39 子供達からの洗礼
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扉を開けると、中にいた子供達が「わーわー」言いながら寄ってきた。かわいい。
あっという間に囲まれたので、持っていたお菓子を落とさないよう頭上に持ち上げる。
「わー、クリスだー」
「今日は何のお菓子ー?」
「はやくちょうだーい」
「お菓子お菓子ー」
と、みんな私よりもお菓子に夢中だ。
そんな中、数人の子供達がソフィアに気づいた。
いつもは、ベルシックさんか別のメイドさんと一緒にお菓子持ってくるからね。初めて見るソフィアに興味津々。
「あれー、この人初めてー」
「だれー?」
私のメイド服のパフスリーブの部分をつんつん引っ張り、満更でもなさそうなにやけ顏で私に報告してくる。
「ちょっと、私こんなに子供に囲まれたの初めてよ。めちゃくちゃかわいいじゃない」
そんな子供達だが、だんだんと興味のボルテージが上がっていく。
「ねー、この人もクリスと同じ男ー?」
「こんなにかわいいんだから男だろー?」
「スカートの中見せてー」
「パンツ見せろー」
「クリスよりおっきいー?」
さっきまで笑顔だったソフィアの顔が能面のように真顔になった。
「あなた一体どういう教育しているの?」
つんつんしていたパフスリーブをギュウっと強く引っ張る。
ちょっと、縫い目がほつれるじゃないの!
「いや、こんなこと言われたの初めてなんだけど」
「そもそもあなた、この子たちに男ってバレてるじゃないの」
「うん。まぁ、それは…、はい……。バレてますね……」
一体いつの間に男だとバレたんだろうか? 確かに前からスカートの中を覗こうとするマセガキも居たんだけど、明確に言われたのは今日が初めてかもしれない。
もしかしたら、前から知ってた可能性があるわね。ソフィアが来たからなのかしら、ソフィアも男の娘に見えたから聞いてみたのかな?
尚もソフィアのスカートやエプロンを引っ張る子供達。
ソフィアが冷静に子供達に諭すように叱る。
「あのね、私はこの人と違って女性よ。女の子なの。女の子のスカートを引っ張ったり、捲ったり、況してや中に入ろうなんて言語道断よ。そんな悪い子にはお菓子は金輪際あげないわよ?」
その言葉を聞いた瞬間、蜘蛛の子を散らすように、子供達が離れていった。
「お菓子もらえないのやだー」
「悪い子やめるー」
「つまんねー。女とか興味ねー」
「こわーい」
「僕、いいこにするー」
と、一部おかしい事を口走る子もいたが、皆ダメと言われたことはちゃんとやめる。偉いね。何処かの誰かさんに見習わせたいわ。
「ねぇ、今衝撃の事実に気づいたんだけど?」
尚もパフスリーブを引っ張り続けるソフィア。もう生地が伸びちゃうんだけど?
「何かしら?」
「みんな、女の子の格好しているのは何でかしら? あなたの趣味?」
「いや、違うよ。違うのよって、そんな顔で見ないでよ。ちゃんと、男の子と女の子の服を用意したのよ? でも、みんな女の子の服の方しか選ばなかったのよ。今回は私悪くないわよ? 本当よ。………信じてないわね?」
「うん。絶対あなたの趣味だと思ってるわ。どう見ても全員女の子にしか見えないわよ。行動以外は」
別に、前科がある訳じゃないのに、何でこんなに信用してもらえないんだろう?
そんな事を話していたら、また子供達が集まってきた。
「お菓子お菓子ー」
「早くちょーだーい」
「だから、スカート引っ張らないでよ…」
何人かが、じゃれつくように引っ張っている。ちょっと体勢を崩しそうになると、メイドさんが一人パンパンと手を叩きながら嗜める。
「ほらほら、そんなことしていると、いつまで経っても食べられませんよー」
銀髪で、後ろで髪を縛り左の前髪を長めに垂らしてる切れ長の目をしたメイド、エペティスさんがゆっくりとやって来て、お菓子を受け取ってくれる。
妖艶にニッコリと微笑むエペティスさん。これでまだ二十歳前だもんなぁ…。
「クリス様も、ソフィア様もありがとうございます」
出来ればもう少し、早く来てほしかった。
「出来ればもう少し早く来てほしかったわ」
ソフィアが私と同じ気持ちを代弁する。
「申し訳ございません…」
苦笑するエペティスさん。そんな姿も艶めかしい。これはウィリアムも黙ってないんじゃないだろうか?
しかし、ソフィアは結構はっきりと口に出すよね。怖いものなんてないんじゃないだろうか?