07 お母様に剣を習い始める
朝、ドレスの海で目を覚ます。
お母様とお姉様、何人ものメイドさんが疲れて眠っていた。
そこまでするかね? 普通。
こっそりと母の部屋を脱出し、庭へ出た。
一人朝から剣の練習をするお兄様。
「おはようございます。お兄様」
「おはよう、クリス。昨日は無事だったのかい?」
「あの時、助けていただければ、無事でしたわ」
「ごめんね。僕じゃ無理だよ」
「そうですか……」
まぁ、あの母娘には勝てないと思うので、そこは期待してないので別にいいけど。
「今日も訓練ですか?」
「うん。日課だからね。こうして毎日訓練していれば、いつかきっとお母様の様に強くなれる気がするんだ」
ん? お母様の様に? どいうこと?
「お母様のように、ですか?」
「うん。あれ、知らなかったっけ?お母様はこの国の王妃様専属の護衛騎士だったんだよ。当時の他の騎士団のどの団長よりも強かったそうだよ」
「へ、へぇー。そうなんですね……」
どうりで軽々と自分を持ち上げられた訳だ。
一応、性別上は男だし、姫騎士とか憧れるから、自分もお兄様と一緒に剣の訓練をしてみようかな。
「ねぇ、お兄様。私もお兄様と剣の訓練してみたいのですが?」
「うーん。その格好じゃ無理かなぁ。汚しちゃうし、もっと身軽な格好ならいいんじゃない?」
ダメとは言われなかったので、一旦戻って汚れてもいい格好をしてこよう。
「分かりましたわ。ちょっと着替えてきますわね」
そう言って、自室へ戻るとメアリーが腕を組んで仁王立ちしていた。
「クリス様? 私、言いましたよね? 勝手に行動しないでくださいと」
「うん。ごめんね。でも、あのまま起きるまで待っていたら、流石に体力が持たないし、メアリーも爆睡してたじゃない?」
「うっ……。そ、そうですね。でも、私だけ起こしてもいいじゃないですか?」
「主従の立場逆転してない?」
「……。分かりました。今回は大目に見ます」
「やたー。で、相談なんだけど、男の子の服ってない?」
ダンッ……!
メアリーが膝から激しく頽れた。
凄い音したけど、大丈夫?痛くない?
「そ、そんなぁ……。確かに昨日は奥様も、サマンサ様も、私たちも、つい羽目を外して楽しんでしまいましたが…。いくらなんでも女の子の格好を止めるのは止めてもらえませんか?猛省いたしますので……。私たちの希望を奪わないで下さい!」
「いや、止めるつもりはさらさら無いけど」
「へぇあ?」
涙を溜めながら変な声で返事した、メアリー。そんな泣くほど?
「じゃ、じゃあどうしてなんです?」
「お兄様と剣の訓練をしてみたくて……」
「却下です。危険です。不要です。必要ありません。私が生涯お守りします!」
「いやいやいや……。大丈夫だから。てか重い……」
「いいえ。その可愛いお顔に傷がついたらどうするんです?」
「でも、何かあった時自分で身を守れないと危ないでしょう? それに運動したほうが体型を維持しやすいし、ね?」
「~~~~~~」
すんごい表情。顔をくしゃっとしながら悩んでる。
自分の身を案じてくれてるのは嬉しいんだけどね。
ただ、やる事ないのよ? ドレス着て、お茶飲んで、お話に花を咲かせるのは二日やったら飽きる。たまにならともかく、毎日だときつい。
なので、何かやる事を見つけたいのだ。
その候補の一つがこれ。向かなかったら止めればいいだけだしね。
気楽に考えていこう。
「お、奥様がお認めになれば……」
絞り出す様にメアリーは、そう呟いた。
お母様の所また行かないと行けないのか……。
ちょっと憂鬱だなぁ。
結論から言うと、あっさりと許可が出た。条件付きで……。
お母様曰く、お兄様とやっても大して上達しないだろうから、私と一緒に指導するとの事。本音は、最近体が鈍ってたので体を動かしたいのだそうだ。
そして、週に1回はお母様と過ごす事だそうだ。うへぇ……。
流石に昨日のはやりすぎたと、はしゃぎすぎたと反省していた。
という訳で、お母様と一緒にパンツスタイルでお兄様の所へ向かった。
あれから一時間近く経ってるけど、まだやっているのだろうか?
