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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第2章

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66 交渉は決裂


           *      


 客車の中はボックスシートかと思っていたら、ロングシートだったわ。こっちのが馴染み深いけれどね。お客さんは居ない。もしかしたら他の客車に逃げたのか、初めからいなかったのかは分からない。

 客車の進行方向の方に泥棒の二人が立っている。こっちは非戦闘員含めても七人いる。諦めて降伏して欲しいわ。お姉様もそう思ったのか、不敵な笑みを見せる。


 「どう見ても数では負けてるじゃない? この辺で投降してくれると、私助かるんだけどなぁ」

 「あら、もう勝った気でいるの? 随分とお強いのね? じゃあ、駅に到着するまでの間相手してもらおうかしら?」

 「お、おいお前ら、お、おとなしくしてたら、み、見逃してやるぞ」

 女性の方は勝気で自信満々といった感じ。対して男性の方はとても気弱だ。


 「嫌よ。それを返せば見逃してもいいけどねっ!」

 ソフィアが一歩前に出て訴える。

 「あら、それは出来ないわ。こっちも仕事なのよ。そうねぇ、お屋敷でのお賃金(オチンギン)戴いてないから、代わりとして戴くわ」

 「なっ、そんなの認められるわけないでしょう!」

 「あら、お賃金(オチンギン)は労働者の当然の対価でしょうに」

 「なーにが労働者よ、この泥棒!」

 「ふふふふふ。じゃあ交渉決裂ね。駅に着くまで生きてたらまた会いましょ。お前達っ!」

 そういって、パンパンと首の横あたりで手を叩く女性。それと同時に、客車の前と後ろの扉が開き、いかにもなチンピラっぽい男から屈強な男まで所狭しと入ってきた。用意周到だね。こんなん用意するならもっとスマートに奪えただろうに…。


 「じゃあ頑張ってね」

 手をヒラヒラさせて前の扉へ消えていく。

 「ふ、ふひひ…。こ、これは有効に、活用してやんよ」

 男も鞄を大事そうに抱えて前の扉に消えていく。

 「へぇ、女もいるじゃん。これは楽しめそうだなぁ。へへへっ…」

 「俺は、あっちのネーちゃんもらうぜ」

 「子供相手か…。興奮するぜ」

 「ま、泣いても止めねーけどな。はははっ…」

 「おい、こいつ女か? 絶対違うだろ」

 「こいつはいいや。だが、あっちのガキなら使えるだろ?」

 「時間はたっぷりあるからな。楽しもうぜぇ」

 ゲスな笑いをする男達。さっきまで数で勝っていたけど、これはちょっときついんじゃないだろうか?


 「ねぇ、何でもう勝った気でいるの?」

 心底理解できないとばかりに、静かにお姉様が呟く。

 「は? 何言ってんだ、このア―――――」

 言い終わる前に、一人の男がお姉様に吹っ飛ばされる。マジで? お姉様剣がなくても強いの?

 「大口叩いたんだから、ちゃんと最後まで楽しませてね?」

 憐れむような顔で、手招きする。


 「おい、お前らっ!」

 誰が言ったか、自然と前方をお姉様とエペティスさんが。後方をエリーとプロフィアさんに別れ、殴り合いを始める。

 真ん中で取り残される私とソフィアとレオナルド。

 四人があまりにも強いので、こっちまで敵が来ないのが救いだ。ソフィアは言わずもがなしゃがみこんでいる。レオナルドはというと、私にしがみつき、「どうしましょうクリス」なんて言っている。私を守る発言はどうなったんだろうか? こうなるのが嫌だから、ちゃんと屋敷で待っていればよかったのよ。


           *      


 殴り合いと言ったけど、訂正するわ。一方的な虐殺だわこれ。

 お姉様はドレスで、エペティスさんはロングのメイド服なのに、スカートのボリュームを感じさせることなく、軽やかに戦っている。エペティスさんの上段蹴りはホント惚れ惚れするくらいかっこいい。

 顎に蹴りを食らった男の一人がそのまま倒れると、一人二人と近づいてくるが、そにまま上段回し蹴りで、二人の男の顔の横っ面を吹き飛ばす。うち一人は客車の窓に突き刺さっている。蹴りが得意なのかと思ったけど、ちゃんと手の方も得意なようで、男の顔の真正面に掌底を打ち込む。鼻から血を迸らせ倒れる。鼻の骨折れたんじゃないだろうか。


 勿論、お姉様も負けていない。垂直に飛び、空中回し蹴りで男を三回転ほど回して吹き飛ばす。よくあんなに高く飛べるなぁと、感心する。

 二人とも、顔めがけてのハイキックが多いのは、一撃で急所を狙っているからなんだろう。的確に顔を蹴り飛ばすので、一撃で行動不能になり倒れる。男達は学習しないのか、自分だけは大丈夫と思っているのか、次々と襲いかかるが、あっという間にのされてしまう。二人とも体幹が強いのか、あんだけ飛んだり跳ねたり回ったりしているのに、動きが安定している。一体どんな鍛え方をしたらああなるんだろう?


 残り四人というところで、勝てないと悟ったのか、それぞれ顔を見合わせ、一斉に突進してくる。

 一人目はエペティスさんがお腹目掛けて中段蹴りをして、沈ませる。

 二人目はお姉様が上段蹴りをして、顔を客車の天井にめり込ませた。

 三人目は、エペティスさんが、勢いに任せて、後ろ蹴りをして吹き飛ばす。

 しかし、四人目はその攻撃の目を掻い潜り、私の前まで来てしまった。正直、私の前に来たから何だという話なのだが、残った男はもう、誰でもいいから危害を加えたいという目標に変わっているようで、私に向かって掴みかかろうとする。


 まぁ、私だって伊達にミルキーさんに教わってはいないので、ソフィアみたいにしゃがみガードで回避しようなんて考えてない。

 襲いかかる男を利用して、首のあたりまで高く飛び、首を私の股で挟み込んで一回転。その遠心力を利用し叩きつける。叩きつけられた男は口から泡を吹いて気絶している。

 いやー、一回やってみたかったんだよねこれ。上手く決まって満足だわ。そんな様子を見てお姉様が一言。

 「私よりエグいことするわね」

 何を言いますお姉様。お姉様の周りは死屍累々と倒れ伏した男達で埋め尽くされているじゃないですか。お姉様が倒した相手はちゃんと息してますか?

 レオナルドは目を見開いてポカーンとしている。エペティスさんは目を細めてニッコリしている。これはネタが思いついた時の顔だな…。


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