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【132.シャノンのお願い】



◆ ◆ ◆



 あれから何日か経って、一人で教室を移動している途中、友人たちと談笑しているミモザを見かけた。

 彼女はリタと目が合うなり、友人たちに一声かけてその輪から抜け、駆け寄ってきた。


 そして何の前触れもなく笑顔で告げる。


「リタ、今週末にデートしましょう」

「デートじゃなくて、遊ぶのはいいですよ」

「ほんと!? 二人きりでも?」

「先輩がよければ」


 エミリーが聞いたら怒りそうだとは思いつつも、拒否する理由もないので頷いた。


「やった! じゃぁ細かいことはまた後で――」

「私ともデートしてくれる?」


 ひょこっとミモザの後ろから姿を現したのは、シャノンだった。

 先ほどミモザと一緒にいたのは見えていたが、わざわざ近付いて来るとは思わなかった。


「私がシャノン様とデートだなんて、恐れ多いです」


 とりあえず無難な返事をしてみたのだが、どうやら不服だったらしい。


 シャノンはミモザを後ろから抱きしめるようにして、肩に顎を乗せつつ、不満げな表情でリタを見た。

 その距離感の近さに、二人は親しい間柄なんだなぁと、のんきに思うリタ。


「そんなにアッサリと断っていいの? 私、一応王族なんだけど」

「う……」


 それを言われると非常に弱い。

 久しぶりに感じる王族の圧にどうするべきか迷っていると、ミモザがシャノンの脇腹をつついた。


「意地悪言うのやめなさいよ。リタ、シャノン様は本気で言ってるわけじゃないから、普通に断っていいからね」


 はい――とも言えずに黙って微笑んだら、ミモザから離れたシャノンが近付いて来た。

 先日のことを思い出し、少し身構える。


「そんなに警戒しなくても、あれは挨拶だからそう何度もしないよ」

「警戒だなんてそんな……」

「ところで、デートしなくてもいい代わりにお願いがあるんだ」

「お願い?」

「そう。あの理事長に認められた実力の持ち主である君にしか頼めないこと」


 綺麗に微笑まれて、なんだかすごく嫌な予感がした。

 それこそ、ミモザの時の比ではないくらいに。



◆ ◆ ◆



「……私、怒ってるんだけど」

「すみません」

「リタにじゃなくて! あなたの方よ!」

「私?」


 視線を向けられたシャノンは、すました顔で首を傾げた。


「せっかくのデートなのに、どうしてシャノン様がいるの!?」

「デートではないですけど……」

「ミモザも前に聞いてたよね? 私はリタにお願いがあるんだよ」

「それは聞いたけど、何も今日じゃなくてもいいじゃない!」


 不満そうに口をとがらせるミモザは、いつもの見慣れた制服姿ではない。

 ワインレッドのカーディガンにロングスカートというシンプルな服装だが、妙に絵になるのは、整いまくった顔立ちのせいだろうか。


「ごめんね。邪魔するつもりはないんだけど、あまり校内で話したいことじゃなくて」

「はあ……仕方ないわね。良い雰囲気になったら邪魔だけはしないでね」


 良い雰囲気になることはないと思うのだが――とリタが思っていたら、いきなり手を握られた。


「さ、行きましょうリタ」

「はい……え、手はこのままですか?」

「もちろん。せっかくのデートだもの」


 デートであることは否定したはずなのだが、聞こえていなかったんだろうか。


 抗議する間もなく、ミモザに手を引かれて歩き出すリタ。

 その隣を歩きながら、シャノンは不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「リタはラミオにも好かれてるって聞いたけど、応える気はないの?」

