【127.告白】
ラミオとエミリーからは手料理。
「私は二人の好みとかまだよく分からないから、無難で申し訳ないんだけど」
ミモザからは勉強に役立ちそうな文具セット。
「……俺はこれしか興味ないから」
ウィルからはやたら難しそうな魔導書。
「二人のイメージ合うように選んだんだ。気に入ってもらえるといいんだけど……」
ニコロからは赤を基調とした小ぶりな花束と、白を基調とした小ぶりな花束をそれぞれ受け取った。
それからラミオたちが作ってくれた料理をみんなで食べながら、それぞれ最近の出来事なんかを話した。
例えば魔法祭のことだったり、授業のことだったり、女子や男子の間で流行っていることだったり。
はたから見ればくだらない、他愛のない光景なのかもしれない。
しかし、少なくともリタにとってはとても楽しい時間だった。
話が一区切りついた頃、いつの間にか場所を移動していたミモザが、エミリーの腕をつっついた。
「エミリー様、エミリー様。よければお話ししない?」
「…………いいですけど」
早速仲良くなろうとしている様子のミモザ。
視線を逸らして答えたエミリーは、嫌というよりは気まずそうな感じだ。
まあ、長年避けていた相手といきなり対話となると、多少なりとも気まずさはあるだろう。
しかしそれでもオッケーを貰えたことが嬉しいのか、ミモザはパーッと目を輝かせた。
その光景を微笑ましく感じていると、さっきまでニコロと話していたアイリが、リタの隣に戻ってきた。
「楽しいね」
腰を下ろすなり、本当に楽しそうに笑いながらそう言われたので、リタも笑顔で頷いた。
「この学校に来てから幸せなことばかりだから、ちょっと恐くなってきちゃった」
「そんな大げさな……この先もずっと、アイリは一生幸せだと思うよ」
「んー……」
「どうしたの?」
まさかこの先の人生に不安でも抱えているんだろうかと心配になっていると、顔を覗き込まれるように視線を合わせられ、思わず後ろに下がりそうになった。
「私、みんなもそうだけど……リタと一緒にいることにすごく幸せを感じるの――って言うと、ちょっと重いかな」
「いや全然! 嬉しいよ!」
「うん。……だから私が一生幸せでいるためには、リタがずっと一緒にいてくれる必要があるってことが、言いたくて……」
徐々に声が小さくなっていって、最後の方はもにょもにょとしていて何を言っているのか分からない。
見るからに照れていると分かるその態度と言葉が、リタの心に突き刺さった。
「アイリは誕生日も可愛いね! よし、それがアイリの幸せに繋がるなら一生一緒にいよう!」
「……リタ、完全にノリで言ってるでしょ?」
「ノリも若干あるけど九割は本気だよ!」
「なんか言葉が軽いんだよね……、……あ。一生っていえばだけど」
身を寄せられ、耳元に顔を近付けられた。
あまりの近さにドキドキしてしまったが、何か内緒の話でもあるんだろう。気を引き締めて聞くことにした。
「私たち、同じ日に生まれて同じ日に死ぬんだって思うと、なんか運命的だよね」
誕生日に死について話すなんて不謹慎だけど――とか言いながら、その表情は楽し気だった。
「運命というか……後者については私が巻き込んじゃったんだけど……」
「私が望んで巻き込まれたんだよ」
「アイリ……」
うっかりリタが死んでしまったら自分も死んでしまう体になってしまったのに、一度もリタを責めないなんて、どれだけ優しいんだろうか。
やっぱり本物の天使なんじゃないかと思っていると、アイリは距離を離すことなく近い位置からリタの目を見つめてきた。
「どうかした?」
「あ、いや……近いなぁと思って」
「アイリから近付いて来たんじゃん」
「そうだけど……なんか照れるね」
なら離れればいいのでは? というのが正論なのだが、頬を染めるアイリが可愛くて、リタの脳内から正論が抜け落ちていった。
「照れてるアイリも可愛いよ」
「う……も、もう、いいよ、こういう時にそういう冗談は」
「いつだって本気なのに」
「はいはい……」
呆れたような感じで離れて行ってしまうアイリを名残惜しく思っていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、いつの間にやら近くにいたニコロ。その隣にいるウィルは、早くも眠そうに欠伸をもらしていた。
