47 青の洞窟
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店員さんに見送られながら、中へ入ると圧巻だった。
「うわぁ……」
「うわぁ!」
私はあまりの光景に溜息をつき、ソフィアは感嘆の声を漏らす。
店舗の三分の一くらいの広さの部屋に人二人が余裕で通れるくらいの感覚で本棚が並んでいる。それにしても多くない? ○ロンブックスより多いんじゃない?
「ここからここまでがクリス様本になります」
ほぼ全部じゃん。一つの列を除いて私の本って、どんだけ私の事好きなのよ…。まぁ、ラブじゃなくてライクの方なんだろうけど。
「ね、ねぇ、よ、読んでもいいかしら?」
期待と羞恥がないまぜになった感情で試し読みをご所望のソフィア。
「えぇ、どうぞどうぞ。ごゆっくりどうぞ」
「ち、ちなみにどんな順で並んでるのかしら?」
「作者順になっています。作者によってはジャンルがほぼ一緒なので、ある意味ジャンル順でもあるかもしれません。一応、こちらにジャンルと作者の一覧がございますので宜しかったら…」
「わぁ、ありがとう。えーっと、あれはどこかしらー」
そう言いながら、好みのジャンルを探すソフィア。
「この作者さんね。どれどれーっと……。うわっ! うわわわわっ! ひぇー! えっ、こんなとこまで…。ごくっ……。くぅー」
メチャクチャ堪能しているソフィアに、恥ずかしさのあまり声をかける。
「ちょ、ちょっと、ソフィア…。そんなに見られると…」
「ちょっと後にしてもらっていい? 今推しの同人誌読んでるんだから邪魔しないでっ!!!」
「あっ、はい。すいません……」
推しって、私なんじゃないの? よく解らなくなってきた。
コロナさんやアマベルにエペティスと、オススメの作品や自分の描いた作品を差し出している。内容や作画に関して大盛り上がりしている。
手持ち無沙汰になってやることもない。こんなとこにいても仕方ないんだけど、一人部屋の外に出るのも憚られる。そういえば、残りの一列は私に関係のない本だという。
そう考えると、逆に私に関係ない本の方がすっごく気になり、その列の棚の本を一冊適当に選ぶ。
『俺様系ショタは第二王子に逆らえない』
絵柄を見るに、ウィリアムとレオナルドが組んず解れつしている本だ。正統なBL本であろう内容だった。
そっと、棚に戻し、別の離れたところからまた一冊選び取り出す。
『王様は宰相のバナナに夢中なようです』
中を見ずにそのまま戻した。やばいやばいやばいやばい。これはやばい。これが世に出たら裁判なしでクビチョンパされそう。
……………。
ここまできたらちょっと面白くなってきたので、さらに奥の方の棚からまた一冊選び取り出す。
『今夜も女装メイドはメイド長にお仕置きされる』
ほう…。ほうほうほう。なるほど。ロザリーがアンジェさんにお仕置きされる内容のようだ。こういうのでいいんだよ。
と、いうことは、あの辺はBL系、この辺は百合かな? ロザリーは違うけど。
何冊か取り出してみる。
『王弟殿下は国王にご執心』、『まずは法衣を脱いでから』、『ライバルが気になって挿ても立ってもいられない』、『悪徳貴族は乳首が弱い〜メスイキするまで許さない〜』、『限界宰相は年上の大臣にロックオン〜今日も朝まで残業です〜』、『娼年レオナルドは皇帝に飼われる』、『男盛りの騎士団の恋愛事情』……………。
うっぷ…。ちょっと、気分が……。
二つの意味で気分が悪い。一つは、この本。そして、もう一つはバレた時のことを考えて気分が悪い。
表紙を見ただけで受け付けない。中を見たら暫く夜も眠れないかもしれない。
手当たり次第描きすぎだろう。ちょっと取ってこれだもん。
同人誌って薄いから、背表紙で判らないんだよね。総集編とかなら厚いから判るんだけど…って、これ厚いな。なになに?
『伯爵のおすすめレビュアーvol.1』、『伯爵のおすすめレビュアーvol.2』。著者ジェームズ・オパールレイン。
まさかの父親。しかも本名で執筆って剛の者かよ。凄いな。後のこと考えてないんだな。
おすすめって何だろう? ちょっと開いて読んでみてみる。何々……。
これ、あれだ。風俗の情報誌みたいなやつだ。そんなもん子供に読ませるな。
って、勝手に読んだのは私か……。