「私なんかがラミオ様のお相手なんてとても……考えられません」

「ふーん……ミモザの家も立派だけど、そっちはいいの?」

「良くないですけど……」


 そもそもリタとミモザの間には何もない。


「え、良くないの!?」


 だというのに、どうしてショックを受けたような顔でこちらを振り向くんだろうか。

 しかも握っている手の力を強めるものだから、少し痛い。


「リタは私の家が嫌いなの……?」

「嫌いというか……私とはつり合いがとれないというか……」

「お互いが愛し合っていれば、家同士のつり合いなんて関係ないわよ」

「まあ、そうかもしれないですけど……」

「じゃぁ問題ないわね!」

「……はい」


 一体何だろうかこの話は。

 別にリタとミモザがどうにかなるわけでも、お互い愛し合っているわけでもないのに。


 しかし彼女は何故か機嫌が良さそうだし、とりあえず深くツッコまないでおこう。



 三人で町に出ると、相変わらずの賑わいだった。

 ちなみにシャノンは髪を隠すように帽子をかぶっている。

 エミリーといい、王族が出かける際は周囲にバレないよう髪に気を使うのがデフォらしい。


「リタはどこか行きたいところある?」

「まだ町にあまり詳しくないので……先輩にお任せします」


 アイリやエミリーと行ったことがある場所はいくつかあるが、どうせなら新しい所を開拓してみたい。

 王都に慣れていそうなミモザなら、どこか良い場所を知っているだろう。


「分かった! じゃぁおススメのお店に……って、シャノン様はずっとついてくるの?」

「話が終わらない限りはね」

「気になって仕方ないんだけど……というか、結局お願いって何なの? 私も聞いて大丈夫なこと?」

「他言無用の約束さえ守ってくれれば」

「なら先にシャノン様の用を済ませちゃいましょう。そしたら私たちのデートについて来る理由はなくなるんでしょ?」

「まあね」


 校内では話したくないとか他言無用とか、一体どんな内容の”お願い”なんだろうか。

 ますます嫌な予感が増したリタは、二人に気付かれないように溜息をついた。


「なら、広場のベンチにでも座って話そうか。リタもそれでいい?」


 シャノンに一応確認はとられたものの、リタに拒否権があるとは思えず。大人しく頷くしかなかった。



 というわけでやって来た広場は、先ほどの通りより人の数は控えめ。

 四人掛けらしいベンチに三人で座ったのはいいのだが、何故かまた真ん中に座らされた。


「それで、リタへのお願いっていうのは?」

「私の盗まれたポーチを探して取り戻してほしいんだ」

「ポーチ?」

「そう。前に一人で町に来た時、誰かに盗られちゃって……急なことだったし周囲に人も大勢いたから、情けない話だけど防げなくてね」

「でも犯人の手がかりもないのに探すなんて、不可能なんじゃないでしょうか……」

「微かだけど手がかりはあるんだ」


 シャノンが言うには、ポーチの中には学校で使用しているのとはまた別の魔道具が入れられていて――護身用らしい――微かな魔力を辿って探してみた結果、とある質屋に行きついた。


「魔道具も含めて、ポーチに入っていた大半のものはそこで売られてた。まあ全部買い戻したけど」

「ならもう解決しているのでは……?」

「いや、取り戻してほしいのはポーチ自体なんだよ。ポーチだけは売られてなかったから」


 黙って話を聞いていたミモザが「どうしてポーチだけ?」と尋ねた。


「店主が買取拒否したんだって。窃盗されにくいように、安物を使ってた影響だろうね」

「その甲斐なく窃盗はされたのね……けど安い物なら、わざわざ犯人を見つけ出してまで取り戻す必要はあるの?」

「……、…………安物だけど、あれは私のお気に入りだったんだよ」


 ミモザの問いに対し、答えるのにかなり間があったのは何なんだろうか。


「手がかりっていうのは?」

「店主の話を聞いたらね、それを売りに来たのはウチの制服姿の子だったらしいんだ」


 それはまた、間が抜けているのか盗人猛々しいのか。

 持ち主に質屋がバレるとは思ってもみなかったのかもしれない。


「だから犯人は校内にいるかもしれないってことと……もう一つ。手の甲に妙な形のタトゥーがあったって」

「え!? 手の甲にタトゥーですか!?」

「そ、そうだけど……」


 あまりに激しく食いついたリタを見て、戸惑い気味のシャノン。


 思わず大声を上げてしまったのは、手の甲のタトゥーというのが、リタの中にあるホリエンの記憶と合致したから。


 手の甲のタトゥーは、例のリュギダス復活を企んでいた組織の証だ。

 リュギダスは既に消滅済みなことと、ラミオたちの別荘で組織のリーダーに会わなかったことから、最近すっかり警戒心が薄れていた。


 平和な日々が続くとすぐに油断してしまうのは、リタの悪い癖だ。


「心当たりでもあるのかい?」

「えっと……少し」


 気付かない内に組織が校内に潜入していたのか、タトゥーはただの偶然なのか、現状どちらかは分からない。


「なら頼めるかな」

「はい。私でお役に立てるのなら」

「ちょっと、リタ、リタ」


 シャノンに聞かれないためか、リタの方に身を寄せてくるミモザ。

 近付いた瞬間、彼女の香りなのか妙に良い匂いがして、リタは初めてミモザにドキリとして何だか負けたような気分になった。


「シャノン様が王族だからって、無理に言うこと聞かなくてもいいのよ?」

「いえ、そこまで嫌というわけじゃないので」


 組織が学校に潜入している場合、リュギダスとはまた別の何かしら危険なことが起こるかもしれない。

 そうならないため、今のうちに彼らの存在や動向を把握しておきたい。


 正直シャノンのお願いは完全に"ついで"だ。


「それならいいけど……見つかりそうにないなら言ってね。私がシャノン様に断り入れるから」

「ありがとうございます。先輩、優しいんですね」

「えっ、い、いや、そんな……私は上級生として当たり前のことを言っただけだから!」


 バッと、音が出るような勢いでリタから離れるミモザ。


 赤く染まった頬を見て、そこまで照れるようなことを言っただろうかと、リタは首を傾げた。



続く

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