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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第2章

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37 お菓子を作ろう


           *      


 調理場へ入ると、待ってましたとばかりにメアリーが迎えてくれた。

 「遅かったですねクリス様! 私をこんなに待たせるなんてっ!」

 私の彼女かよ。お前、私の従者だろうに……。


 「あら、ごめんね。ちょっと着替えてて遅くなったわ」

 「何で、私はそこにいなかったんですか?」

 「食い気が勝ったんでしょう?」

 「い、いえ、おか、お菓子を作るのが楽しみだったんですっ!」

 目が泳いでるわよメアリー。


 材料も器具も準備万端。メアリーのつまみ食いもスタンバイ状態にある。

 「あら、メアリーさんはお菓子作りが得意なのかしら?」

 「ふふん。任せてください! サマンサ様と同等のレベルです!」

 胸を張って言うことじゃない。つまり、作れないって事だ。


 「という事で、お菓子作りのプロのメイドさんを呼んでいます。ベルシックさんです。よろしくお願いします」

 「どうもどうも。普段のお菓子作りを任されてるベルシックと申します。今後ともよろしくお願いします」

 オレンジに近い色のショートカットのメイドさんだ。得意ジャンルは主に洋菓子だ。彼女オリジナルのお菓子も結構開発していて、どれも斬新で美味しい。

 「ベルシックさんには、私が考えた(前世のを思い出した)お菓子を一緒に作ってもらってたりします。正直、才能の塊ですね」

 「そんな褒めないでくだいさいよー。当然の事ですからー」

 とまぁ、このように自己肯定感の強いメイドさんだ。

 私一人で作ってもいいんだけど、ベルシックさんがいると、複数の種類を短時間で作れてしまうので、大変重宝しているメイドさんです。


 そんなベルシックさんにメアリーが食ってかかる。

 「あなた、ちょーっとお菓子作りが上手いからって、クリス様に色目使ってんじゃないわよ?」

 「あらあら、何にも取り柄がなくて、ただ押しが強いだけのあなたには言われたくないわー。それに私のお菓子をあなた毎日バクバク食べてるじゃない。あげなくてもいいのよー?」

 二人とも大きい胸を押し当てながら挑発をしている。若干ベルシックさんのが小さい。

 「すいませんでしたー」

 「わかればいいのよー」

 僅か一分足らずで、勝負が決着してしまった。全く無駄な茶番しないで欲しいな。ソフィア達がぽかーんとしてるじゃない。

 パンパンと手を叩き、みんなの意識を戻す。

 「くだらない事やってないで、お菓子作るわよ!」


 今日は、フィナンシェとマドレーヌ。余裕があったらラングドシャを作ろうと思う。

 フィナンシェとマドレーヌは似てるけど、ざっくり言うと、金の延べ棒みたいな形で焦がしバターと卵白を使ったもの。マドレーヌは貝の形で溶かしたバターで全卵を使ったもの。どっちも焼く時間は短いのがいいよね。

 せっかくだから、ステラさんとシフォンさんに作ってもらおうかな。まさか、黒い塊になるなんて事はないとは思うんだけど。

 フィナンシェよりマドレーヌのがまだ難易度が低いので、マドレーヌを教えるのは私が。フィナンシェはベルシックさんに担当してもらおう。

 「ということで、どっちがいいですか?」



 シフォンさんがフィナンシェ。ステラさんがマドレーヌと話し合いの末決まった。

 「それじゃあ、よろしくね」

 「はい! お願いします!」

 元気がいいね。不等号みたいな表情をしている。


 では、器具の使い方と材料の紹介をしようと思ったら、こっそり耳打ちされた。

 「あ、あの…。サマンサ様はお菓子とかお好きでいらっしゃいますか?」

 何でお姉様が? と思ったけど、つい先日馬車の暴走時に助けたのを思い出した。

 まさか、お姉様の事を好きになったんじゃあ……。

 「え? もしかしてお姉様の事を…」

 「はい。何かお礼がしたいと思いまして…」

 あ、そうだよね。お礼だよね。お姉様は止めといた方がいいって言いそうになっちゃった。危ない危ない。

 でも、ちょーっと頬に朱が差しているのよね。ま、いっか。趣味はそれぞれだしね。気を取り直して、材料紹介。

 薄力粉・卵・ベーキングパウダー・砂糖・バター、以上。混ぜて焼くだけ初心者向け。甘みや風味を出すのにハチミツを使ってもいいし、ココアパウダーを使って二色作ってもいいね。


 折角なので、ステラさんにやってもらおう。

 「じゃ、まずはボウルに卵を割って……、そうそう上手よ。そこに分量の砂糖を入れて混ぜるの」

 「え! こんなに砂糖入れるんですか?」

 「ケチると美味しくできないわよ。お菓子作りは化学みたいなものだし。ソフィアならわかるわよね?」

 「まぁそうね。分量通りやって成功するからね。ちょっとでも違うと上手くいかないし、決まった分量って黄金比なのよね。そういうところは似てるわよね」

 急に振られたのにちゃんと答えるソフィア。きっとマズイのは食べたくないんでしょうね。

 「うぅ…」

 罪悪感に苛まれながらも溶いた卵に砂糖を投入する。


 フィナンシェ側でも同じやり取りをしていた。

 「えっ! この量のバターを? ………えぇ、砂糖こんなに使わないとダメですか? 太りませんか?」

 「一個あたりに換算したらそんなに多くないから。ほら」

 ベルシックさんが笑顔で対応する。でもちょっとイラってきてるのかな?

