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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第2章

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44 商会の人達


           *      

 

 ひとまず、ソフィアの好奇心が落ち着いたので、事務所の中へ入っていく。

 事務所のドアを開けると、一人の女性が私を見るなり、厭そうな表情をする。

 背中の中頃まで伸ばした黒髪ロングで、つり目だけど大きい琥珀色の瞳の美少女♂カリーナだ。

 カリーナは今日は白いフリルブラウスに、長めのこげ茶のスカートと胸元に大きめのリボンをつけている。カリーナちゃんもなんだかんだ言って可愛い服好きなんですね。


 「一体何の用なのよ、変態」

 散々な言われようだ。いや、まぁ確かに、かわいいから女の子の格好を提案したけど、私は強制してないのよ?

 「カリーナ、いくらクリス様が好きでもツンツンした態度はどうかと思うわよ? 素直になったらどうかしら?」

 カリーナを嗜めるように奥から出てきたのは、カリーナの母親で、この商会の会頭補佐をしているコロナさんだ。

 会頭補佐であるのだが、会頭本人よりも商会全体の仕事に、各支店の把握に、人事など多岐にわたって影響力をもっている実力者だ。そして息子たちに女装させている筋金入りの変態だ。

 お姉様の紹介で家族ごと、この商会を任せているのだけど、お姉様の人脈どうなってるのかしら? 物凄く有能なのよ? 普段私たち関われないのに、それを補うように、いやそれ以上の働きをしてくれている。だから性癖に関してはお目こぼししている。


 「は、はぁ? わ、わた、私が、す、好きだなんて、ひ、一言もいってないわよ!」

 「ごめんなさいねぇ、クリス様。本当は、大好きなのにどうしても素直になれないんですのよ。毎日お風呂上りに化粧水と乳液。髪の毛は痛まないようにナイトキャップつけて、今日の服だって、お揃いになるかもって選んだんですよ。まぁ今日のクリス様はクラロリなので、残念だったわね」

 「なっ! ななな何を言ってるの母さん。べ、べべべ別に残念でもないし、悔しくもないし。そ、それにお肌に気をつけるのは当たり前でしょ! 別に服だってよくある服だし…。私がこいつに好意を抱くはずないでしょう」

 「でも、本当に嫌ならそんな格好しないわよね?」

 「うっ…、ぐぐっ…」

 真っ赤になった顔で早口で捲し立てるカリーナ。まさかツンデレさんだったなんて知らなかったなぁ…。

 恥ずかしいのか、物凄い目つきで睨まれる。いつもはちょっと怖いけど、今はそうでもない。ツンデレだと思うと、寧ろ愛しいとさえ思うくらい。


 そんなカリーナちゃんは、俯き何かをぶつぶつを呟いている。

 それを慈しむような目で見た後、佇まいを正して母親モードから仕事モードになるコロナさん。

 「ちなみにクリス様は、本日はどういったご用件で?」

 「ちょっと、気になることがあってね」

 「そうですか。もしかして、後ろのアマベル先生とエペティス先生と何か?」

  先生…? 先生と呼ばれるほど描いてるのかな?

 「先生なんて随分と慕われてるのね」

 「えぇ、そりゃあもう。お二方は作家ランキングトップ10に入る人気作家ですからね」

 「へぇー」

 「何で、アンタが知らないのよ? アンタんとこのメイドでしょうが…」

 カリーナちゃんが睨めるように突っ込む。

 「それも含めての確認なんだけど…」

 「もしかして、もう新刊の原稿が上がったのですか? 今回はいつもより早いですね」

 「あ、いえ。本日はクリス様のメイドとしての業務で来ておりまして…」

 エペティスさんが、申し訳なさそうに断りを入れる。


 「そうですか……。という事は、そちらのお嬢様、アンバーレイク公爵家のソフィア様のご用件に関する事ですか?」

 「⁉️ あら、私の事知ってるの?」

 ソフィアが大仰に驚いたという顔をしている。

 「えぇ。勿論でございます。商会を営むものとして、当然の事でございますよ。本日は何をお探しですか?」

 「んー、さっき欲しいものは全部買っちゃのよね」

 さっき、大人買いしてましたからね。

 「ただ、うちまで配送してくれないかなって思って」

 「えぇ、承りました。商品を包みまして二、三日中にはお届けいたします」

 「流石に翌配は無理かー」

 「申し訳ございません。この時間からですと、最低でも二日はいただいております。商品の検品作業もありますので、どうかご容赦ください」

 「うん。大丈夫よ。それでお願いね」

 「ありがとうございます。かしこまりました」

 コロナさんがソフィアに深々と頭を下げる。


 そんなやり取りを見て、私にカリーナが顔だけを近づけて話しかけてくる。

 「あっぶなー。あの子公爵家のご令嬢だったのね。危うくあなたと同じ女装男子なんでしょって言うところだったわ」

 「首の皮一枚繋がったね、カリーナちゃん」

 「ちゃ、ちゃん付けで呼ばないでよ」

 嫌そうに、でもまんざらでもなさそうに答える。今回はデレが多いのかな?

