28 デートの準備をしましょう
* * *
翌日―――――
「えへへ、来ちゃった…」
二人のメイドさんを連れて、ソフィアが我が屋敷へと遊びに来た。
昨日の今日で来るとかアクティブすぎませんかね? しかも、今朝の九時ですよ?
先ほど、朝食が終わり、いつもの剣の訓練をしていたところだったのだが、いつもより早い時間に馬車が来たなと思って通路の方を見ていたら、急停車した馬車からソフィアが飛び出し走ってきたのだ。
「やっぱり、クリスは剣が似合うわね」
両頬を手で押さえながら右に左に揺れながら色めくソフィア。
そして、ハッとしたように、私の後ろに立っていたお母様にカーテシーの礼で挨拶をする。
「初めまして、オパールレイン伯爵夫人。アンバーレイク公爵家が長女、ソフィアと申します」
「あら、ご丁寧にどうも。クリスの母です。よろしくね」
うちのが家格下なのにそんなフランクでいいのお母様?
ソフィアを見ても特に訝しんでもないし、公式の場でもないからいいのかな?
と、思ったら、肩のあたりを摘まれて引っ張られた。ほら、やっぱり失礼だったんじゃないか…。
「ねぇ、あなたのお母様若すぎない?」
まぁ、はい。それは確かに私も思う。ウィリアムもゾッコンになるくらいだし。
「クリスのパンツスタイルも可愛いのだけど、お義母様の格好のがビックリよ。あれ何の衣装?」
発音がおかしかった気がするが、気にしない。
「分かんない。何かのソシャゲの衣装だと思うけど、ベースは原○かな? 最近、よくオーダーメイドで作って、微妙にアレンジ変えてるから、これって断言できないのよね」
「ふーん。そうなんだ。ちなみに、クリスもああいうの着るの?」
「着るけど?」
「即答! や、ちょっと見てみたいなとは思ったりなかったり…」
そんなことを話していたら、お母様に今日の稽古は終了だと言われる。
「折角、女の子のお友達が来たのだから、街を案内してあげたらどうかしら?」
「……お友達……」
お友達に不満があるのか、小声になるソフィア。
しかし、この後いつものレオナルドとウィリアムが来ると思うのだけど、それを待たなくてもいいのだろうか?
「ほら、クリス、邪魔が入る前にデートでも行ってきたら?」
デ、デデデ、デート!!!
「デ、デデデ、デート!!!」
ソフィアも同じことを思ったのか、声に出している。
「大丈夫よ。あの二人は私がみっちり扱いておいてあげるわ」
ふむ。邪魔が入らないのなら、折角だし街に行って案内がてら、美味しいものでも食べましょうかね。昨日一昨日は散々だったし。心なしか、何キロか痩せた気がする。
そう思って、ソフィアを見ると、完熟トマト以上に真っ赤になって湯気を出していた。破裂しないかしら?
*
上から下までソフィアを一通り見る。
前回、というか昨日一昨日会った時と違って、ちょっと気合いの入ったドレスを着ている。
それを見ていたソフィア付きのメイドさん二人が、ソフィアの左右にシンメトリーに立ち、ジャーンといった感じでアピールしている。
「どうですか! 初めてこんな気合いの入ったドレスを着てきました!」
「朝の六時から、着ていくドレスを選んでました! こんなこと初めてです!」
真ん中に立つソフィアは顔を真っ赤にして羞恥に震えていた。
でも、これから街中に行くのにこれだと目立っちゃうのよね。
「凄く可愛くてソフィアに似合ってるんだけど、街中だと貴族ってバレちゃうから、もう少し大人し目の服に着替えた方がいいわね。私も着替えるし」
ちょっと、シュンとなるソフィア。駄目とは言わないけどさ。前は私もこういうの着て街に行ってたけど、結構嵩張るし動きづらいのよね。悪目立ちするし……。
とりあえず、今回は私の服を貸すことにする。
「私ので悪いんだけど、ソフィアの気にいる服あるかしら?」
「え? クリスの着た服! ふ、ふへへ……」
頬を緩めてにやけるソフィア。何が嬉しいんだろうか?
クローゼットやチェストから、めぼしい服を取り出し、ソフィアに渡す。
「こういうのとか、どうかしら? こっちもあるけど……」
「クリスはこういうのが趣味なのね。ふへへ……」
俗に言う、地雷系ファッション。童貞を殺す服。
何で、こんな可愛いのに名称が物騒なのかしら。甚だ不本意だわ。
私はクラシカルに、シンプルなブラウスとハイウエストのフレアスカートに控えめのリボン。スカートは薄めの紺色。スカートの下は黒のタイツにしました。歩くから、ニーソとかだとちょっとずり下がるのよね。ソックタッチとか無いし。
髪の毛はアクセントに一部だけ編み込みをする。
着替えて、ソフィアの前に出た瞬間に抱きつかれる。
「きゃぁああああああ!!!!! がわぃいいーーっ!!」
抱きつくまではいいんだけど、胸のあたりで頬ずりするのはやめてほしい。皺が寄るから。
ということで、お次は、ソフィア。
フリルブラウスに臙脂色のラッフルスカート。黒のハイソックス。髪の毛はリボンでまとめている。全体的にやたらフリフリな感じだけど、気に入ってるならまぁいっか。
それに、私の青系とソフィアの赤系で対比になっていいわね。
そして、ソフィア付きのメイドさんなのだが、街に行くのにメイド服だと目立つし、貴族とバレそうなので、メアリーの私服を貸そうと思ったら、メアリー、ロクな服持ってないのね。
クラシカルなメイド服なので何とも正統派王室メイドな感じでいいんですけどね。うちのメアリーのメイドコス感がより際立つ結果に。可愛いんだけどね、この衣装も。まぁ、三人にも着替えていただきましょうか。
まずは、メアリーなのだが、何その『働いたら負け』って書かれたTシャツは。確かにいつも仕事してないけどさぁ…。
大きめのTシャツに緩めのハーフパンツ。もっと無かったのかね?
メアリーはこのままでもいいとして、二人にもこの格好はないなと思う。
仕方ないので、通りがかったロザリーに服を借りることにした。
まず、ステラさんは、薄いピンクのワンピースに水色のショートジャケット。ショートボブの髪型なので、ベレー帽をアクセントにしてみた。
シフォンさんは、ピンクのパーカーに黒系のホットパンツ。ボーダーのニーソで、髪の毛はお団子にしてみました。どうだろうか?
というか、ロザリーの持ってる服の方が女子力高いな。
一応、ロザリーも誘ったんだけど、今日は午後から用事があるのでパスとのこと。
どうせ、カレーに関することでしょう? え? 違いますって。
馬車に乗り込み、いざ出発。
隣に座るソフィアが思い出したかのようにハッとする。
「ねぇ、さっきのやたらスカートの短いメイドってロザリー……さんだっけ?」
「そうだよ。それがどうかした?」
「確か、隠しキャラの一人だった気がする。何でメイドやってるの?」
「さぁ? お姉様の趣味だと思うわよ」
「えぇ……。この家どうなってんのよ……」
馬車が門を通り過ぎる頃、街の方から来た一台の馬車がすれ違う。きっと、レオナルドとウィリアムの乗った馬車ね。
今日は、そこまで剣の訓練しておらず、お母様も不完全燃焼でしょうから、きっとみっちり扱かれるんでしょうね。ご愁傷様……。




