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【115.モヤモヤの正体】

「リタ、どうかした?」

「……あ、いや、てっきりニコロが連れていかれたのかと思って……」

「僕が? なんで? アイリのお題知ってるの?」

「い、いや……何となく」


 視線を逸らしながら答えると、ニコロはますます不思議そうに首を傾げた。


「でもアイリ、少し迷ってるみたいだったね」

「そ、そうだね」


 まさか”見ていなかった”とは言えず、話を合わせるように頷いてしまった。


 迷ったというのはどういうことだろう。エミリーを連れて行くか、ニコロを連れて行くかで迷ったんだろうか。

 でも「気になる人」で何故その二択?


 なんて考えている間に、アイリがゴールしていた。その隣で手を引かれているのは、確かにエミリーだった。


 ゴールにいる先生にお題を確認してもらうと、アイリが引いたのはゲーム通り「気になる人」だった。

 そして無事セーフ判定を貰う。

 気になる人というのは、必ずしも好きな人じゃなくちゃいけないというわけではないらしい。


 学祭だしそりゃそうか、と思うと同時に、リタは戻って来るアイリたちをどんな顔で出迎えればいいのか分からなくなった。


「……ちょっとお手洗い行ってくる」


 というわけで、何故かその場から逃げるように立ち去ってしまったのだが、ナタリアもついてくることになった。



「それにしても借り物競争や借り人競争って、特に魔法の使いどころがないわよね」

「徒競走とかもそうだけど、走るだけだしね」


 一応ルール的には魔法で相手の妨害をしてもいいことにはなっているが、そんな人はあまりいなかった。なんとも平和なものだ。


「ところで、さっき俯いてたでしょ。アイリがこっちに来た時」

「あ、バレてた?」

「そりゃ近くだったしね。体調悪いのかなって思ったけど今は平気そうだし……何かあった?」


 何があったかといえば、何もない――のだと思う。

 正確に言うと、何かあったのかもしれないがそれが何か分からない。


 しかしリタ自身も分からない感情を、他人に伝えられるはずもなく。

 言葉を詰まらせるしかないリタを見て、ナタリアは何故か頷いた。


「その気持ち、ちょっと分かる気がする」

「え……私自身も分かってないのに?」

「他人の方が分かることってあるじゃない。その気持ちはズバリ、ヤキモチよ!」

「……やきもち?」


 想定外の言葉に首を傾げると、ナタリアはまた満足そうに頷きながら続けた。


「リタは、アイリが自分以外の誰かの手を取って走って行くのを見たくなかったのよ」

「いやいや、そういう競技だし……」

「それでも見たくないこともあるでしょ。だから顔伏せてたんじゃないの?」

「いや……」


 つい否定しそうになったが、一応真面目に考えてみた。


 リタはアイリが引いたお題を知っていたから「アイリが連れて行く人=アイリの気になっている人」という視点で見ていた。

 それを見たくないと思うのは、確かにヤキモチを妬いていると捉えられるのかもしれない。


「でもさ、こんなことで妬いてるとしたら……キモくない?」

「別にキモくないわよ。仲が良い友達ならあることじゃない?」

「友達に? 本当に?」

「あたしだってバレンタインの時、ミシャとアイリが二人で仲良く何かしてたの見て妬いたわよ。それも気持ち悪い?」

「いや……悪くない」

「だったらリタも気持ち悪くないわよ」


 それだけ言ってさっさと前を歩いて行くナタリアの言葉に、リタは自分でも驚くほどあっさり納得した。


 思い返してみると、リタの行動原理はほぼ全てアイリで、感情が大きく揺さぶられるのだってアイリに対する事柄がほとんどを占めている。

 そんな自分が今更何をヤキモチくらいで躊躇しているんだろうか。


 そりゃヤキモチだってたまには妬くさ――これくらいの感覚でいくべきなのかもしれない。


 最近たまに感じていたモヤモヤした感情も、きっとさっき感じていたものと同じなんだろう。

 ただ、正確にはヤキモチではないのかもしれない。


 アイリが幸せになること――それがリタの願いなのはずっと変わらない。

 しかし最近それが少しだけ変わって、そのそばに自分もいたいと思ってしまっている。


 学校に来るまでは、アイリに認知されなくたって、彼女が幸せな人生を送れるならそれでいいと思っていたはずなのに。

 今では、アイリが自分を置いて誰かとどこかに行ってしまうことを考えると、寂しくてたまらなくなる。


 この感情がモヤモヤしたものに繋がっていたのだろう。


「……でもこれ、推しに抱いていいものなのかなぁ」

「え? 何か言った?」

「あ、いや、何でもない」


 リタにとっての推しは、自分のそばにいなくてもどこかで幸せに生きていてくれればいい存在。二次元だからこそ、直接触れ合ったり出来ないのが当たり前だった。


 それが変わってしまったのは、仲良くなれたからなのか、今は同じ次元に存在しているからなのか。


「ナタリア……人間って欲深いものなんだね」

「どうしたの急に……今日のリタは全体的に変よ」


 苦笑しているナタリアから視線を逸らすと、かなり離れた場所に、どこかで見た顔を見つけた。


「あれ……、なんだっけ、名前……」


 例の、ミモザに顔と名前を覚えられていて喜んでいた彼だ。

 前にもミモザと二人でいるところを見かけたが、妙に縁がある。そして相変わらず名前は思い出せない。


 ――それにしても、なんだろう。


 遠くだからハッキリとは見えないが、妙に落ち込んでいる風というか、フラフラしながら歩いている気がする。今日は運動をする日だから疲れているのだろうか。


 何故か妙に気になって、思わず立ち止まって彼の姿を目で追いかけていると、いつの間にか遠くに移動していたナタリアに声をかけられた。


「リター、置いて行くわよ」

「あ、ごめんごめん」


 駆け足でナタリアに追いつくと、彼女はリタの方を見てニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。


「……何でそんなニヤついてるの?」

「いやー、リタも子供っぽいところがあるんだなぁって思って」

「子供っぽいって……失礼な……」


 前世を含めると、ナタリアよりは年上なわけで、子供扱いされるのは複雑だった。


「それに、本当にアイリのこと好きなんだなって」

「それは否定しないけど…………あ、この話は絶対アイリには言わないでね」

「伝えたら喜びそうだけど」

「……」


 またニヤニヤした顔で見られたので、リタはじとりと目を細めた。

 そりゃ本気で気持ち悪がられたりはしないだろうけど、喜びもしないだろう、流石に。


「もし言ったら、ナタリアが嫉妬してたこともミシャに話すからね」

「絶対に言わないって神に誓うわ」


 意外にも、相当嫌だったらしい。


 ミシャの方こそナタリアが妬いてたなんて知ったら喜びそうだけどなぁと思いつつ、この話は他言無用だと、ナタリアと固く誓い合った。



続く

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