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【126.誕生日】

「……あ、そういえば」


 何かを思い出したように、アイリがパッと離れたことにより、リタの手もあっさりと彼女の体から離れることになった。

 そのことに妙な名残惜しさを感じていると、


「リタの誕生日はいつなの?」


 正直予想していた質問が投げられた。


 誕生日のプレゼントを貰った相手に返したいと思うのは当然の心境だ。

 しかしリタとしては、それは非常に答えにくい問いだった。


「えーっと……、……明後日」

「え?」

「私の誕生日、アイリと同じなんだ……」

「えぇ!?」


 柄にもなく大声をあげたアイリは、心底驚いている様子。

 まあ無理もない。こんな偶然、普通は驚く。


 メタなことを言うと、新旧主人公の誕生日が同じなのは制作陣の手抜きなんじゃないかと、リタは思っている。


「なんで言ってくれなかったの!?」

「聞かれなかったから……」

「それは……聞く機会なかったし……、でもよかった……せめて今日判明して。当日だったらプレゼントも後で渡すことになっちゃうところだったよ」


 リタとしてはお返しなんて気を使ってほしくないが、アイリの性格的には返さない方がモヤモヤするんだろう。


「リタが欲しいもの教えて。私が買うから」

「今から? もう夕方だよ?」

「だって明日も明後日も授業だし……買うなら今日しかないもん。本当は自分で考えたかったけど……渡せないよりはマシだしね」


 言いながら、リタの手を引っ張って歩き始めるアイリ。

 それについて行きながら、こんなことになるならもう少し早めにプレゼントを渡すべきだったと、考えなしのリタは今更ながら後悔した。



◆ ◆ ◆



「え!? 二人って誕生日一緒なんですか!? しかも明日なんですか!?」


 翌日の昼休み。

 どこかグッタリした様子のエミリーが「昨日は何をしていたんですか?」と聞いて来たので素直に答えると、目玉が飛び出るんじゃないという勢いで驚かれた。


「なんで教えてくれなかったんですか!!」

「き、聞かれなかったから」

「誕生日を聞く機会なんてそうないじゃないですか! 教えてくださいよ!」

「それはなんかプレゼント求めてるみたいで気が引けるというか……」

「もう! 危うく愛する人と大事な友達の誕生日がお祝い出来なくなるところだったんですよ!? 反省してください!」

「は、はい……」


 こんな勢いで怒られるくらいなら、もっと早くに伝えておくべきだった。


 エミリーの声があまりに大きかった影響で、ニコロを始めとするメンバーたちが集まってきてしまう始末。


「珍しく喧嘩してるのかい?」

「いや、喧嘩というか……」


 事情を説明すると、ニコロは腕を組んで頷いた。


「エミリー様の気持ち、分かるよ。親しい相手の記念日をお祝い出来ないのは悲しいことだと思う」

「ですよね! 流石リンナイト、優等生です!」


 この問題に優等生かどうかは関係あるんだろうか。


 とりあえずもう一度謝っておこうかと考えていたら、珍しくラミオガールズと一緒ではないラミオがやって来た。


「リタ、アイリ、少しいいか?」


 いつの間にかアイリの呼び方が変わっていることに驚きながら頷くと、ラミオは「誕生日の件だがな」と、まるで最初から会話を聞いていたかのように切り出し始めた。


「二人とも明日だろう? それでだな――」

「ちょ、ちょっと! なんでラミオはリタ様たちの誕生日知ってるの!?」

「ああ、少し前に調べたからな。二人だけじゃなく、クラスメイトはほぼ把握してるぞ」

「何それ……気持ち悪い……」


 妹であるエミリーにしか許されないであろう、なんともストレートな感想だった。


「俺様が気持ち悪いわけないだろう。それはさておき、プレゼントを用意したから是非お祝いをさせてもらえないか?」

「私は全然いいんですけど……」


 ラミオからのプレゼントをラミオガールズや他の女子生徒の前で受け取るとなると、変な恨みを買いそうで恐い。


 そんな感情が顔に出ていたのか、ラミオは言葉を続けた。


「プレゼントといっても、形に残るものではなくてパーティーのことなんだ」

「パーティー? でも明日は学校が……」

「そんなに大層なものじゃない。俺様のプレゼントは料理なんだが、夕食……いや、昼食か。いつでもいいが、一緒に食べないかという提案だ」

「ラミオ様の手料理を……食堂で一緒に……?」


 怒りの形相でこちらを睨みつけて来る女子たちの姿が、あまりにも容易に想像出来る。

 リタが周囲に恨まれる分には構わないが、それにアイリが巻き込まれるのは嫌だ。


「えっと……」


 かといってラミオの厚意を無下にも出来ないし……と悩んでいると、頭上から声がかかった。


「それなら良い案があるんだけど」

「え、あれ、ミモザ先輩……なんでここに?」

「昼休みだもの。私だって食堂でお昼くらい食べるわよ」


 それはそうだが、今まで表立って話しかけて来ることはなかったので、何だか不思議な感覚だった。


「魔法祭も終わったし、リタと一緒にいてもとやかく言われることもないかなって思って」

「私は先輩といると目立つので、極力控えたいんですけど……」

「前はああ言ってくれたのに……リタって時々本当に冷たいわね……そういうところも良いんだけど」

「はあ……。で、良い案っていうのは?」


 何故か頬を染めているミモザの反応はスルーして話を戻すと、彼女は「そうそう」と言って、ラミオの肩にぽんと手を置いた。


「ラミオ様、食堂であなたが持ってきた料理なんて食べていたらすごく目立つから、別の場所にしない?」

「む……確かにそうだな。しかし別の場所というのは?」

