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133/134

【133.友情のような違うような何か】

「ところで、シャノン様なら他に頼める人がたくさんいそうですけど……たとえばお城の方とか」

「私の両親、ものすごく過保護なんだよ。君の想像の五万倍くらい」


 うんざりした顔を見るに、相当なんだろう。

 しかし彼女の立場を考えれば自然なことな気もする。


「寮生活だって大反対されたし。それでいくつかの条件でお許しが出たわけだけど……その中の一つが、休日に出かける際には事前に手紙で報告すること。護衛を寄越すためにね」

「……盗みに遭った時、報告は?」

「してない」

「というより、ほぼしてないわよね?」


 ミモザの問いに、無言で頷いて肯定するシャノン。


 護衛付きの外出を嫌がるのは、大体の人がそうだろう。とはいえエミリーの時のようなこともあるし、実際シャノンも盗難被害に遭っているわけなのだが。


「だから、このことがバレたら家に連れ戻されそうで言えないんだ」

「……ちなみにどうして私に?」

「エミリーへの嫌がらせかな」


 なんとも爽やかな笑顔でそんな返しをされて、リタはどう反応したらいいか分からなかった。


「君が私にこき使われていたら、エミリーは確実に怒るだろう? それを期待してるんだよ」


 なんだこの人、性格悪すぎ――とは言えるわけもなく。


 しかしどこまで本気で言っているか分からないが、友人に対しての嫌がらせを完全スルーするのも、人としていかがなものか。


「あの、生意気な話なんですけど、エミリー様は――」

「別にエミー呼びでいいよ。普段はそう呼んでいるんだよね?」

「は、はい」


 言葉が詰まったのは、その問いかけに妙な圧を感じたからだ。

 同じ王族が、庶民相手に愛称で呼ばれていることが気に入らないのだろうか。


「エミーは昔とは変わったので……お二人の間に何があったのかは分からないですけど、いつかは仲直りとか……」


 話している間に、脳内に「余計なお世話」という言葉が浮かんで来て、だんだん声が小さくなっていった。


「そんなこと、君に言われる筋合いはないよ」


 案の定、シャノンの機嫌を損ねてしまったのだろう。冷めた声音で言い切られた。


「すみません……不躾でした」

「そうだね。けど頼みを聞いてくれたのは有難いと思ってる。多少時間がかかってもいいから、良い報告を待ってるよ」


 言いながらシャノンは立ち上がった。


「じゃ、私はこれで。これ以上ミモザの邪魔をするのも気が引けるしね」

「邪魔なんて……、…………否定はしないけど」


 しないのか。

 遠慮のない話し方といい、本当に二人は仲が良いんだなと、再実感するリタ。


 シャノンもミモザの言葉に特に気分を害した様子はなく、むしろおかしそうに微笑みながら「じゃ、また学校でね」と言って立ち去って行った。


 その後ろ姿が人混みに完全に消えた後、リタは大きな溜め息をついた。


「はあぁ……緊張した……」

「そんなに? シャノン様、王族の中ではかなり気さくな方よ」

「なんでか分からないんですけど、妙な圧を感じるんですよね……視線とか話し方とか、全体的に」

「ふーん……?」


 全くピンと来ていないらしい。

 リタからすると、カーラやユージャほどあからさまな態度ではないものの、上手く説明出来ない何か嫌なものを感じる。


「それよりようやく二人きりになれたし、今からがデートの始まりね」

「デートではなかったはずなんですけど……」

「私とリタの場合は、二人で出かけたらデートになるってお姉ちゃんが言ってたわ」

「え?」


 あまりにも意味不明すぎる。

 是非ともローザ先生に真意をお聞かせ願いたいが、今はここにいないのでどうにも出来ない。


「歩くとき腕組んでもいい?」

「え……ダメです」

「なんで!?」

「いやだって……人前でベタベタするのは、あまりお行儀がいいことじゃないですし」

「そんなの堅苦しい場での話でしょ? 町中なら誰も気にしたりしないわよ。ほら、あの人たちだって」


 言いながら、明らかに恋人同士にしか見えない二人を示すミモザ。


「あの人たちはデートだからじゃないですか……?」

「私たちだってデートじゃない」

「いや……」


 なんだか話がループしそうだったので、リタは諦めることにした。


 薄々分かってはいたが、ミモザはワガママというか子供っぽいところがある。

 これ以上反抗したところで、いつかはリタが折れることになるのは明らか。

 だったら早めに折れた方が体力の消費が少なくて済むのだ。



◆ ◆ ◆



 というわけで、ミモザのおススメの店に向かって歩いている間腕を組むことになったのだが、その距離感はリタが思っていたほどべったりではなく、かなり控えめだった。


 ミモザが結構遠くにいるものだから、リタが腕を伸ばさなくちゃいけなくて少し痛みを感じる程度には距離がある。


 これならわざわざ腕を組まなくても良いんじゃないだろうか。


 ちなみにこう思うのはミモザのことが嫌いなわけではないし、スキンシップが嫌なわけでもない。


 ただ歩きにくいから――それだけである。

 前世の友達に引っ付き虫のような子がいたから分かるが、密着して歩くのは、周囲にも見られるし歩き辛いしで良いこと皆無だ。

 それこそラブラブな恋人同士くらいしか得がない。


「……いざやってみたはいいものの、意外と難しいわね、この体勢」

「難しい?」

「想像力が足りなかったわ……もっとこう、遠慮なくくっつけるものだと思ってたんだけど――」

「だけど?」

「…………なんか、恥ずかしい」

「……」


 自分からノリノリで言い出しておいて、何故そんなに頬を赤らめているのか。


 リタは呆れたが、同時にエミリーの反応を思い出し、ちょっとだけ微笑ましくも感じた。


「ならこの体勢はやめませんか?」

「でもせっかくのデートなのに……」


 デートじゃないです――そろそろそう訂正するのも疲れてきた。 


 なのでリタは、渋るミモザの腕を軽く振り払った後、無言で彼女の方に手を差し出した。


「……?」

「腕を組むよりは、手を繋ぐ方が恥ずかしさも軽減するんじゃないかなって。さっきもしてましたし」

「! うんっ」


 元気よく返事をしつつ、ミモザはリタの手を握りしめた。


 リタとしても、さっきの腕が痛い腕組よりもこちらの方が遥かに気楽でいい。

 手を繋ぐ程度なら、周囲から見られることもそうないだろうし。


「……ふふ、やっぱりリタは優しいわね」

「ミモザ先輩に対してはそんなにですけど」

「そうなの? それでこれなら、本当のあなたはもっと優しいのね」

「……」


 なんて前向きな答えだろうか。

 意地悪な回答をしてしまった自分が恥ずかしくなってしまった。


「あ、でも私としては、冷たいリタも良いんだけどね」

「……」


 果たしてそれはどういう意味で言っているのか。


 そういえば前にローザ先生が「Mっ気」がどうこう言っていたなと、何故かこのタイミングで思い出した。


「何より、私はもっとリタの色んな面が知りたいわ」

「……先輩も物好きですね。他に友達がたくさんいるのに」

「リタは特別だもの」


 魔法祭で組んだだけの間柄なのに、どうしてここまで気に入ってもらえているのか。

 その気持ちは有難くもあるけど、思い当たる節がなくて戸惑いの方が大きい。


 もしかしてこれが先輩後輩の垣根を超えた友情というやつだったりするんだろうか。


 隣を歩くミモザのご機嫌そうな表情を見て、リタも少し嬉しい気持ちになった。



続く

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