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【117.競技開始-2】

 オロオロしているミモザに、もう一度大丈夫な旨を伝えている間に、リタたちの順番が回ってきた。


 さっきの失礼な男――アレンも同じ組らしく、隣に並んだ。

 ちなみに彼のパートナーは似た年頃の男子生徒で、リタの方を気に入らない目で見てきている辺り、二人そろって同じ境遇なんだろう。


「用意!」


 杖を持った先生の指示に従い、前に出る。


 開始の合図と共にリタたちが一歩踏み出すと同時、再び脇腹を蹴飛ばされた。


「は――」


 はあ? と言う間もなく、転びかけたリタだったが、ミモザが支えてくれたおかげで地面と対面することはなかった。


「バーカ! お前なんて最下位になっちまえ!」


 言葉通りこちらを馬鹿にしながら走り出していくアレン。

 その後ろ姿を見ながら、リタは心底腹立たしくて拳を握り締めた。


「先輩……あの幼稚なお方はお友達ですか……?」

「え、ええ、まあ……知り合い以上友達未満って感じだけど……」

「それならやり返して良いですか?」


 尋ねておきながら、リタはその返事を待つ気はなかった。

 とりあえずミモザの腰に手を添えて走り出す。


 前を走る二人に向けて魔法弾を撃つと、流石に反撃されることは予想していたのか、飛んでかわされてしまった。


 そんなことをしている間に一番目の障害物――土の壁の前までやって来た。

 チーム数分用意された、見上げるほど高い壁。


 確かにこれは防御魔法ではどうしようもないなと思いつつ、リタは手を壁の方に向けた。


「『水属性初級魔法:ウォールガン』」


 小さい水の塊が勢いよく飛び出し、壁の一部が崩れ落ちた。

 こんな序盤であまり魔力は使いたくないので節約したのだが、威力は十分だったらしい。崩れた部分を足で蹴り広げて先に進む。


 隣を見るとアレンたちは少し手こずっているようだったので、リタは渋々仕返しを諦めることにした。


「アレンはいいの?」

「人に嫌がらせして順位落としたら馬鹿みたいじゃないですか。一位は獲りたくないですけど、出来るだけ上位は目指したいので」

「それもそうね……あいつは後で私が改めて叱っておくわ」


 よく聞く「右左」の掛け声がない状態で、しかも会話までしてるのに危なげなく走れているのは、練習の成果だろうか。

 これは真面目にやれば二位くらいは目指せるかもしれない。



 二番、三番、四番と順調に障害物をこなしていって、いよいよ最後の障害物。

 順位も三位と良い感じだが、上の二組もここで手こずっている様子。


 今までの箇所は前の組を見ていれば大体対策出来たけど、ここはそうもいかない。

 何故なら最後の障害物はマジックアイテムで、対象となる人物によって何が起こるか分からないというランダムなもの。本来は防犯用に使われているものらしい。


「……これを必ず踏まないといけないってことみたいね」

「みたいですね……」


 行く手を阻むように敷かれた、薄く魔法陣が描かれた大きな黒い布。

 ルールとしてこれを飛び越えるのはダメらしいので、仕方なくリタが一歩踏んでみることにした。


 その瞬間、光る謎の物体二つが二人目掛けて飛んできたので、リタは咄嗟にミモザに向かってくるそれも払いのけるように手を伸ばした。

 結果、リタは両方の物体とぶつかることになった。


「わっ……な、なんだこれ……、?」


 謎の物体が強く光ったと思えば、真っ黒な腕輪のようなものが二本、リタの腕にはめられていた。

 それを認識した途端、急に体に重いものがのしかかってきたような感覚に襲われ、思わずその場に崩れ落ちそうになった。


「魔力封じの枷ね……」

「封じるっていうか……吸われてる気がするんですけど……」

「一つならそうでもないんだろうけど、私に着けられる予定だった分までリタが受けちゃったから……」

「な、るほど……」


 話している今も、徐々に体が重くなっていく。

 これはきっと魔力が失われているせいで、体力不足のような状態になっているのだろう。


「う……こ、これで走るの、結構きつい、気が……」


 横目に見ると、他のグループはまた違った障害物が発生しているらしい。

 リタたちがこれだったのは、魔力量が多いことをマジックアイテムに察知されたからかもしれない。


「これ……壊す方法って、ないんですか?」

「レベルによって違うんだけど、流石に魔法祭でそんな高レベルなもの用意しないだろうし……多分生徒の力でも壊せるようにはなってると思うんだけど……」


 気まずそうに言葉を途切れさせるミモザ。


 一般生徒なら難なく破壊出来るものでも、攻撃魔法が極端に苦手な彼女からすると難しいんだろう。


 リタが庇っていなければ、ミモザにも枷がはめられ、魔力が無い状態の普通の二人三脚になっていた。


 そうすると後続の選手たちから魔法の妨害を受けても成す術がなくなってしまう――という障害物だったんだろう、本来は。


 庇ったことにより、被害が一人に集中してもう一人が対処しやすくなった。普通ならファインプレーだったはずだが。


 攻撃魔法を不得手としていることを隠しているミモザからすれば、今の展開の方がよほど最悪だ。


 咄嗟に庇ってしまったのが裏目に出てしまったなぁと、リタは反省した。


「『雷属性初級魔法:エリット』!」


 突然後ろから聞こえてきた声にビックリして振り返る――ことも疲労で出来ずにいると、隣にいたミモザが防御魔法を発動させた。


「何で庇うんだよミモザ!」

「当たり前でしょ!? というかさっきからしつこいのよ、アレンあなたどこまで小さい男なの!」


 いつの間にやら追いついて来たらしいアレンたちが、追いつきがてらにリタに向かって攻撃を撃ってきたらしい――酷い話だ。


 アレンだけじゃなく、他の組も次々と同じ地点まで来ている。このままじゃ最下位になるかもしれない。

 いや、この際最下位になるのは些末なことだ。

 重要なのは、ミモザが何もせずにいる姿をみんなに見られてしまうこと。


「……ミモザ、先輩……走りましょう」

「え、でもリタ、体しんどいんでしょ?」

「このまま突っ立ってたら……怪しまれますよ……」

「けど……」


 ミモザは言葉を止め、何かを考えるように俯いた。

 その間にも他の生徒たちが走り出し、遠くから色々な声援が聞こえてくる。


「棄権しましょう。私が足を挫いたことにするから」

「そんなの……余計、怪しまれませんか……?」

「たとえ怪しまれたって、あなたに無理させて走らせるよりマシよ」


 重い体を引きずりながら、リタは自分の情けなさを痛感すると同時に、ミモザが上達した時のことを思い出した。


 言葉一つ、考え方一つで攻撃魔法の威力を上げられた彼女は、単純なのか優しいのか。

 どの道、人に影響されやすいのだと思う。


 その性格に一か八か賭けてみるとしたら、今リタが言うべきなのは、


「先輩……私、勝ちたいです」

「え?」

「あいつらムカつくんで、勝ちたいから……これ、お願いします」


 腕にはめられた枷に目を向けると、ミモザの視線もそれを追いかけるように動いた。


「でも、私は……」


 迷うようなミモザを、リタは真っ直ぐに見つめて言い切った。


「先輩なら、出来ます……信じてますから……」

「……っ」


 分かった――小さくそう呟きながら、ミモザは手のひらをリタの腕に向けた。



続く

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