57 似た者同士
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何とか無事? に屋敷へ着いたのだけど、何故かやたらと馬車が多かった。
馬車には王家の紋章が描かれている。
確かに朝一で王家に早馬でチクったけれど、それにしても到着が早すぎないかしら。それにこの馬車の数。レオナルドを連れ戻すにしては多くないかしら?
馬車から降りてきたレオナルドもこの馬車の数に言葉をなくし、顔を青くしている。
そんなレオナルドの元に屋敷玄関の方から声が掛けられる。
「レオちゃんこっちよ~」
随分と間延びした、でも気品のある声がした。
皆が一様に振り返ると、多くの従者を従えた圧倒的に気位の高そうな女性が、お母様と一緒に歩いてきた。メチャクチャ綺麗で若く見える。うちのお母様とあんまり変わらない気がする。
そして、『レオちゃん』なんて呼ぶのはもう決まってる。レオナルドの母親。つまり王妃様だろう。
他のみんなに一拍遅れてカーテシーの礼をとる。あっぶねー。棒立ちしていたら何て言われただろう。
ウィリアムもエリーも胸に手を置いてお辞儀している。
「あらあら、いいのよぉ。そんなかしこまらなくても。公式の場じゃないんだから」
その言葉で皆、姿勢を楽にするが、一人だけ固まったままでいる。レオナルドだ。
「レオちゃん、ダメよ~。勝手に外泊しちゃぁ、めっ! ですよ」
「はい。すいません。お母様」
謝れて偉いねレオちゃん。
ただ、一緒に来たお母様は笑顔なんだけど、眉間に青筋が浮かんでいる。なんとか表情を取り繕うとしているけれど、我慢できそうにないらしい。
「エテルナ王妃、ちょっと外しますが宜しいでしょうか?」
「もう、呼び捨てでいいっ言ってるのにー。で、どうかしたのかしら?」
「えぇ、ちょっとクリスに確認したい事が出来まして」
「わかったわー」
そうの言葉と同時にチョイチョイと手招きをされ、みんなから声が聞こえないくらいの場所まで移動する。
「ちょっとクリス、何でパジェロ将軍と辺境伯領の令息がいるのかしら?」
「将軍はウィリアムと一緒に、お母様のイベントを見た帰りに偶然会いまして、エリーに関してはお店で一緒になりました」
「さらっと言ったけど、聞き逃さなかったわよ。私がキュアエイジングショーをやっているの知ってたの?」
「そりゃあ、分かりますよ。寧ろ、髪を変えただけで気づかない周りの方が異常な気がしますけど…」
よろっと傾き態勢を整えるお母様。
「そんな…。私の変装は完璧だと思ったのに」
「私以外は気づいてないから大丈夫ですよ。多分…」
「一応秘密だから、他のみんなには内緒よ」
人差し指を唇に当てウインクするお母様。ウィリアムじゃないけどドキッとしちゃったわ。
そして、エリーが街でひったくりを捕まえるときに着ていた服が破けてしまったので、代わりの服をあげた事。成り行きでみんな一緒に来た事を説明した。
「そうなのね。クリスは優しいわね。でもね、何で私の衣装にしたの!」
笑顔なのに鬼気迫る感じで圧をかけてくるお母様。別に嫌がらせでやったわけじゃないのに。
「好きな衣装をどうぞって言ったら、結構な時間をかけてあの衣装を選んだのよ。別に私は選んでないですよ」
ホントにぃ? って顔で見てくるお母様。信じてませんね。
「ま、まぁいいわ。それよりもあの親子はどうして、あの格好をしているの?」
「逆に聞きますけど、あの格好って会員規則らしいですけど、お母様が規則を作ったんじゃないんですか?」
「待って! 何その会員規則って?」
「えぇ…。お母様が知らなかったら、私知りませんよ。直接聞いたらどうです? ファンの、えーっと、何でしたっけアンチオキシダントとやらに」
