24 公爵家の夕食
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夕食の時間。
公爵家の家族と食事をしているのだが、お姉様の好きな肉メインの料理がテーブルの上に乗っていて、メイドさんが取り分けてくれるスタイルのようだ。
多種多様なお肉が乗っている。全体的に茶色と黒色だ。
「お肉にまずいものがあるわけないじゃない」
昼間のことは忘れ、ウキウキしながらメイドさんにあれこれとお願いしている。
そう言って始めに、よそってもらった大量のローストビーフ一枚食べた瞬間に無の表情になる。
私も一枚食べてみる。
あぁ、なるほど。火を通し過ぎてパサパサになっている。そして、香辛料やハーブを使っていないのか、お肉本来の風味が強い。悪い意味で。
そして、ソースの代わりなのか、煮込みすぎた紫色に近い豆。塩味がしない。
これ、調理法次第で絶対おいしくなると思うんだけどなぁ……。
お姉様の皿の上には、下手くそな人がよそってきたバイキングの皿みたいに大量の肉が乗っている。
流石に、一度お皿に盛ってしまった以上食べないわけにはいかないというお姉様独自の矜持があるらしく、漢らしく無言で肉を頬張っている。
しかし、よっぽど喉を通らないのか咀嚼回数が多い。プルプル震えながら食べている。
そこまでしなくてもいいのになぁと思い、自分の皿の上を見て、これをどう処理しようか手を止めて考える。
普通のソーセージだと思って取ってもらったこのブラッドソーセージもクセが強いので、一口でやめてしまった。お姉様が食べ過ぎて放心状態で固まってるうちに、お姉様のお皿に素早く載せておく。
他にもいろいろあるんだけど、喉を通りにくいものが多くて困る。水で流し込もうと思ったんだけど、ちょっと固いような苦いような感じがして、あまり飲めない。サラダでさえ、苦い。一体何のドレッシングを使ってるんだろう?
公爵家の方々は、そんな料理を平然と召し上がっている。鋼の舌でも持っているんだろうか?
そして、一番の衝撃はお父様が普通に食べていることだ。
普通に公爵と談笑している。私なんて作り笑顔を作るのにさえ苦心しているのに。一応なんちゃってでも伯爵やってるわけだ。凄いなぁ…。真似はしたくないけど。
お父様には味音痴の可能性が浮上したわね。或いはただお腹が空いていて味がよくわかってない可能性もあるのだけど、どっちにしろ私たちがあんまり食べていないので、代わりにたくさん食べてくれるのはありがたい。
「前が見えねェ」
「血の味しかしない……」
「ねぇ、僕の顔ついてる? ついてる⁉️」
「自業自得ですわ」
私にきっしょいことを言ってきた三人は、顔が陥没している。
「三人とも、一体どうしたんだいそれは?」
「お尻の穴のコスプレじゃないですかね?」
そんなものはない。そもそもそうだとしても今やることではない。
ソフィアが何かしたんだと思うけど、この世界の女子って凶暴すぎない? そう思いながら横のお姉様を見ると、私が置いたブラッドソーセージに気づいたのか、私を軽く睨んでくる。
ニッコリと笑顔で返し、目の前の料理に目を移す。
「食事は楽しんでいただけているかな?」
公爵閣下にそう問いかけられる。
「えぇ、はい」
「そうか。いっぱい食べて行ってくれな。何故か、うちでパーティーをするとどこの家も急に用事が入ってあんまり来ないんだよね。何でなんだろうね?」
十中八九、この料理が原因だと思います。無論、そんなことは言えないけど。
とりあえず、ニッコリと笑顔で返しておくが、目尻のあたりがピクピクしているので不審に思われないか心配。
再び皿の方へ視線を移し、皿の上の料理の形をしたものを何とか消化していると、公爵夫人に声をかけられた。
「しかし、本当にかわいらしいわね。男の子だって言われても信じられないわ」
「いえいえ、そんな…」
年相応の妙齢の女性、スミカ公爵夫人は、頬に手を当て目をほそめる。
こうして見ると、やっぱりうちのお母様がおかしいんだなと思った。歳だってそう変わらないはずなのに、うちのお母様は若すぎるなと思った。だって、シワがないんだもの。
「うちのソフィアは、かわいいドレスとかあんまり着てくれないのよね。クリスティーヌさんに見習って欲しいわ」
「お母様、薬品を扱う以上、ヒラヒラの服は邪魔でしかありませんわ。そもそも服なんて着れればいいわけで」
「うちの子たちはどうしてこうなのかしら」
もしかして、転生者四人に苦労しているんじゃないだろうか?
そんなことを考えていたら、いつの間にか、お姉様の皿の上に置いたはずのブラッドソーセージが乗っていた。
お姉様を睨むように見ると、ニッコリと笑顔で返された。やられたわ……。