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【110.モヤモヤ】

 ――果たしてアイリは誰にチョコを渡すのか。


 それが気になって仕方ないリタは、自然と彼女の動向を凝視していた。


「あの……リタ、何か用があるの?」


 昼休みが終わる頃、本人にそう尋ねられてしまうくらいには、その視線はバレバレだったらしい。まあ朝からずっと凝視していれば、バレもする。


「い、いや……何でもないよ」

「本当に? なんか今日はやけに視線を感じるんだけど……」

「アイリが可愛くて見てただけだよ。いつも暇さえあれば見てる」

「……恥ずかしいからあんまり見ないでね……」


 そう言って困ったように笑うアイリは、いたって普通、いつも通りだ。


 本当にナタリアが言っていたように、チョコを誰かに渡すつもりでいるんだろうか。嘘をつくのが下手な彼女が、こんなにも態度に出さないなんてことあり得るんだろうか。


 このまま一人で悩んでいても何も解決しないと気が付いたリタは、思い切って聞いてみることにした。


「アイリ、何か私に隠してることない?」

「かく……、え? な、ないよ? ど、どうしたの? 急に……」

「――」


 明らかに動揺しまくっている返事に、リタの方も動揺してしまった。


 この不自然さは間違いない。

 アイリはリタに隠れて誰かにチョコを渡すつもりなのだ。そしてそれをミシャには教えて、リタには教えてくれなかった。

 つまりリタは彼女に全く信頼されていないのだ。


「……」

「えっ!? な、なんで急に机におでこ打ち付けたの?」

「ショックなことがあって……」

「大丈夫……?」


 アイリのせいなんだけどね――とは言えず、黙って頷いた。


 そもそもアイリに隠し事をさせる程度の人間関係しか築けなかったリタが悪いのであって、彼女に文句を言うことは八つ当たりになる。

 そんなダサい真似をするわけにはいかず、リタは机に突っ伏して目を瞑り、何とか気持ちを立て直すことにした。


「……リタ、もしかして何かあったの?」

「イヤ、ナニモ」

「すごい棒読み……。言いたくないなら無理には聞きださないけど、私に出来ることがあったら言ってね」

「……」


 いつもなら身に染みる彼女の優しさが、今ばかりは刃物のようにリタの胸にグサグサと突き刺さった。

 そのダメージに震えていると、誰かが目の前に立った音が聞こえてきた。


「リタ、これを受け取るが良い!」

「……ラミオ様」


 机の上に置かれた小さな箱。赤い包装紙で綺麗にラッピングされているそれは、バレンタインのチョコなんだろう。エミリーとは違い、随分と控えめなサイズだ。


「パティシエから、エミーにも頼まれていると聞いてな。ケーキ二つは食べきれないだろうと思って、俺様はあえて小さめにしてみた!」

「ご配慮いただき助かります……ありがとうございます」

「うむ。うちのパティシエの自信作だ、遠慮なく食べ――」

「ラミオ様ー! ちょっといいですかー?」

「ああ、今行く。ではまた今度にでも感想を聞かせてくれ!」


 颯爽と立ち去って行ったラミオは、そのまま女の子たちに囲まれてプレゼント攻撃を受けていた。彼は今朝からずっとあんな感じだ。


 ラミオほどではないが、ニコロも何度か呼び出されているのを見るし、流石攻略対象たちといったところだろうか。

 ただウィルだけは、退屈そうにあくびしていて渡されている気配は微塵もないが。何だろうこの違いは。


「ラミオ様、朝からひっきりなしですごいね」

「うん……ニコロも……かなり貰ってるみたいだけど」

「ニコロは昔から人気あるから」

「あー……、アイリはニコロには渡さないの?」

「渡さないよ」


 躊躇ないその言葉に、嘘をついている感じはない。

 となると、用意されているチョコの行き先はニコロではない。

 だとしたら一体誰に……もしかして授業で知り合ったリタの知らない人だったりするんだろうか。だからリタには教えてくれなかったとかなら、まだ理解出来なくはない。ショックなことに変わりはないけど。


「……リタは誰かにあげたりしないの?」

「……」


 アイリこそ誰かにあげないの? と返したら、彼女は素直に教えてくれるのだろうか。

 一瞬そうしようかと思ったが、ここでまた下手な嘘をつかれたら今度こそ立ち直れないくらいのダメージを受けてしまいそうだったので、やめておくことにする。


「あげないよ。私、そういうの興味ないし」

「そっか……」


 何か言いたげにソワソワしているアイリから視線を逸らし、ふと考える。

 自分は一体何に対してここまでショックを感じているんだろうかと。


 アイリが、チョコを渡すくらい気になっている人がいるのに、自分に全く話してくれなかったこと――でも人にはプライバシーがあるし、言う言わないは自由だし、そんなに気にすることなんだろうか。

 そもそもアイリが恋をするのは、リタ自身が前からずっと望んでいたことのはず。

 むしろ自分は喜ばないといけない立場だ。


「……アイリ」

「ん?」

「私、アイリを応援するからね!」

「どうしたの急に……何を応援してくれるの?」

「えっと……色々!」


 恋の応援、なんて言えるわけもなく大まかに言うと、アイリはよく分からないという風に首を傾げた。


「あ……あの、フォーニさん、ちょっといいかな?」

「え?」


 すると、一人の男子生徒に声をかけられた。手にはどこかで購入したと思しき紙袋。

 気まずそうにリタの方をチラチラと見ているところから、用件は明らかだ。


 お邪魔な雰囲気を察したリタは、お手洗いに行くフリをしてその場から立ち去ることにした。



続く

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