ずっと素振りをしていたであろうお兄様が、こちらに気づいた。
お母様を見るなり驚いていたが、少し嬉しそうにしている。
「改めて思うけど、クリスは男の子っぽい格好しても女の子にしか見えないね」
「あら、ルイスもどっちかって言うと、女の子寄りよ?」
「私も同意見です」
まさか、そんな返しをされると思ってなかったお兄様が狼狽えていた。かわいい。
「それで、母上。クリスと一緒ですがもしかして?」
「そうよ。私もたまには体動かさないと、お腹タプタプになっちゃうからね。最近コルセットがきついのよ」
やっぱり、ダイエットに効果的らしい。
とりあえず、お母様が試しに剣を振るってみるらしい。
みんなで見学をする事に。
敷地の外れの方は木々が生い茂っていて、結構太い。
そんな木の前でお母様は剣を構えていた。
よくある、木をぶった切るってやつですね。初めて見るわ。楽しみ。
ドォオン……。
木を切った音じゃない。真っ二つにぶった切った音でも無い。
木が根っこごと後ろに吹っ飛んでいる。
まさかの突きっだとは……。
「あらいやだ。私も年取ったわね。この程度だなんて……」
いやいや、うちのお母様はバケモノですか?
母曰く、3本くらい貫こうとしていたらしい……。
いや、これも技術的に凄いと思いますよ?
横を見ると、お兄様ポカーンとしてる。大丈夫ですか、お兄様。あなたが目指すのはアレなんですよ?
そんなこんなで、お母様との特訓が始まったが、いきなり剣を握らせてもらえる訳もなく、走り込みや筋トレみたいのをさせられた。
この体、体力なさすぎない? 凄いツライ。
そんな自分を両頬に手を当て、膝に肘を乗せてニコニコしながら見ている母。サディストかな?
この後、剣を握らせてもらったが、今の自分には重かった。
お母様とお兄様が明日もね。と、言っていたが、これ続けられるかなぁ……。
昨日はお風呂に入れず、今朝は訓練で汗まみれ。
流石にお風呂に入りたかったので、浴室へ行こうとしたらメアリーに止められた。
「クリス様? もしかして、態とやってます?」
あーはいはい、そうですねー。貴族のうんたらかんたらってやつですね。
「じゃあさ、メアリーも一緒にお風呂入ろうか?」
「なっ、ななななな、なにを、いっ、いってるんですかぁあああ!」
なんだよこいつ。あんなに人に裸見せろって言ってくるのに自分は嫌なのかよ。
「じゃぁ、一人で入ってくるから待っててね?」
「いや、これとそれは話が違いますよね?」
「え? だって自分だけ見られるのはフェアじゃないじゃん?」
「………。いいんですね? 入りますよ?」
「えっっっっっっっ!」
ここまで言ったら引き下がると思ったのに。どうしよう……。こっちが引けない状況に。
エプロンを解き始めたところで、ストップをかけた。
「分かった。分かったから。メアリーの言う通りにするよ」
「チッ……」
流石に女性とは入るのは恥ずかしいので諦めた……。って待て、今舌打ちした?
なんかぶつぶつ言ってるけど、よく聞こえない。
正直、もう汗まみれで限界なので、自分で脱いで浴槽へ入っていった。
この体じゃ、まだ浴槽に届かない。
ひょいと体を持ち上げられ、浴槽に入れられた。
見上げると……。えっ? 裸のメアリーが居た。
「え? 何してんの? 何で脱いでるの?」
「この方がいいからです」
「何が?」
「いろいろです」
そのいろいろに含まれる情報量凄い多いんだけど? 開示してくれない? してくれないんだろうね?
はぁ……。言うんじゃなかったと後悔しながら、メアリーに体を洗われた。
「クリス様。一応、これは内緒でお願いしますね?」
そうだね。若干2名めんどくさい人がいるからね。
そうして、朝のお風呂が終わり、いつも通りドレスに着替えた。
今日は、全体的にアツいね。