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【113.魔法祭当日と複雑な気持ち】

 待ちに待った魔法祭当日は、見事な青天。


 とはいえ季節は冬。いくら晴れていようとも寒いものは寒いので、リタを始めとするほとんどの生徒が体操服の上に上着を羽織っていた。


「うー……寒い……何でこんな寒い日に外で運動なんてしなくちゃならないんですか……!」


 上着を着てもなお寒そうに腕をさすっているのは、リタの隣に座っているエミリーだ。


「学校行事だから仕方ないよ」


 何度も繰り返される同じ文句を聞いて、アイリはエミリーの隣で苦笑した。

 リタたちのクラスは赤リームなので全員赤いハチマキを巻いているのだが、ハチマキを巻くアイリも可愛いなぁと、リタは本日何度目かの感想を抱いた。


「そうですね……まあリタ様の勇姿が見られるなら、この寒い中でも頑張れますけど」

「カッコいいとこ見せられるよう頑張るね」

「はい!」


 とはいえ、リタが出場する競技は派手に活躍出来そうなものではない。

 まあエミリーなら何を見ても「カッコ良かったです!」と言ってくれそうだけど。


 ちなみに、魔法祭は前世の体育祭と違って保護者が見に来たりはしない。見ているのは生徒と教師だけだ。

 リタとしては、エミリーやラミオの両親にご挨拶なんていう、何としても避けたい展開にならなくて安堵している。


「あ、次ナタリアの番だよ」

「ホントだ。頑張れー!」


 アイリの言葉に顔を向けると、ちょうど騎馬戦が開始されたところだった。


 騎馬役の生徒が魔法を用いて他の騎馬に攻撃を仕掛け、その隙に距離を詰め、騎手役のナタリアが相手のハチマキを奪い取っている。


 すごいなぁと思っていると、飛び上がって相手の騎馬に乗っかってまで奪いに行くワイルドさを発揮し始めるナタリア。


「ナタリアって運動神経いいんだね」


 リタが感心したように呟くと、近くにいたミシャが「そうなの!」と、いつもより高いテンションで頷いた。


「昔からよく男の子と張り合ってたんだよ」

「確かにあれなら男子相手にも負けなさそうだね」


 ハチマキ片手に無双しているナタリアを嬉しそうに見ているミシャ。本当に二人は仲良しだなと、しみじみ思った。



 その後も、ラミオ、ニコロ、エミリー、ウィル――ズル休みしようとしていたところをニコロに無理やり連れて来られた――ミシャと、知り合いの出番が続き、リタはひたすら応援に徹した。


