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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第9章

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42 合流


 ウィリアムが皇城を脱出すると、そこには紐で拘束された兵士や使用人達が座らされていた。

 そして、その前にはエテルナやレイチェルが「いい汗かいたー」とばかりにホクホクしていた。

 「あらリアムちゃん。来ていたの?」

 驚いた様子もなく、淡々と尋ねられる。

 「え、えぇ…」

 「ライちゃんにレオちゃんまで…。危ないから終わってから迎えに行こうとしていたのよー」

 「そ、そうだったんですか…」

 レオナルドが申し訳なさそうな顔をするが、ウィリアムはあまりにも過保護過ぎるのではないだろうかと思った。

 ライオネルは先ほどの事がショックだったのか俯き加減で顔色も良くない。寒いというのもあるだろうが、裏切られた事実が相当堪えたのだろう。王族ともなればそんな事日常茶飯事だと思うのだが、余程温室で育ったらしい。

 まだ、レオナルドの方が、そういった耐性があるなと感じていた。

 そして、そんな様子をエテルナも感じ取ったらしい。ウィリアムに近づき、「思っていても口にしてはダメよ」とそっと耳打ちした。

 これはまだまだ時間がかかるなとウィリアムは軽くため息をついて納めたのだった。

 そんな事よりも、エテルナとレイチェルしかいない事に疑問を抱いたようだった。


 「そういえば、王妃様とレイチェル様の二人だけですか?」

 「えぇ。ちょーっとやる事あってね」

 オパールレイン家のメイドが普通じゃないのはウィリアムも薄々感づいてはいたが、レオナルドに控えていたメイドすら見当たらない。

 よくよく考えたら、一伯爵夫人が王妃と共に行動している事自体不思議なのだ。

 いくら仲がいいと言っても、こんな他国にまで付いてくるはずはないのだ。

 そこから先の事を考えようとした所で、レイチェルと目が合う。レイチェルはそっと口唇に人指し指を添えてウインクしたのだった。

 いつものウィリアムなら、その仕草だけで舞い上がってしまうところではあるのだが、この時はそっと頭を下げるにとどまった。


 「ところで、リアム君がいるという事は、うちのクリスも来ているのよね?」

 「え、えぇ…」

 「やっぱりねぇ。ヴェイちゃんが飛んでるのが見えたからね」

 あの大きなドラゴンをちゃん呼びするとは流石だなとウィリアムは思った。

 「まさか、リアム君まで来ているとは思わなかったわ」

 「そうね。これはレオちゃんもウカウカしていられないわね」

 その言葉に振り返ると、レオナルドが不機嫌そうな顔で睨んでいた。

 「もしかして、リアムとクリスは…」

 「ないない。無いから。レオ、お前を助けに来ただけだし、無理言って乗せてもらったのは俺なんだよ」

 「そうでしたか。私の思い違いでしたね」

 途端に表情を軟化させたレオナルド。

 「あれ…でもヴェイちゃんは、誰でも乗せるなんて事しないのに…」

 「え?」

 レイチェルのその発言に、再び振り返るのが怖くなったのだった。


           *      


 時間は少し遡り─────

 無事にバルコニーへ降りて中へと入って行ったウィリアムを見届けると、クリスはロザリーの後ろから声を掛けた。

 「じゃあ、ヴェイロン悪いんだけど、さっきの大通りの方へ行ってもらってもいいかしら?」

 「任せて!」

 いつの間にか先ほどの集団は大聖堂の目前まで進んでいた。

 そして、その後方には帝国民と思しき集団が隙間なく集まっていた。

 その上空をヴェイロンが飛んでいくと、様々などよめきが聞こえた。

 大聖堂前に祭壇のようなものがあったので、そこへ飛び降りようと考える。

 「ねぇ、あそこにちょうどいい感じの場所があるからあそこの手前で少し速度を緩めてくれる?」

 「分かった!」

 「そしたら、その後、この皇都上空を旋回するように飛んで欲しいんだけど」

 「それはいいけど、サマンサはどうするの?」

 「え、お姉様?」

 「そう。一度戦ってみたかったんだよねー」

 「待ってください。そんな勝手にあれこれ決めないでください」

 ロザリーが非難の声を上げる。しがみついてるだけで精一杯なのに両方を気にかけるなんて流石ね。

 「じゃあ、その辺は旋回中にロザリーと決めてちょうだい」

 「分かった!」

 「待ってください! そんな私にどうしろと…」

 どうしろと言われても、もう目的地まで数秒ないのよね。

 「ま、なるようになるわ。頑張って」

 「ちょっ!」

 そのままヴェイロンから飛び降り、祭壇の上へ着地する。

 ヴェイロンの飛行と飛び降りた時の衝撃で土煙が舞う。ちょっと演出っぽくなったかしら?

 しかし、そんなことに興味はないのか、祭壇の前でお姉様の腰に手を回した新皇帝ことルスランは、軽く鼻を鳴らすと、大仰に両腕を上げながら、前へと歩き出した。

 「これはこれは…。まさか、俺の女を奪いに来たとでも言うのかな?」 

 別にお姉様の婚約を取り消しになんて、そんな野暮な事はしないわ。

 「いいえ。あなたがやろうとしてる愚かな事を止めに来たの」

 話し合いでなんとかなるとは思わないけど、せめて侵略という馬鹿げた事だけはやめて欲しいわ。

 今もうちのメイドさん達やクラスメイト達が必死に防いでくれているのよ?

 あの人達が傷つく前に止めさせないと。

 「愚かな事…ねぇ…ふはははっ! いいね。君最高。まさにうってつけじゃないか! なぁサマンサ!」

 「えぇそうね。最高の余興だわ。まさかクリスがこんなサプライズをしてくれるなんて嬉しいわ」

 そんなつもりで来たんじゃないんだけどなぁ…。


 その時、人化したヴェイロンがロザリーをお姫様抱っこして空から降ってきた。

 落下の音なのか、ロザリーの悲鳴なのかは分からないが、着地時の轟音でどっちだったのか分からなくなった。

 物凄い量の土煙が発生した。恐らく、着地の衝撃で地面が抉れたんだろう。

 周囲の建物に石礫が刺さったりめり込んでいる。大通りにしかないであろうガラスは全て割れていた。

 そんな土煙の中から、お姉様そっくりの姿で現れるものだから、周りにいた人達がざわめいた。

 強いて違う所を言えば、ヴェイロンには角と尻尾がある事だろう。ワザと出しているって事は何か考えがあっての事なのだろう。

 お姉様と違ってヴェイロンはちゃんと考えてるものね。………考えてるよね?


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