55 筋肉モリモリマッチョマンのフリフリ再び
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応接室は事務所の隣にある。
主に貴族や豪商の方用のスペースなので、内装や家具はシックな高級品でまとめてある。成金みたいな調度品ばっかりおいたら嫌味な感じするものね。あくまで、分かる人には分かるレベルのものを置いている。逆に分からなかったら見る目がないという事で。
そんな応接室で、ソファーに私とソフィア。向かい側にレオナルドとエリーが座っている。部屋に入った瞬間に腕を掴まれ逃げられないようガッチリとホールドされたレオナルドは肉食獣を前にした小型の草食動物みたいにプルプルと震えている。
半裸の女装男子とイケメン王子の組み合わせはいいBL本になりそうですね。あ、私はもう書きませんよ。
私の後ろではミルキーさんが控え、エリー側の後ろではプロフィアさんが控えている。
そして一番驚いたのは、カリーナが接客している事だ。
黒地のロリータ風のワンピースで、紫のティアードスカートが見えるようたくし上げた黒地の裾が印象的。胸元の紫の大きめの折り重なったジャボタイと黒のリボンが対照的でかわいい。どうしたの今日は? 随分とオシャレじゃない?
「ふふふ。聞いてくださいよ、クリス様。この子ったら、この前ロリータ服を着てきたクリス様を見て、今日は一緒になるかもって気合い入れてきたんですのよ」
「ちょ、ちょっとやめてよ母さん」
「でも、残念だったわね。今回もお揃いにならなくて。でも、今回のはドレスに近いからちょっとお揃いかしらね」
「~~~~~~~~~!」
真っ赤になったカリーナをコロナさんが揶揄っている。カリーナの印象ここ最近でメチャクチャ変わったわ。いい意味で。
「この紅茶も美味しいけど、特にこのマフィン凄く美味しいわ。どこで買ってきたのかしら?」
「……つくったの……」
「え?」
「それ、私が作ったの」
お盆で真っ赤になった顔を隠すカリーナちゃん。めっちゃかわいい。
「へぇ、それはいいお嫁さんになりそうだね」
エリーの呪縛から解放されたレオナルドが一口食べてそう告げる。
「お、お嫁さんだなんて!」
頭から白い湯気がこれでもかと出ている。今日は寝込んでしまうんじゃないだろうか。というか、レオナルド。カリーナが男だって知らずに言ってるわね。
「ほぉんと、すっごく美味しいわぁ」
「ホントね。お店できるレベルよ」
エリーもソフィアもバクバクと着族らしからぬ勢いで食べている。
「紅茶もカリーナが淹れたんですよ」
「へぇ、凄く美味しいわ」
「えぇ、とても風味豊かで淹れ方が上手です」
「お、お客様の為だから! アンタのためじゃないんだからね!」
そう言って小走りで部屋を出て行ってしまった。よっぽど恥ずかしかったんだろう。
「まだまだ未熟で申し訳ありません」
部屋を出て行ってしまったカリーナに変わってコロナさんが謝る。
「いえいえ、いいんですよ。そのうち慣れますよ。しかし、本当に可愛らしい娘さんですね」
いやぁ、あの様子だと、より一層恥ずかしがるんじゃんないだろうか。
それと、レオナルドはもう少し人を見る目を養ったほうがいいんじゃない? エリーの性別くらいしか合ってないじゃないの。
しかし、二人ともよく食うなぁ。結構な量あったと思うけど、もう殆ど無いじゃない。後ろでエリーの従者のプロフィアさんが食べたそうにうずうずしている。甘いもの好きなのかな?
大体二時間くらい経っただろうか。
エリーの衣装が完成したようで、設けられた試着室で着替えるエリー。
「覗かないでくださいね、レオナルド殿下っ!」
「覗きません。覗く訳がないじゃないですか」
「んもぅ! こういった時はぁ、覗くのが常識なのよぉ」
「そんな常識ある訳……」
そこで、私の顔を見るレオナルド。
「何ですか? レオ様。私の顔に何か付いてますか?」
「い、いえ、その何でもないです」
「?」
「私は言われなくても堂々と覗くわよ」
あ、そういう事か。なるほど、ソフィアの言葉で分かったわ。というか、勝手に覗かないで欲しいのだけれど。レオナルドもムッツリスケベなんですねぇ。気をつけないと。