「ごめん、二人で話してたよね」
「あ、大丈夫、もう終わったから。どうしたの?」
「リタ、ちょっと外に行かない?」
「え、私?」
珍し過ぎるお誘いに、アイリと目を見合わせるくらいには戸惑いつつも、断る理由もないのでニコロと共にテントの外に出た。
空を見上げると星が綺麗に見えて、今すぐにでもアイリをここに呼び出して一緒に鑑賞したい気持ちになる。
「どうしたの? ニコロが私に話なんて珍しいね」
「んー……話というか、相談なんだ」
それこそ珍しいなぁと思いつつ、首を傾げる。
「実は、僕……その……す――き、気になる子が、いて……」
え、今更? とかいう無粋なツッコミはせず、神妙な顔で頷くリタ。
「それで、実は……最近、その思いを伝えようかどうか悩んでたんだ」
その言葉を聞いて、ドキリとする。
もしかしてニコロは、ゲーム通り今日告白するつもりなのだろうか。
「……けどいざとなると勇気が出なくて……しばらくは言えないままかもしれなくて……」
「あ、そうなんだ……えっと、相談っていうのはそのタイミングとか?」
「いや…………その」
ニコロは頭の後ろに手をやり、ガシガシと忙しなく動かした後、黙り込んでしまった。
その顔は真っ赤で、何となく何を言いたいかが察せられたので、リタは黙って待つことにした。
星を見て時間を潰していると、しばらくしてようやく勇気が出たのだろう。
いつも以上に真面目な顔をしたニコロが「リタ」と声をかけてきたので、視線を下げると、真っ直ぐに見つめられた。
「僕が好きなのはアイリなんだ」
「……そうなんだ」
知ってた、なんて言えるわけもなくて。
少し考えた結果、リタは無難な反応を返した。
「人に言ったのは初めてなんだけど、案外驚かれないものなんだね……」
「あー……ほら、ニコロとアイリは幼馴染だから。長く一緒にいる分、アイリの良いところもたくさん知ってるだろうし、納得しかないというか」
実際は、気付かれていないと思っているのはニコロだけで、気付いていないのはアイリだけなんじゃないかというレベルで分かりやすいのが原因だが。
「リタなら分かってくれると思ったよ。アイリと長く一緒にいたら、そういう感情にならざるを得ない感じ」
「もちろん分かるよ! 可愛いもんね! その上カッコいいし、優しいし、天使だし、なんかたまに光り輝いてるし、思いやりもあるし、声も可愛いし、お茶目だったり嫉妬深かったりするのもまた良いよね!」
「う、うん。そうだね」
リタの熱い同意に、理不尽にも若干引いているニコロ。
「……あのさ、君の目から見て、アイリは僕のことどう思ってると思う?」
「えっと……良い友達かな……」
「だよね……」
素直に答えると、落ち込まれてしまった。
アイリがニコロに抱いているのは、決して悪い感情じゃない。それどころか、他の友達よりも遥かに好感度は高いだろう。
しかしそれは、あくまで「友達」としての話だ。
リタが知る限りでは、アイリがニコロのことを異性として意識しているようには見えない。
「どうすれば友達以上に思ってもらえるんだろう……」
「うーん……」
ここはホリエンの知識を駆使したいところだったが、ニコロルートに入ると自動的にアイリとニコロは昔から両片思いだったことになっているので、なんとも言えなかった。
「いっそ告白から始めてみるとか……いや、それはリスキー過ぎるか」
告白したことにより、異性として意識されるようになるかもしれない。
ただ、気まずくなって距離を置かれたり、完全に脈無しだと発覚してしまうかもしれない。
そうなったらもう、よほどのことが無い限り、結ばれる望みはないだろう。
「…………情けない話だけど、恐いんだ。今の関係が壊れるのが」
「だとしたら、今は待つ一択になっちゃうんじゃないかな」
「やっぱりそうだよね……」
この返事の仕方的に、ニコロの中で既に答えは出ていたんだろう。なのにリタを呼び出してこの話をしたのは、何か思惑でもあったんだろうか。
隣で落ち込んだ様子になっているニコロを何とか励ましたくて、リタは必死に考えた。
「多分アイリはさ、ニコロがどうこうじゃなくて、今は恋とかそういうことに興味がないんだと思うよ。学校が楽しくて仕方ないんじゃないかな」
「……そうかな」
当然納得してもらえると思っていたのに、予想外の返事にリタは首を傾げた。
続く