 そんな様子を横目にこちらも進めておく。

 「では、先ほどのところに予め(あらかじめ)振るっておいた粉を入れて軽く混ぜます。うん。粉っぽさがなくなったわね。そしたら、こちらの溶かしバターを入れます」

 バターだけ私が横で湯煎で溶かしておいた。

 「で、ここで生地を冷蔵庫で一時間ほど。可能なら二時間ほど寝かせます。まぁ、寝かせないでそのまま焼いてもいいんだけどね」


 ちらっとソフィアを見る。意外と興味を持って見ている。それに折角着替えてきたんだからやらないのは勿体ないじゃない?

 「ソフィアもやってみたいんでしょう?」

 ということで、それぞれの生地を寝かせている間、ソフィアには簡単なお菓子を作ってもらう。

 「私にできるかしら?」

 「大丈夫よ。まずはこの卵を黄身と白身に分けてもらおうかしら」

 「分ける時点でちょっとめんどくさいじゃない」

 そう言いながらも綺麗に素早く的確に黄身と白身を分けていく。プロも顔負けの早業だ。

 「ソフィアすごいね。上手よ」

 「ふふん。だって、卵白は薬の材料になるからね。それなりの量をこなしていたからこんなの朝飯前よ」

 「え? 朝ご飯ならさっき…」

 メアリー…。野暮なツッコミはしないものよ?


 「で、分けたわ。この後どうするの?」

 ソフィアの細腕を見る。

 「ソフィアは力仕事得意かしら?」

 「あんまり得意じゃないわね」

 「じゃあ、見てるだけのメアリー? このバターを柔らかくなるまで混ぜて?」

 ボウルと泡立て器をメアリーに渡す。

 何の疑問も持たずに混ぜる。

 「出来ました、クリス様!」

 「ありがとうメアリー。じゃあ次はこっちも混ぜてね?」

 卵白に砂糖を入れたボウルと別の泡立て器を渡す。

 「このくらいですかクリス様?」

 「まだよ。もっとふんわり、ツノが立つくらい」

 流石のメアリーも疲れてきたのか泡立てる速度が落ちてくる。あれ、結構重労働なのよね。


 ハァハァ言いながら、無言でボウルを渡してくるメアリー。軽く掬い硬さを確かめる。

 「うん。上出来よ。ありがとうメアリー」

 片腕をキッチンの上に預け、ヤンキー座りみたいな座り方をするメアリー。よっぽど疲れたんだな。肩で息をしている。そして私に軽く手を挙げ応える。従者としては0点ね。まぁ、タダでお菓子を食べられるなんて思わないことね。

 「アナタ鬼ね…。これを私にやらせようとしたの?」

 「いや、電動の泡立て器あるし。折角だし、ね?」

 ベルシックさんがゲラゲラ笑いながら腹を抱えている。ステラさんとシフォンさんが苦笑いだ。


 「と、いうことで、こちらのバターに先ほどの泡だった卵白、メレンゲを入れます。一気じゃなくて、数回に分けてね。あとは、風味付けにバニラエッセンスを数滴…」

 この間に粉を振るっておき、ソフィアに渡す。

 「そしたら、この粉を入れて粉っぽさがなくなる混ぜてね。そうそう。上手よ」

 後は、しぼり袋に入れて、クッキングシートを敷いた天板に絞り出していく。

 「こんな、ぼてっとしていていいの?」

 「いいのいいの。どうせ広がるから」

 予め一七〇度に予熱していたオーブンで十分程焼く。


 「そういえば、このオーブンもソフィアのところのなのね。とても重宝しているわ」

 オーブンにはAmberLake(アンバーレイク)と記載があった。

 「それは良かったわ。その辺の調理家電は何故かムック兄様が作ってるのよね」

 「え? あの変態が? おっと…」

 「いや、いいわよ。事実だし。何なら三人ともよ」

 ソフィアも入れたら怒るのだろうか? そうこうしているうちに、焼きあがったようだ。粗熱が取れたら、網、ケーキクーラーの上に乗せて冷ます。


 「ね、簡単でしょ?」

 「まぁ、簡単だけど、犠牲者が一人…」

 「では、そろそろ焼きましょうか」

 「そのまま放置するんだ…」

 マドレーヌだと、一八〇度で十五分前後、フィナンシェは百九十度で十五分前後焼く。オーブンや生地の状態によっては温度や時間が変わるのだけど、このオーブンではこれで焼いている。

 ケーキとかだと一時間弱とかかかるから、それに比べたら全然早いよね。


 焼きあがったマドレーヌとフィナンシェをそれぞれ型から外し、ケーキクーラーの上に乗せ粗熱を取る。

 ベルさんがいつの間にか用意していた紅茶を淹れている。それぞれの前に紅茶の入ったカップを置いていく。手際がいいなぁ。

 「余った卵黄は明日のおやつのエッグタルトに使いますね」

 「じゃあ明日も来ないといけないじゃない!」

 明日も来る気満々なんですね。


 それでは、お待ちかねの味見タイム。

 まず、ソフィアがフィナンシェを一口齧る。

 「うわぁっ…。カリカリでフワフワ…。何これ凄く美味しいんですけど」

 「焼きたては作った人の特権よね!」

 「焼きたてだと、食感が全然違うんですね」

 「ウマウマ」

 メアリーもいつの間にか復活してパクパク食べている。

 でも一番すごいのは、この間にお菓子を追加で焼いているベルさんでしょうね。

 ベルシックさんはホント楽しそうに作るなぁ。そして、メアリーも楽しそうに食うなぁ。



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