 そして自分のもう一つの出場競技――玉入れを無難にこなした。


「ふう……五個は入れられたかな」


 玉入れは魔法を使うポイントもあまりない地味な競技だ。

 なお、風魔法で浮かして入れたり、土魔法で高い位置に移動してまとめて入れるという効率的な方法は、何故か禁止されている。



 地味とはいえ一つ目の出番を終えたリタは、かいてもいない汗を拭う仕草をしながら、クラスメイトのいるテントに戻ろうとしていた。


「ちょっと、アルベティさん!」

「……はい」


 こういう風に勢いよく名前を呼ばれる時は、決まってロクな用事じゃない。

 ここ最近ですっかりそれを学んだリタは、嫌な顔を隠さず振り向いた。


 いや、それにしたってまさか魔法祭でいきなり喧嘩――もとい決闘を吹っ掛けられることなんてそうないだろう。

 そもそも二人三脚の件は、当日にパートナーを変更することなんて難しいはずだ。


「……あー、えっと?」


 振り返った先にいたのは、見覚えのある女子生徒と男子生徒だった。

 授業や廊下などで何度か見たことがあるので、恐らく同じ学年だろう。ただし名前は思い出せない、それくらいの間柄。


「あなたに決闘を申し込みたいんだけど」

「いや……でも今、魔法祭の真っ最中だよ? また今度でも――」

「今じゃないとダメなの! いいから学生証出しなさいよ!」

「えぇー……」


 少し話しただけでも分かるほど気が強そうな相手なので、下手に断ってもしつこく食い下がってきそうだ。

 リタは渋々ポケットに入れていた学生証を取り出し、立会人らしい男子生徒に手渡した。



 その後、人気のない場所で決闘宣言をして、三人は闘技場へと自動転移された。幸い周囲に誰もいない状況だったので、観客席には誰もいない。


「そういえば賭けの内容を言ってなかったわね。私が勝ったら、今後必要以上にラミオ様に近付かないで!」

「…………え? あ、ラミオ様ですか?」


 驚いてつい反応が遅れてしまった。


 最近あまりにミモザに関係する決闘が多かったのですっかり忘れていたが、ラミオも普通に女子に人気があるんだった。


「で、そっちの要望は?」


 ないです――というわけにもいかない。


 しかしいつも悩むのだが、本当に要望がない。

 向こうはそれがあって挑んでくるんだろうけど、挑まれるこっちは急に考えなくちゃいけないから大変だ。

 なのでリタはいつも通りのことを言った。


「私が勝ったら、今後同じ内容で決闘を申し込んでこないでください」

「そんなことでいいの?」


 そんなことと言われても、実際何度も何度も同じ内容で挑まれたら堪ったものじゃない。


「まあ、それでいいならいいけど……私はこの勝負が終わったらラミオ様に告白するの!」


 まるで負けフラグのような台詞に対し、どうぞご自由にという気持ちと共に一礼するリタ。


 みんなの応援をするためにも、アイリに帰りが遅いと心配をかけないためにも、早めに終わらせる必要がある。


 なので、立会人の男子生徒の掛け声で決闘が始まると同時、リタは上級魔法をぶっ放して終わらせた。




「うぅ……ひ、酷い……」


 結果、泣かれてしまった。


「ご、ごめん……早めに終わらせたくて」

「しゃーねーよ。特待生に勝負挑んだお前が悪いって」


 そう言ったのは、立会人の男子生徒だった。

 ちなみに女子生徒はリタの上級魔法をすんでのところでかわした後、すぐに降参宣言をしたので、怪我などはしていない。


「ごめんな。こいつ、ラミオ様にバレたくないからって、このタイミングが良いって言って聞かなくってさ」

「確かに今なら誰にも見られないもんね」

「そういうこと。にしても、アルベティってラミオ様と付き合ってんの?」

「はぁ!? 付き合ってるの!?」


 リタは特に肯定していないのに、すごい勢いで食いついてくる女子生徒。


「いやまさか……私なんか恐れ多いから」

「へー、じゃ、ラミオ様よりアイリの方が好きなのか?」

「はぁ!?」


 今度はリタの方が素っ頓狂な声をあげてしまった。


「あ、アイリのことは大好きだけど、そういう好きじゃないよ」

「でもいつも一緒にいないか?」

「そりゃ友達だし……」

「それはそうだろうけどさ……お前って変わってるよな。例えば俺がエミリー様に求婚された日には、喜んで飛びつくよ」

「私はあんまりそういうの興味ないから……」

「何よスカしちゃって! あんなに素敵なラミオ様から求婚されてるくせに! 友達なんかより普通ラミオ様でしょ!?」


 泣きはらした顔でそう叫ばれて、早くこの場を立ち去りたい気持ちでいっぱいになった。


