第6話
「……!」
何か言おうとしたが言葉にならない。
僕は絶句しながらも、頭の中では色々と考えていた。
ゲイボルグは伝説の竜の名前で、神話やおとぎ話に出てくる。
地上から悪魔を追い払うため、神々が遣わした竜の一匹だ。人間の勇者たちを背に乗せて共に戦い、悪魔を一掃することに大きく貢献したという。
爪や牙、ブレスといった攻撃力、強靭な肉体など、現代の竜が持っている性質に加えて、魔法を操る能力まで有していた。人間の魔導士では扱えぬ高位魔法を、当たり前のように使っていたらしい。
その魔力の高さ故、彼ら竜たちは魔竜と呼ばれた。肌の色も緑ではなく、闇のような黒色で……。
『ほう、わかっておるではないか。そう、その魔竜。そのゲイボルグだ』
黒竜は口の端をわずかに吊り上げる。
僕が無言でもこの反応なのだから、勝手に思考を読み取ったのだろう。やはりその気になれば僕の心まで読めるし、それを禁じるルールも竜には適用されないようだ。
『人間は我ら魔竜を、随分と神格化しておるのだな。我らとて……』
声の響きが苦笑いに変わった。耳から聞こえるのと同様、直接脳内に響く声でもニュアンスの違いは伝わるらしい。
『……自然界に存在する生き物に過ぎない。汝らと同じなのに』
「どういう意味です? あなたみたいな伝説の竜が、僕たち人間と同じとは……」
僕が声に出して聞き返すと、ゲイボルグは実際にフンと鼻を鳴らしてから、テレパシーによる説明を続ける。
『腹が減っては動けない。それが現在の我だ。汝も空腹で、食料を探してここへ迷い込んだのだろう?』
竜との遭遇ですっかり忘れていたが、この洞窟に来た理由は、食べ物を探してくるよう言われたからだ。あの時デニックの言葉で思い出したように、改めて僕は空腹感を自覚し始めた。