 その様子を見ていたメイド二人が、どこから出したのかスケッチブックと鉛筆を取り出し、鼻息荒く何かをスケッチしている。ネタにするつもりなんだろうか? そんなんだから変態って言われるのよ…って、言われたのは私だけか。


 話が終わったのか、ソフィアがこっちに近づいてくる。

 「聞こえてたわよ。私が男に見えるんですって?」

 「ご、ごごごごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです」

 青い顔で必死に謝罪しているカリーナに特に気にしてないと返すソフィア。

 「別にいいわよ。クリスと一緒にいたらそう考えてもおかしくないわよね。でも、ヨソの領ではその考えはやめたほうがいいわよ」

 「心に刻んでおきます」

 ニッコリと頷くソフィア。あ、これ内心ちょっとイラっとしたんだな。この程度の釘さしで済むなんて優しいですね。


 そんなやり取りをしていたら、事務所の奥の方から女の子♂二人が駆けてきた。

 「くりしゅー」

 「すー」

 はわわ。かわいい。ホワイトブロンドの髪をそれぞれ右と左にサイドテールにした双子のセリカとカレンだ。二人とも白と水色のセーラーワンピースを着ている。

 そのまま、私のスカートにぽふっと抱きつく。ほわぁ~天使かな? さながらカリーナは小悪魔ってところかしら?

 その様子を見ていたメイド二人がヨダレを垂らして恍惚の表情をしている。ネタにするなよ?


 「わ! なんて可愛いのかしら。まるで天使ね」

 私の横に来たソフィアに気づいたカレンが、ぽふっとソフィアのスカートに移り抱きつく。

 「は、はわわわわわわ……」

 そして、震えながら、腰を下ろしたソフィアは、カレンを抱きかかえてとんでもないことを言い出す。

 「ね、ねぇ。このままお持ち帰りしてもいいわよね? ね?」

 確か、妹さん居たよね? 歳は知らないけど。

 事態を把握してないカレンはこてんと首をかしげ、セリカが「くりしゅ、だっこだっこ」とせがむ。

 ゆっくりとセリカを抱きかかえ、ソフィアに顔を近づけ「ダメにきまってるでしょう?」と嗜める。何故か、ビクビクと震えだした。トイレでも行きたいのかな?

 「どうして、この子たちはこんなに素直なのかしら…」

 恨めしそうな目で呟くカリーナ。


 ふと何を思ったのか、ソフィアがカリーナに同情の視線を向ける。

 「貴女も女の子なのに、こんな女装男子相手に大変よね」

 「!」

 カリーナがその言葉にビクッとした反応を見せ、コロナさんはニマニマと笑顔を浮かべる。

 「いや、あの…。ソフィアさんや」

 「何よ。気持ち悪いしゃべり方ね。どうしたの?」

 「彼女も、この双子ちゃんも男の子よ?」

 「え? え? ええ? え? ええっ!」

 すごい困惑している。

 「……………。はは……。あなた頭おかしいんじゃないの? ここまでする? 流石に引くわよ」

 「いや、これに関してはコロナさんなんだけど」

 「そうよー。私もクリス様を見てこんな息子が欲しいなって思ってっ」

 両頬に手を当てくねくねしながら悦に浸るコロナさん。

 無の表情でカレンを抱くソフィア。


 いつの間にか、セリカとカレンが腕の中で眠っていた。

 「あらあら、お眠の時間ですかねー」

 腕の中で眠るセリカとカレンを交互に見て表情が柔らかくなる。

 「はわわわ。きゃわわ……。ねぇ、悪影響がありそうだからやっぱりうちで……。ダメね、うちにはもっと悪影響を及ぼすのが三人いるからダメね…」

 「四人では?」

 「そうね。お父様も危ないわね」

 いや、四人目はソフィアなんだけど、そこまで言うと何しだすか分からない。


 とりあえず、ずっと抱っこしているわけにもいかないので、寝かせようと奥のソファーのところまで行くと、執務机で作業していた影の薄い男性が中腰で立って首を下げる。こっちもペコリと軽く下げる。

 まさかこの男性が、この商会の会頭セプター、コロモ家の父親とは誰も思うまい。

 うちのお父様と同じで、どうも自己肯定感の低い気の弱そうな人だ。真逆の性格のコロナさんと足して丁度いいのかもしれない。

 双子ちゃんをソファーに寝かせると、スッとブランケットを持ってきて掛ける。そしてペコリと頭を下げるとまた席へ戻って書類仕事を始めた。いつ来ても朴訥な人だなぁと思う。喋ってるのほどんど見たこと無いかも。



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