 何でみんなそんなに王族になりたいんだろうか。

 リタ的には、しきたりとか因縁とか立場故の責任感などで押しつぶされる未来しか見えなくて、とても嫌なのだが。


 ……いや、なりたいのが普通なんだろうか、この世界では。リタの前世でだって、地位や階級を気にする人は多かったくらいだから。


 興味がないなどと言ってスカせる――スカしているつもりはないのだが――のも、リタが今のところアイリにしか興味がないからなのかもしれない。


「ラミオ様にあれだけ思われてるくせに、友達の方が大事なんて馬鹿みたい!」

「おい、負けて悔しいからってあんまり好き勝手言うなよ」

「だって……、まあ数年後後悔するといいわ! フォーニなんかよりラミオ様を選んどけばよかったって、ぜーったい思うんだから!!」


 力強く宣言して、女子生徒はそのまま闘技場の出入り口へと走って行った。

 リタがその背中を呆然と見つめていると、同じく取り残された男子生徒が気まずそうに「あー」と声をあげた。


「悪い。あいつ、色々拗らせてるみたいで……迷惑かけたな」

「いや……」


 大丈夫、とは言えなかったが、きっと彼も彼女に振り回されているんだろうと思うと、責める気にはなれなかった。

 それにしてもラミオは人を狂わせることが多いなぁと、いつの日かのエミリーを思い出し、少し懐かしい気持ちになった。




 小走りで闘技場からグラウンドに戻るまでの間、暇なので考えてみた。


 この学校に限った話じゃなく、この世界全体で、魔法は貴族が使うもの――という考えの人がかなり多い。そして自分が魔法を使えることを誇りに感じている貴族も多い。

 だからリタやアイリのように、庶民なのに一部の貴族よりも強力な魔法が使える人は、疎まれやすいのだ。


 貴族からすれば、格下の立場なのに実力だけあって鬱陶しい。

 庶民からすれば、同じ庶民なのに魔法が使えるなんて妬ましい――そんな感じだ。


「もしもアイリが無事卒業出来たとしても、その先はどうなるんだろう」


 故郷では、リタもアイリも浮いた存在だった。

 リタには理解のある家族がいるが、アイリはそうでもない。代わりにニコロがいるけど、アイリは人前でニコロと絡むことをどこか遠慮している節がある。


 家族には冷たくあしらわれ、友達もロクにいない。

 アイリはまたそんな生活に逆戻りするんだろうか。

 それとも魔法が使える職業なんかに就けたら、多少マシになるんだろうか。


 庶民出身ということは一生変わらない。

 それでも地位を変えたいのなら、方法はいくつかある。例えば、


「……貴族との結婚とか」


 脳裏に浮かんだアイリの結婚式。

 豪華な式場と、たくさんの人たちに祝福される光景。その隣に立つ相手が誰かまでは流石に上手く想像出来なかったけど。


「アイリの結婚式……間違いなくエモいはずなんだけど……」


 そんな幸せな未来を目指して全力で応援していこう、という気持ちになれないのは、一体何故なんだろうか。

 むしろその光景にどこか寂しさすら感じる。


 リタがそんな自分の感情に訳が分からなくなっている間に、気が付いたらグラウンドまで戻って来ていた。



◆ ◆ ◆



 クラスのテントに行くと、アイリに声をかけられた。


「リタ、お疲れ様。遅かったね」

「ちょっと先生に引き止められちゃって」


 さっきと同じ場所に腰を下ろすと、エミリーの姿がなくなっていた。恐らく出場者ゲートのところに移動したんだろう。


「アイリの借り人競争ももうすぐだよね」

「うん」


 アイリの出場種目は、どちらもゲームと同じになった。


 もしも競技中の展開まで同じだとしたら……アイリが引くお題は「気になる人」なんていうコテコテなものになる。


 恥ずかしがりなアイリが躊躇っていると、そのルートの攻略対象がアイリに声をかけ、勇気を出したアイリが彼の手を引き連れて行く――という流れになる。


「……まさかねぇ……」

「え? なに?」

「いや、何でもない。頑張ってね」

「ありがとう」


 アイリが誰かとフラグを建てている気配もないし、何度も言うがこの世界だって何でもかんでもゲーム通りに進むわけじゃないだろう。


 ……でももしも同じ展開になったら、その時アイリは誰の手を引くんだろうか。


 頑張るぞと意気込むアイリの隣で、リタは何故かそのことを考えてモヤモヤした気持ちになり、小さく唸った。



続く

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