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彷徨うモノ 前編07

「杏華。まず我々が取るべき行動は何でしょうか」


「まずは、我らが身を守れる拠点の構築。次に、あの鳥、タタリモッケの特性に応じた討伐……でございますかね?」


「今までの流れに沿うのであれば、妥当な判断ですね。ですが、今回はひとつ、新しい概念を加えます」


 月牙様は頷き、言葉を続けました。


「多くのケモノは、環境や食物不足などの要因から、緩やかに心身の健康を侵され、魔物に転じます。しかし、タタリモッケは違う。ある程度人為的(・・・)かつ明確(・・)なきっかけを与える事によって、怪鬼への変化が始まるのです」


 無害な玲瓏鳥を、人に害為す巨大なタタリモッケに転じさせている元凶。それに手を打たなければ、いくら討伐を重ねても、次代がすぐ産み落とされてしまう可能性がある。


「よって、対象のケモノを怪物や怪鬼に転じさせている原因(・・)を特定し、排除する。この概念を含めた、三つの対策を主軸に対策を考えていく。この考え方を、怪物対策三項ケモノたいさくさんこうと呼びます」


 台所の隅に、無造作に積み上げられていた小皿を三つ。それを輪になるよう床に並べながら、月牙様は言葉を紡ぎました。


「ケモノ対策の第一項は、君が言った通り『防護ノ陣』。長期戦を想定した、安全な拠点と兵站(へいたん)──食料や医療品の確保です」


 討伐が数日のうちに完了するとは限らない。

 数日、半年、あるいはそれ以上。それだけの期間、人々が無防備であったら。また、相対するケモノの繁殖能力が強く、一頭を獲る間に数頭に増えてしまっていたら。

 それらの可能性を考えるとき、最初に執るべき行動は討伐という一方的な『攻手』ではなく。


「人里への怪物の侵入を防ぐ結界。ケモノの襲来を察知するための獣ノ見櫓(けのみやぐら)や、土塁(どるい)等の施工。農地や家畜の防御も、この対策に含まれますね」


 守られるべきものが無防備な状態では、討伐もままならない。いつケモノが襲来するのかと緊張する日々が続き、体力や食糧が尽きるのが先だと、月牙様は仰いました。


「なるほど。その観点ですと、アカナメが斎ノ社(イツキノヤシロ)に住み着いていた、ニッケイ村の環境は最悪だった訳でございますね」


「それはもう。厄介な例の代表格として挙げられるくらいですよ」


 ワタシの相槌に、月牙様は苦笑いしました。


「まずは、我々が腰を据えて対策に着手できる陣地を築く。その為にはケモノを特定し、対象に合わせた護符や結界を用意する必要があります。多くの場合、全ての家々をあらゆるケモノから守り、囲む事は現実的ではありません」


 人が暮らす地なら川があり、人通りがあり、抜け道がある。土地の全てを守れる『防護ノ陣』の設置は、地形的に困難なことが多いのです。

 また、もし大規模な設置ができたとしても、日常の管理にかかる労力は膨大。ひとつのほころびが、全体の守りにも影響してしまいます。となれば。


「ひとつの結界で広域を守るより、要所の守りを確実に行う。それが多くの場合、現実的な守備方法です……この国の巫師が扱う結界は、この『防護ノ陣』構築に特化しています。護りと浄化の技術は、怪祓(けばらい)の概念と相性が良いですからね」


 そこまで言って、口が滑ったとでも思ったのでしょうか。月牙様は、ワタシが口を挟む前にわざとらしい咳払いをしました。


「とにかく。相手のケモノを特定し、防護ノ陣を気付けたなら次は基本項の二。『寄セ物除去』を試みます」

◇鳥獣被害対策 三本柱

 対策三項の元ネタ。本来の項は「被害防除」「環境整備または誘引物除去」「個体数/個体群管理および捕獲」。本来の被害防除は田畑等を守る対策だが、怪物向けという事で少し内容を変えている。なお、獣用の監視やぐらや土塁は古くから日本に存在する。

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