「私、良い場所を知ってるの。その情報を提供する代わりに、リタたちの誕生日パーティーに私も混ぜてもらえない?」

「ああ、もちろんだ。祝福する人間は多ければ多いほど良いからな。リタたちも構わないか?」


 確認をとられ、アイリはコクコクと頷いた。

 リタも似たように頷きつつ、エミリーの方に身を寄せ、小声で質問する。


「ミモザ先輩とラミオ様って仲良いの?」

「ええ、親しい友人です。立場上、先輩と私たちは幼い頃から会う機会が多かったので」

「そっか……でもさ、エミーと先輩は前に初対面みたいな感じで接してなかった?」

「あー……昔の私は、全方位……特にラミオと親し気な女性には全力で敵意を向けていましたから、その名残です」


 気まずそうに視線を逸らしながら、エミリーは続けた。


「先輩とは最近マトモにお会いするタイミングもありませんでしたし……昔、失礼な態度をとっていた手前、何だか気まずくて」


 確かに、物怖じしないラミオと人好きなミモザは相性が良さそうだ。

 今も仲良さげに笑い合っているし、ラミオにぞっこんだった過去のエミリーが嫉妬するのも無理はない。


「というわけで、私もリタたちのお祝いに駆けつけるから! 学校が終わったら急いでプレゼント買いに行かなくちゃ」

「それは有難いんですけど……良い場所って具体的にはどこなんですか?」

「あーそれはー……当日のお楽しみってことじゃ、ダメ?」

「ダメです」


 万が一にも、変な場所にアイリを連れて行くわけにはいかない。


「んー……実は、校則違反になっちゃうんだけど……」


 周囲を見回した後、ミモザは小声でその「良い場所」とやらを教えてくれた。



◆ ◆ ◆



 どの時代にも、校則を破ってちょっとした悪さをしたがる生徒は多い――というのは、ローザ先生の言葉らしい。


 かくいう先生もその内の一人だったらしく、たまに門限を破って友達と寮を抜け出しては、持ち寄ったお菓子でプチパーティーを開いていたとかなんとか。


 その開催場所は、校舎から離れた人気のない茂みの奥にひっそりと設置されたテントだった。


「これ、バレたらみんなで仲良く反省文だよね」

「最悪の場合、停学とか……」

「大丈夫よ。この辺りは滅多に見回りの人も来ないってお姉ちゃん言ってたし」


 リタとアイリの不安を払拭するように明るい声でそう言うミモザの手には、二つの包み。

 プレゼントと思しきそれは、本当に昨日の放課後に急いで買ってきたものらしい。


 エミリーといい、誕生日を伝えていなかったリタに落ち度があるのだから、わざわざ用意してくれなくてもいいのにと思いつつ、その気持ちは素直に嬉しかった。


 夕食の時間、こっそり抜け出して集まったのは、リタ、アイリ、ミモザの他に、エミリーとラミオ、ニコロとウィルだ。


「はあ……なんで俺がこんな……」


 ウィルが自主的に参加していないことは、誰の目にも明らかだったが。


「ニコロ、無理に連れてきたの? 可哀想じゃない?」

「ああ見えてウィルもお祝いしたい気持ちはあるんだよ。プレゼントも一緒に買いに行ってくれたし」


 その割にとてもダルそうにしているように見えるが、ニコロがそう言うならそうなんだろう。



 ラミオとエミリーが先に来て準備をしてくれているというテントの中には、薄っすらと明かりが見えた。


「おじゃましまーす……」


 妙に慎重な手つきでテントの入り口を開くと、目に入ったのは小さなテーブル。

 そこに並べられているのは、美味しそうな料理が乗った皿だ。

 皿の周囲に並べられたいくつかのキャンドルが、テント内を淡く照らしている。


「わ、美味しそう!」


 リタは思わず声を上げた。

 ローストビーフを中心に、パイシチュー、クロックムッシュ、サラダと、様々な料理が所狭しと並べられていて、見ているだけでお腹が空いてくる。


「これ全部ラミオ様が作ったんですか!? 寮のキッチンで!?」

「まあ俺様が本気を出せばこんなものだ。材料は城の者に持って来てもらったものだがな」

「流石ラミオ様! 素晴らしい! 天才!」

「そうだろうそうだろう!」


 うっかりラミオガールズが言いそうなセリフを言ってしまうくらいには、リタのテンションは上がっていた。お腹が空いているのである。


 ウキウキで腰を下ろすと、アイリとミモザが迷うことなく両隣に座ってきた。

 なんだか最近、三人で座った時に真ん中に挟まれることが多い気がするのは、気のせいだろうか。


「私も! 私も作りました! リタ様とアイリに愛を込めて!」


 勢いよくエミリーが差し出して来た皿の上には、一口サイズのフルーツタルトが並べられていた。綺麗にナパージュされていて、フルーツがキラキラ輝いている。


「こっちも美味しそうだね!」

「ありがとう。嬉しいよ、エミー」

「ふふふ、もっと褒めてください。私、褒められて伸びるタイプなんです」


 偉い偉い、と言いながらエミリーの頭を撫でているアイリ。

 何あれ羨ましい……とリタがその光景をガン見していると、隣にいるミモザに腕をつつかれた。


「ねえ、なんかエミリー様って昔とキャラ変わった?」

「あー……最近色々あったらしくて」


 その「色々」にはリタが大いに関わっているのだが、説明するのは難しいので言わないことにした。


「もしかして今なら仲良くなれるかしら」

「大丈夫だと思いますよ。今のエミーは誰でもウェルカムって感じですから」

「よし! トライしてみるわ!」


 小声でそんな話をしていると、ニコロの「じゃあ始めようか」という掛け声の後、ささやかな誕生日パーティーが始まった。



続く

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