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【118.賑わいの裏側で】



◆ ◆ ◆



「リタ、おめでとう! すごかったわね!」

「あ、ありがとう、ナタリア……」


 手を握って上下にぶんぶんと振られるだけでフラついてしまうくらいには、魔力を持っていかれてしまった。


 二位という好成績でゴールしたリタは、クラスのテントに戻って来るなりアイリたちに出迎えられた。

 学祭特有のテンションの高さで、普段あまり話すことのないクラスメイトからも賛辞の声が飛び、照れくさい気持ちになる。


「最後の障害物の時、ちょっとゴタゴタしてたけど……何かあったの?」

「あの時は……一瞬自分で壊せるかなって思ったけど、無理そうだったから先輩に頼んだんだ」


 ナタリアの隣にいたミシャの質問に、嘘半分で答えた。


 あの後ミモザが撃った初級魔法は、練習の時よりも少しだけ威力が増していて、リタの枷を破壊してくれた。

 おかげで無事ゴール出来たし、恐らく他の生徒たちにミモザの攻撃魔法の秘密もバレなかっただろう。


「それにしても羨ましいぜ……俺もミモザ先輩と二人三脚したかった!」


 クラスメイトの一人がそんなことを言い出して、周囲の男子たちが次々と同意した。


「二人きりで練習とかたまんないよなー」

「好きなだけ密着出来るし!」

「先輩って汗かいてても良い匂いしそうだもんなぁ……」


 これも学祭のムードにあてられたのか、いつも以上に欲望丸出しな男子生徒たちに、リタは心の中でドン引きした。他の女子も同じだったらしい。


 ナタリアの「男って美人相手にはすぐデレデレするんだから嫌よね」という言葉を皮切りに、次々と女子生徒の不満の声が漏れ始める。



 それから逃げるように元の場所に戻ると、同じようについてきたアイリと並んで座ることになった。


「お疲れ様」

「ありがとう。……そういえば二人三脚の噂、先輩に聞いたよ」

「ごめんね、言わなくて……出番前に変な情報入れるのも何かなって思ったから」

「あの噂のせいでみんな先輩のパートナーになりたがってたんだね」

「すごく慕われてるもんね。一年生の間でも、よく噂になってるし」


 そんな彼女のことを全然知らなかったリタは、改めて自身の交友関係の狭さと周囲への興味の無さを思い知らされた。


 この学校に来てもう結構経つというのに、いつまでもどこか浮いたままの自分は、アイリに心配をかけないためにももっと友達作りに励んだ方がいいのかもしれない。


「……リタ?」

「え、あ、なに?」

「なんか難しい顔してたから。どうしたのかなって」


 自分の友達の少なさに嫌気がさしていた――なんて言われても、アイリは困るだけだろう。


「……もしかして一位になれなくて残念だった?」

「えっ?」


 あの噂の話をしてからのその質問は、なんだか意味深な気がする。


 永遠に別れない――そんな恋人同士が願うようなことを、リタが願っているわけがない。相手がアイリなら話は別だが。


「みんなには悪いけど……競技が始まる前に、一位は獲らないようにしようって先輩と言い合ったくらいだよ」

「そうなんだ……、……意外」

「意外って……先輩相手に別れないも何もないでしょ」

「でもミモザ先輩と関わると、みんな先輩を好きになっちゃうって噂もあるんだよ」

「どんだけ愛されてるんだ……」


 ここまでくると、もう何かそういうフェロモンでも出しているんじゃないかと思えてくる。

 とはいえ、全然羨ましくはない気持ちを抱いていると、アイリが分かりやすくソワソワし始めた。


「どうしたの?」

「あ、いや……リタが魔法祭に一生懸命なのって、多少なりとも先輩のためだったんじゃないかって思ってたから……」

「えー、ないない。相手が誰だろうと同じだったよ」


 そもそも魔法祭に一生懸命というよりは、ミモザを狙う生徒たちの対応に一生懸命だった。

 それすら、アイリが「好き」だと言ってくれたことを糧に頑張っていたに過ぎない。


「そっか……よかった」


 何が「よかった」なのかは分からないが、リタはとりあえず頷いておいた。


「さて、私の出番は終わったし、これでアイリの応援に専念できるよ」

「うっ……頑張る……」

「緊張してるの?」

「そりゃするよ……失敗して足を引っ張っちゃったら大変だし……」


 確かにチームプレイというのは責任重大だから、気負うのも分かる。


 リタは、なんだかいつも以上に縮こまっているアイリの背中に手を添えた。


「全力で頑張れば、どんな結果だってみんな受け入れてくれるよ」

「…………うん、そうだね、頑張る。応援しててね」


 笑いかけて来るアイリに「もちろん!」と答えつつ、リタは早く彼女の活躍が見たいとワクワクした。



◆ ◆ ◆



「エミー、もうすぐアイリの番だよ!」

「それ、アイリが行ってから十回は言ってますよ……いい加減聞き飽きました……」

「だって楽しみじゃない!? アイリが走るんだよ! 絶対カッコいいよ!!」

「はいはい……アイリはカッコいいですからねー」


 本当に聞き飽きているのだろう、エミリーの対応はいつもより遥かにおざなりだった。


 それも気にならないくらいはしゃいでいたリタだったが、このままハイテンションで居続けたらエミリーに迷惑をかけそうだ。


「ちょっと水飲んでくる!」

「あ、私も一緒に――って、もういないし……」


 クラスのテントから飛び出て、先生たちが用意してくれている給水所に向かう。

 水でも飲んだら多少は気持ちもクールダウン出来るだろう。


 しかし早く戻らないとアイリの出番に間に合わないかもしれない。

 そんな思いから急いで移動している最中、魔法祭を楽しんでいる生徒たちの姿が見えた。


 こういう光景はどの世界でも変わらないんだなぁと、どこか懐かしい気持ちになる。



 給水所までもう少しというところで、ふと視界の端にミモザの姿が映った。


「あ、ミモザ先輩……と、あれは……」


 以前リタに決闘を挑んできた、特徴のない地味な感じの男子生徒。

 先ほども見かけたし、前にもミモザと一緒にいるところを見かけた気がするが、本当に縁がある。


 しかし魔法祭の最中まで二人でいるほど仲の良い関係性とは思えなかったが。


「……?」


 男子生徒は執拗に周囲を窺っていて、言い方は悪いが、まるで不審者のような動きだった。

 ミモザはそんな彼の挙動を不思議そうな顔をしながら見つつも、隣を歩いている。


 何となく目で追いかけていると、二人は校舎の裏の方に向かって歩いて行った。


「なんであんなところに……?」


 競技が始まる前に、わざわざ男女が二人で人気の少ない場所へ消えていく。

 その二人が恋人や友達だというのなら、別にそこまで不思議な光景でもない。

 しかし二人の関係は、恐らくそんなに明るいものではない。


「……んー……?」


 何故だろう、すごく気になる――というか、引っかかる。

 でもただの杞憂の可能性も高いし、どうするべきだろうか。


「……このまま戻ったら、気になってアイリのリレーに集中出来ないかもしれないし」


 給水所に行く代わりに、ちょっと様子を見に行こう。

 もしも普通に話しているだけなら、心の中で謝りつつ立ち去ればいい。


 そう決めて、リタは二人が姿を消した校舎の方まで走って向かった。



続く

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