内で『リタ』とアイリ達が初めて出会う日だ。それを防ぐため、リタは家族と共に隣町へ旅行に行く。


「にしても、せっかくの旅行なのに隣町かぁ……」


 兄はこの数週間で一体何度同じことを言えば気が済むのだろうか。

 もしかしたら、なんだかんだ言いつつも伯母の家に行きたかったのかもしれない。


「たまにはいいじゃない。リタは行きたいところがあるんでしょう?」


 母の視線を受けて、慌てて頷いた。


「うん! えっと、友達がおすすめのお店があるって言ってたから!」

「まあ、そうなの」

「でもお前、友達いないだろ?」

「し、失礼な……いる、よ……」


 悲しいことに、嘘である。

 学校で常にぼっち状態なことは、両親には隠しているが兄には知られている。

 しかし、兄の言葉を聞いて気まずげに視線をそらした両親の反応を見るに、普通にバレてそうな気がして切なかった。



◆ ◆ ◆



いつもと比べるとかなり近場の旅行となったが、家族でそれなりに観光を楽しんで、日が落ち始めた頃。予定していた宿に向かう途中で、リタはあることに気が付いた。


「あ……さっきのお店に鞄忘れちゃった」

「ええ? もう……お店を出る前に、忘れ物がないか確認したのに」


 というより、鞄を持っていないことに今更気が付くなんて、我ながら間抜けすぎる話だ。


「ごめん……ちょっと取りに行ってくるから、お母さんたちは先に行ってて」

「一人じゃ危ないだろ。俺もついてく」

「父さんもついていこうか?」

「平気平気。子供じゃないから」


 二人の提案を断り、走り出す。

 

 後ろの方から「いや、子供だろ」という兄の声が聞こえて、確かにその通りだなと思った。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。