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【122.趣味の悪いランキング】

「魔法祭は今年だけじゃないので、アイリの活躍は来年の楽しみにとっておきましょう」

「うん! エミーは優しいね……」

「リタ様にだけですけどね。あ、うちのチームは一位でしたよ」

「一位カァ……スゴイナァ……」


 ますます見られなかったことに後悔が募りかけたが、それを振り払うように首を振った。

 そんなことをしている間に、リレーのメンバーが戻って来てクラスメイトに手厚く出迎えられていた。


 アイリも、ナタリアを始めとする女子たちに囲まれて楽しそうだったので、リタは微笑ましい気持ちでそれを眺めた。


「ふへへ……アイリがみんなに愛されてる光景、素晴らしい……」

「リタ様、笑い方が少し気持ち悪いです」

「あ、ごめん、つい素が……と、ところでアイリの走りはどうだった?」

「もう圧倒的でしたよ。他チームの妨害魔法もスイスイかわして大差をつけてました。やっぱり肉体を強化出来るって便利ですよね」


 聞けば聞くほど見たくなってくるが、エミリーの言う通り来年に期待することにしよう。


「ところでアイリにはなんて説明するんですか?」

「…………見れなかったって言ったら、傷つけると思う?」

「んー……私なら多少のショックは受けますけど、アイリの場合は分かりませんね」

「そっか……、……見たフリしようかな……」

「まあ、必要に応じた嘘というのもありますし……リタ様が望むなら話合わせますよ」


 そこまで話したところで、誰かが近付いて来る足音が聞こえて来て、頭上から声がかけられた。


「リタ、エミー、ただいま」

「おかえり! お疲れ様、アイリ!」


 汗を拭いつつ、へにゃりと微笑みながら隣に腰を下ろすアイリが可愛くて、リタは全力で出迎えた。


「い、いやー、その、何というか……大活躍だったね!」

「リタ、見てなかったでしょ」

「へっ!?」


 一瞬でバレてしまった。

 何故だろう、あまりの疚しさでつい言葉がつっかえてしまったのが不自然だったんだろうか。


「私、出番が来る前にテントの方見たけど、いなかったもん」

「ご、ごめん! どうしても……、……いや、ごめんなさい……」


 ミモザとのことを言い訳にするのはダサい気がしたので、素直に謝ることにした。


 頭を下げ続けていると、しばらくの間の後、ぽんと頭に手を置かれてそのまま撫でられた。


「……アイリ?」

「そんなに落ち込まないで。リタのことだから、何かあったんでしょ?」

「……」


 大切な友達の活躍の場を、時間感覚を忘れてついうっかり見逃してしまった馬鹿に対して、なんて優しい声かけだろうか。


 リタはあまりの感動に思わず抱きつきそうになったが、周囲の目もあるしアイリにも引かれそうなのでやめておいた。

 代わりに先ほどのエミリーの言葉を拝借することにする。


「来年は今年の分まで応援するから!」

「うん、ありがとう。エミーも応援してくれてありがとう」

「圧倒的でしたね」

「えへへ……完全に魔法のおかげだけど、運動神経には自信あるから」

「魔法だって実力の内なんだから誇っていいんですよ」


 二人が楽し気に話し始めた時、リタは後ろから襟首を引っ張られ、勢いよく首がしまった。


「ぐえっ……な、なに?」


 やたら乱暴だなと思って引っ張った人を見たら、セシリーだった。

 この力加減の無さ、やはり彼女はリタのことを快く思っていないらしい。


「いよいよ次よ」

「何が?」

「魔法合戦よ!」

「……あー」


 学年ごとに全男子が一斉に魔法で争い、最後まで立っていた者が勝つという、まさにルール無用の魔法祭の花形競技の一つだ。


 それにしても、この台詞、どこかで聞いたことがあるような――


「一位とか獲ったらカッコいいわよね。ね、リタは誰が勝つと思う?」


 続くセシリーの言葉に、完全に思い出した。


 これは前世でホリエンをプレイした時の記憶だ。

 入学一年目の魔法祭で、クラスメイトの会話から発生する選択肢。

 結構重要な選択で、二人まで選ぶことが出来るのだが、ここで選択しなかったキャラのルートには入れなくなってしまう。


「え……っと」


 ゲーム通りなら、ここで出した答えは、クラスメイト――つまり今回の場合セシリー――が勝手に攻略対象に教えてしまい、主人公の知らないところで好感度が上がるという展開になる。


 もしもその通りに進むのであれば、何としても避けなければならない。

 これ以上ラミオたちの時のような失敗をするわけにはいかない。


「…………内緒」

「それは無し。女子はみんなこっそり予想してるんだから! ランキングも付けてるのよ」


 なんて趣味の悪いことを……と言おうとしたが、セシリーがやたら楽しそうだったのでやめておいた。


「アイリとエミリー様も、誰が勝つと思いますか?」

「私はラミオで」

「私も……ラミオ様かな」


 回答に悩むリタとは対照的に、二人とも実にアッサリしたものだ。

 実際、クラスの男子の中で一番実力があるのはラミオだから、恐らくそのランキングとやらも一位は彼だろう。


「ほら、二人は言ったわよ。リタは?」

「……」


 別にこんなの、実際はそこまで考え込む話じゃない。


 ただホリエンのことを知っているリタからすると、どうしても深読みしてしまう質問だ。


 無難なのはもちろんラミオなのだが、彼は攻略対象の一人――しかもリタへの好感度が高い。

 万が一セシリーからラミオに伝わって、この世界がラミオルートに入るなんてことになったら大変なことだ。


 ここは適当な生徒の名前を言ってお茶を濁しておこう。

 そう決めて口を開こうとしたら、


「……」


 何故か神妙な顔でこちらを凝視してくるアイリとエミリーに気が付いた。


「え……二人ともどうかした?」

「リタ様の答えが気になって」

「私も。リタはどう思ってるのかなぁって気になっちゃって」


 エミリーはともかく、アイリが気にしているのに、適当な男子の名前なんて挙げられない。


 しかしラミオルート回避のためにはラミオと答えるのも憚られる……考えに考えた結果。


「に、ニコロ……に、賭けてみようかな」


 魔法の実力も高く、なおかつリタに異性としての興味が一切なさそうな男性――今のリタが考えうる限りで、最も無難な選択肢だと思えた。


「ニコロ? ……へー、なんかちょっと意外かも」

「……」


 だというのに、何だろうか、このアイリのそっけない返事は。

 しかも逆隣からはエミリーの冷たい視線も感じて、リタは何故か居心地が悪くなってしまった。



続く

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