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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第2章
62/432

29 お昼ご飯を食べましょう


           *      


 というわけで、街の飲食街の立ち並ぶエリアにやってきた。

 無論デートと言っても、二人きりではない。

 我が家からは、護衛兼メイドのメアリー。公爵家からはステラさんとシフォンさんの二人。メイド服じゃないからか、やたらそわそわしている。


 「ねぇ…」

 肘のところを摘まれて引っ張られる。ソフィアのこれは癖なのかな?

 「何?」

 「なんか、さ…。前世の街並みに似ているというか…」

 「そう? どこもこんなもんじゃないの?」

 「そう、かな?」

 「そうそう。で、何か食べたいものある?」

 そう言うと、深く考え込み、眉間に皺を寄せる。

 「正直、食べられれば何でもいい」

 えぇ……。どういうことなの?


 「私がこの世界で最初に作ったのは、ドリンク剤とサプリと栄養補助食品よ。クッキーみたいなやつ」

 それが悪いとは言わないけど、そればっかりだと体に良くない気がする。そういえば、公爵領での夕食時も四人の転生者は興味なさそうに食事してたな。

 お姉様じゃないけど、食べることは人間の三大欲求の一つ。食に興味がなかったら人生損してると思うので、ここは一つ日本ならでのものを食べに行きましょうか。


 時間は十一時を回った頃。大体の飲食店が開店し始めた時間帯―――――

 「今日はここにしましょうか」

 「どんぶり専門店……。え? この世界に日本食あるの?」

 「あるわよ」

 ここは自信を持って紹介する。大体、食べ物のお店は私が絡んでるし、ちゃんと監修していますとも。


 「私、デートって聞いたんだけど、どんぶり屋さんに連れてくるセンス…」

 「変に肩肘張ったところじゃなくていいでしょ?」

 「それもそうね。こっちのがデートし慣れたカップルっぽいし」

 「そう? じゃあ、二人の時は、違うとこ連れて行くわよ」

 「ふーん…。ま、期待しないで待ってるわ。それよりもお腹すいたわね」

 ということで、お店に入る。


 「いーらっしゃいませーーー!!!」

 元気な声で迎えられる。

 「何名様ですかー?」

 「あ、五名ですー」

 「お席の方、ご案内しますねー」

 奥のテーブル席に案内された。私と、ソフィア。向かいに、メイド三人が座る。


 「こちら、メニューになります。お決まりの頃お伺いいたしますー」

 さて、何にしようかなと思ったら、また袖を引っ張られた。それ好きねー。

 「ねぇ、何でこんな日本のお店っぽいのよ。内装とか、掛け声とか。座席なんて畳じゃないの」

 凄く嬉しそうに辺りを見回している。

 ステラさんとシフォンさんは初めて見るのか、少し落ち着かなそう。

 「メニューは……、流石に写真は無いのね。でも、絵は描いてあるんだ。ふーん」


 メイドさん二人は、ソフィアに変なものを食べさせないようにって感じで戸惑っているけど、もうお店に入ってしまったんだから、諦めて食べるといいと思うの。絶対に腰抜かすくらい美味しいから。

 「悩むわ。今までご飯に何のこだわりも無かったけど、これは迷うわ。……うーん。定番の天丼に親子丼に牛丼……。ちょっと、カツ丼だけでもすごい種類あるじゃない! 普通の卵とじにソースカツ丼にタレカツ丼。ソース煮込みにあんかけまであるじゃ無いの! それに海鮮丼まで。何てことなの……。ぶほっ! ロコモコ丼まであるじゃない。何考えてんのよ。やりすぎよ!」

