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【124.久しぶりのデート】

 それから二十分ほどして戻ってきたアイリは、どこか困ったような顔をしていた。


「どうしたの?」

「途中でエミーに会ったんだけど……今日、お家に帰る日なんだって。なんか夜に大きなパーティーがあるらしくて」

「あー……、嫌がってた?」

「すっごく。今にも逃げ出そうとしてたけど、ラミオ様に捕まえられてた」


 容易に想像できる光景に、リタも眉を下げて笑った。


 やっぱり王族というのは大変そうだ。

 あの二人の求婚を断り続けている自分は間違っていないということを再確認出来た。


「パーティーがなかったら、エミーも一緒に遊びに行けたのにね」


 アイリがそう呟いたのを聞いて、リタは一瞬心にモヤのようなものがかかった気がして、腕を組みながら唸った。


 するとそれを見たアイリが首を傾げたので、素直に伝えることにした。


「今日はアイリとデートのつもりだったから、二人がいいなぁって考えてた」

「……そ、そうだね……うん……私も二人だと嬉しいかな」


 オドオドと同意するアイリ。

 もしかして引かれたのかもしれないが、頬が赤くなっているところから見て、照れているのかもしれない。


「そういえば、手紙書き終わった?」

「ばっちり! 出かける準備も出来てるよ!」

「あれ、珍しいね。リタがバッグ持っていくなんて」


 不思議そうに、リタの肩にかけられたバッグを見るアイリ。


 普段のリタは、財布だけをポケットに突っ込むという、女子とは思えないスタイルで出かけている。


「あー……なんか途中で買い物するかなぁって思って。アイリが準備してる間、外で待ってるよ!」


 何かを言われるより先に、さっさと部屋を後にした。


 ショルダーバッグを持っていくのには、ちょっとした理由がある。

 もちろんそれは買い物ではないのだが、どうやらアイリにはバレていないらしくて安心した。


「……あ」


 窓の外を見ると、ラミオに手を引かれて大人しく連れていかれるエミリーの姿が見えた。


「大変そうだなぁ」


 今日はいつもより温かく、天気も良い。出かけるには最適の日だ。


 嫌々家の行事に参加させられているエミリーには申し訳ないが、アイリとのお出かけは楽しいものになりそうだなと、晴れた空を見て思った。



◆ ◆ ◆



 気候の影響か、町にはいつもより人が溢れている気がした。


 前にアイリと出かけた時はあまりゆっくり出来なかった分、今日はのんびりとお互い興味のある店を回ることにした。


「可愛いね」

「うん!」


 様々な装飾品が並んだ棚を見てアイリが微笑みかけてきたので同意しつつも、リタは心の中では自分が以前アイリに貰ったブローチの方が百倍可愛いなどと思っていた。



 そして時間が過ぎ、昼食をとることにした。

 アイリがミシャに教えてもらったおススメの店は、焼き立てピザが売りのイタリアンだった。


「いただきまーす。……ん、美味しい!」


 相変わらず前世の挨拶をやめる気がないリタは、切り分けられたピザを一口食べて、思わず叫んだ。


「よかった。ミシャがね、ナタリアと一緒に来た時、すごく美味しかったからって。いつかリタと来てみたいなぁって思ってたんだ」


 そんな可愛いことを言うアイリは、綺麗な所作でサラダを食べている。

 炭水化物からがっついているリタと違って、なんて健康に良いのだろうか。推せる。


「お昼からはどうする? リタ、買いたいものがあるんだよね?」

「あー……ちょっと迷い中かな。あんまり無駄遣いも出来ないし」


 あまりこの話は長引かせたくないので、リタは早々に話題を切り替えることにした。


「アイリは? 何か買いたいものとか行きたいとことかある?」

「実はあるんだ。ただ食べ終わってすぐじゃなくて……夕方くらいがいいかも」

「なら食べ終わったら演劇でも見に行こうか」

「うん」


 最近決闘やら人に絡まれたりやらで大変だった反動もあるのかもしれないが、ただでさえ幸せなアイリとの時間がより幸せに感じられる。


「何だか楽しそうだね」

「そりゃー、目の前に可愛いアイリと美味しいものがあるから」

「リタはご飯大好きだもんね」

「アイリのことの方が大好きだよ」

「あ、本当にピザ美味しいね」


 悲しくも軽くスルーされてしまった。


 まあピザを食べるアイリも可愛くていいかと、前向きな気持ちでリタもピザの続きを食べ始めた。




 たまたまやっていた演劇は、王子と庶民の二人が身分の差を越えて結ばれようと奮闘するという、王道――悪く言えばありきたりなラブストーリーだった。


 恋愛シミュレーションの要素もあるホリエンのファンであるリタは、もちろんラブストーリーが嫌いじゃない。

 ただ、王族に言い寄られる庶民というシチュエーションに今の自分の状況が重なり過ぎていて、素直に楽しめない複雑な気持ちで見る羽目になった。



 しかしアイリは楽しめたらしく、公演が終わった後もいつもより高めのテンションで感想を述べていた。


「すごく面白かったけど……悲しい最後だったね」

「そうだねー」


 周囲の強い反対、好奇の視線、庶民の女性へのイジメなど、ありきたりな展開の後、二人は王が仕掛けた罠により引き裂かれて、二度と会えなくなってしまった。

 そのことを憂いた王子は自ら命を絶ち、それを知った女性も後を追うという、またも悪く言ったらありきたりな悲恋の話。


「でも最後には再会したみたいなシーンもあったし、考えようによってはハッピーエンドなんじゃないかな」


 お互いの名前を呼び合って抱き合う二人を最後に、幕は閉じた。


 ラストシーンはいわゆる天国でのことなのか、それともリタのような転生なのか、どちらかが夢見ていた空想の世界なのかは特に説明がなかったため、見ている人に委ねるということなんだろう。


「リタ的にはハッピーエンドだった?」

「まあ……あんなにいたぶられ続けたんだから、最後くらい幸せになってほしいって願っちゃうかな」


 アイリは「そっか」と頷いたけど、彼女的にはバッドエンドに見えたのかもしれない。


「……やっぱり身分違いの恋って難しいんだね」

「そんなことないよ!! あれはあくまでお話で、実際はあんな風に猛烈に反対されたりはしないだろうし!」

「そ、そうなのかな」


 ついムキになって言い返してしまったのは、ホリエンの攻略対象たちは大半が貴族出身のお坊ちゃんたちだからだ。

 いつかアイリが恋愛に興味を持った時、身分の違いから彼らを諦めるなんてことはしてほしくない。


「なら、リタは……、ああいう恋がしてみたい?」

「いや全然」

「即答なんだ……」

「だって私が王族とか貴族社会に馴染めるわけないし。……というか前もこんな話しなかった?」

「……そうだね」


 何だろう。アイリはよほどリタの恋路が気になっているんだろうか。

 まあ前世でも恋バナというのは女友達同士の定番ネタだったし、そんなものなのかもしれない。


「それよりそろそろ日も暮れてきたし、アイリが言ってた行きたいところ行ってみる?」

「そうだね。ちょうどいい時間かも」


 時間によって何かが変わるんだろうか。

 嬉しそうなアイリを見て、リタは首を傾げた。



続く

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