「その名称は、私が考えたけど、内緒でやってるのに聞けるわけないじゃない。あとでこっそりウィリアム君に聞いておいてくれない?」
「えぇ…。絶対一週間は話聞かないといけないパターンじゃないですか…」
「はぁ…。しょうがないわね。じゃーあ、一週間、私の衣装を着て過ごしてくれたら聞かなくても大丈夫よぉ」
代わりにすっごくいい案を思いついたぞみたいな事言ってるけど、全然良くないよ。そんな事したら、ウィリアムにあれこれレクチャーされそうだもの。
「百歩譲って、着るとしてどっちなんです?」
「どっちとは?」
「今日、王妃様とイベント出演したんでしょう? 黒と白の衣装で。どっちがお母様か知りませんが…」
目をパチクリして、驚くお母様。別にそんな驚く事でもないでしょうに。
「だって、王妃様がここに居て、アンジェさんもミルキーさんもメアリーも出演してなくて、黒と白の二人がカッコよかったってウィリアムが言っていたら、自ずとそういう結論に行き着くと思うんですが…。間違ってます?」
「……合ってるわ。昨日レオナルド殿下がうちに泊まると言いだしたときに早馬を出したんだけど、その時の返事で、連れ戻すついでに前々から出たいと言っていたイベントに出るって書いてあってね、それで急遽二人で参加したのよ。初参加なのに息もぴったりでびっくりしたわよ。エテルナ様曰く息子がいないのは予想外だったそうですけどね」
類友ってやつかな? しかし、王妃様も自由すぎない?
「私が黒い方をやっていたのだけど、そうね。クリスには黒と紫を一週間交代で来てもらいましょう」
手を合わせてにっこりと微笑むお母様。
「そんなことしたら、ばれるんじゃないですか?」
「うーん、それは困るぅ」
バレたくないならやらなきゃいいのに。
そんな感じで話し合ってると、みんな集まってる方が何か騒めきあっている。
「あれだけ見ると、将軍と辺境伯の子の方が親子に見えるわよね」
確かに。筋肉だし、髪の毛短いし、パッツパツだし、何より絵面がヤバイ。
話もそこそこに戻ると、エリーがレオナルドに抱きつき、何かを懇願している。
「王妃殿下、どうかレオナルド殿下の婚約者候補になれませんでしょうか?」
戻ったら、なんかすごい事になっていた。
というか、めちゃくちゃイケメンボイスで普通の喋り方できるんだな。裏声で間延びした喋り方がデフォルトだと思ってたよ。
「は、はは…。お、面白い冗談をいいますね。お、男同士で結婚なんて出来るわけないですよねぇ、お母様」
目の下にクマのようなものをつくって狼狽えるレオナルド。急に顔色悪くなったわね。いや、今日は終始悪い気がするわ。
王妃様はというと、目を細め上を見ながら、うーんと顎に手をやり考える。
(男の子と見破れないんだから、エリザベスちゃんとくっついても面白…、いや、私に実害が出そう…。でもこんな面白そうな事なかなかないしどうしましょう…)
何か小言でブツブツ言っている。よく聞き取れないな。
そんなお王妃様は、お母様やミルキーさんを見た後、口角を上げ、パチンと手を合わせて決断する。
「ねぇ、レイチェル。ここのお屋敷で一番格闘術が強いのはだぁれ?」
「それは、ミルキーでしょうね。頭一つ抜けてますし」
「じゃあ、決まりね。エリザベスちゃんがミルキーちゃんに勝ったら、婚約者の候補として考えます。どうかしら?」
「はい。それでいいですわぁ」
あーあ、口調が戻っちゃったよ。
「えぇ、私がですかぁ…」
まさか自分が振られると思っていなかったのか、動揺を隠せないでいる。先ほどの馬車揺れで三半規管が弱ってないだろうか?
「ミルキーさん体調大丈夫?」
伺うように聞いてみる。少し青い顔をしているが殊勝な答えが返ってくる。
「このくらい、いいハンデになっていいかもしれないですぅ」
うっすらと開眼し笑うミルキーさん。これは強者の顔だわ。