 「だって、どんぶり専門店ですし…」

 「まぁ、そうよね。……うーん。なかなか決められないわね。クリスはどれにするの?」

 「え、私? 私はこの親子丼よ。ここの鶏肉は歯ごたえがいいのよ。それに卵が濃厚で絡み合ってご飯が進むわよ」

 「くぅ……」

 「メアリーはどうするの?」

 「私は、牛丼アタマの大盛りつゆ切りですね」

 「だそうですわよ、ソフィア様?」

 「ぐぐぐ……」

 「ステラさんとシフォンさんは、初めてだからどれ選んでいいか判らないですわよね」

 「そう、ですね……」

 「見たことないのばかりですね……」

 まぁ、そうよね。大抵、最初に迷いに迷って微妙なやつや新製品とか限定品頼んで後悔したりするのよね。

 「じゃあ、これにするわ」

 五分近くメニューとにらめっこしたソフィアが選んだのは、まさかのスタミナ丼だった。デート云々言ってたやつがにんにく効いたスタミナ丼というチョイス。

 ステラさんは隣に座るメアリーと同じ牛丼で並盛り。シフォンさんは私と同じ親子丼にした。


           *      


 それぞれ頼んだものがやってきた。

 どんぶりと味噌汁とお新香。世界観に合わないのは今更。

 私とソファアとメアリーは箸を使ったけど、ステラさんとシフォンさんはスプーンを使っている。まぁ、慣れないと難しいわよね。


 普通に箸を使ってるソフィアに二人が驚いているが、さらに驚くのはここからだ。

 「いただきまーす」

 開口一番、どんぶりを持って箸で肉を摘み一口…。無言のままご飯を掻き込む。

 「むはぁ~」

 肉、肉、たまねぎ、肉、ご飯、ご飯、味噌汁、肉、肉、ご飯………。

 フードファイターかなってくらいの勢いで食べまくるソフィア。

 それを見てメイド二人が感嘆の声を漏らす。

 「初めて、ソフィア様が美味しそうにご飯を食べています」

 「いつもはつまらなそうに食べているのに、今は笑顔です。これは一体……」

 というか、私たちまだ食べてないんだけど。ソフィアの勢いに押されてただ見ているだけになっている。


 スタミナ丼だけ、通常が1.5倍なんだけど、もう半分近く食べてる。

 そして、どんぶりを置き、ほうじ茶を一口すする。

 「なんなのこれは…。今まで私が食べていたのは何だったのかしら?」

 急に語りだすソフィア。

 そして、箸で肉を摘み食べる。

 「このお肉すごいわ。通常より厚めなのに噛み切れるのよ。脂もしつこくないし、豚臭くない! この厚みだと、豚の嫌な風味が口に残るのに、それが無い! にんにくと醤油のタレが絡み合って、ご飯が進む進む! たまねぎだって炒めすぎてないから、シャキシャキと食感が残ってたまねぎ本来の甘さ残ってるの。でも、少し焦げの部分もあるからちゃんと火は通ってるのよね。それに焦げの部分がいい味出してるわ。上に散らした青ねぎが彩りよくしているし、そして何より、この卵黄がタレに絡んでコクが出るのよ! もう最高! というか、米! これご飯だけでも美味しいわよ!」

 どうやら、大絶賛なようです。


 「あら? あなたたち食べないの?」

 「いえ、ソフィア様を見ていたら、食べるのを忘れてしまいまして」

 「何やってるのよ。ほら、食べて食べて。冷めちゃうわよ」

 別にソフィアのお許しが必要ではないのだけど、その合図で四人とも食べ始める。

 シフォンさんが、目を見開きながら「んー! んー!」言いながら食べまくってる。

 ステラさんは美味しかったのか、ヘドバンしながら食べてる。舌噛まないのかな?

 メアリーはというと、大量に紅生姜を乗っけて食べている。もうそれ、紅生姜丼だよね? ケースの中ほぼ空になってるんだけど。


 「ねぇ、親子丼ってどんな感じなの?」

 ほぼ食べ終わったソフィアが私のどんぶりの中を見ながら聞いてくる。一口欲しいのかな? 零さないように使ってないスプーンで一口差し出す。

 「これじゃあ間接キスにならないじゃない」

 何言ってんだこいつ?

 「いらないのね?」

 戻そうとしたところで、「いるいる」と言いながらかぶりつくように食べるソフィア。

 「ゎ…、何これ。すごく美味しい……。え? 鶏肉ってこんなに歯を押し返すくらい弾力あったっけ? それに卵も味全然違う……」

 「ですよね! ですよね! 私食べた中でこれ一位ですよ! ほわぁ」

 シフォンさんが割り込むように絶賛する。お気に召していただけたなら光栄です。

 「ソフィア様、牛丼もやばいです。私もう一生これだけでいいかもしれません」

 メアリーがそれに対して、うんうん頷いている。

 「えぇ…。他にも色々あるわよ…」

 よっぽどカルチャーショックだったのか、今までのご飯が美味しくなかったのかは分からないけど、喜んでいただけて良かったわ。意外とおかずとご飯一緒に食べるのは合わないって外国の人多いからね。


 食べ終わって、一息ついて手持ち無沙汰になったのか、メニューを再度見るソフィア。やるよね、それ。私もよくやるわ。

 「そういえば、このメニュー表ってかなりの種類載ってるけど、無いのもあるのね。例えば、ローストビーフ丼とかって無いのね」

 「あぁ、あれ? どう考えてもご飯と合わないじゃない。サンドウィッチにするか、お酒のアテにしかならないわよ?」

 「言われてみればそうね。生ハム丼とかもないしね」

 何それ、絶対合わなそう…。



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