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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第2章

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21 やっぱりクリスが好き


           *      


 そんな事があったが、我が領内の領都エーレクトロンで、伯爵家と一緒に街の中を案内する事になった。

 人数の関係上、二台に分かれて行く事になったが、どうして、私とお父様とクリスティーヌとステラの四人なのかしら?

 お父様は、さっきの出来事をクリスティーヌに謝っている。伯爵家の方には黙っているようだから、私がやった事はバレてないので、そこは助かる。


 正直、気が重い。

 隣にいるのが、クリストファー様なのは判っているのだが、あんだけの事をしでかした今、素直になれない。いや寧ろ悪化していると言ってもいい。

 どうやって、関係を修復しようか考えていても、悪態をついてしまう。

 いろいろ考えた結果、もう逢わない方がいいのかもしれないと結論付けた。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか馬車は街の中心街に着いていた。


 クリスティーヌが姉と食べ物の事で何かを話している。

 来て早々何かを食べるなんて、よっぽどお腹でも空いているのかしら?

 食べ物なんて、栄養さえ取れれば何だっていいのだと思うのだけどね。

 それを、あんなに議論しながら食べるなんて効率や時間の無駄だと思うのよね。

 大体、ドリンク剤にサプリ、栄養の詰まったクッキーみたいので事足りると思うのよね。

 そういえば、ここ数年はそういうのばっかり食べていた記憶がある。

 夕食だけは家族で集まるけれど、何を食べたかあんまり記憶にない。でも、食べられないものじゃない事は確かよね。


 昨日何食べた? ってレベルの考え事をしていたら、遠くの方で悲鳴と怒声が響いてきた。

 その悲鳴と怒声が自分には関係ないものだと思って考え事に耽っていた。気づいた時には馬の嘶きがすぐそばまで来ていた。


 「えっ?」

 頭上が暗くなる。目の前では乗ってきたはずの馬車が空を舞っていた。

 その直後に、メイドのステラに庇うように抱きしめられた。


 これは、私への天罰だろうか。

 一方的な価値観を押し付けて、目の前の人物を蔑ろにしてきた私への罰。

 いくら乙女ゲームの世界だからといって、皆んなが皆んなゲームと同じな訳がない。

 現に私だって、レオナルドの婚約者から外れている。なのに、クリストファー様にはあんなに自分の理想を押し付けていた。

 もし、生きていたら謝ろうと、ギュッと目を閉じ、そう思った―――――



 その瞬間―――――

 体が宙を舞う感覚が襲った。痛みはない。きっと、衝撃が体に伝わるのが遅かったのか、脳がそれを認識できないでいるのだろう。

 しかし、いくら待っても激しい痛みは訪れなかった。

 吹き飛ばされた感覚とは違う。まるでアトラクションのように垂直に上がった感じだ。

 恐る恐る、目を開けると、クリスティーヌの顔が目の間にあった。


 辺りを見回すと、ステラも一緒に抱きかかえられて空を飛んでいる。

 よーく、私の体を見ると、お姫様抱っこされている。

 気づいた時には衝撃なく地面に着いた時だった。


 丁寧に足から地面に降ろされ、クリスティーヌはよろける私を支えてくれた。

 何が起こったのか分からず呆然としていると、ステラに勢いよく抱きしめられた。

 「お嬢様ご無事でっ!!!」

 「ステラも無事でよかったわ…」

 漸く、自分が助けられたのだと実感し、ステラを抱きしめ返す。


 そして、少し落ち着いてから周りを見渡すと、惨憺たる光景だった。

 馬車は原型を留めず、破片だけになり、辺り一面を残骸で覆っている。

 馬が突っ込んできたであろう場所を見ると、そこにも荷物と思しきものがぐちゃぐちゃになって散乱している。

 正直、よく無事だったなと思う。

 あそこに居たままだったら、確実に死んでいただろう。


 急激に襲いかかる恐怖感を実感し始めると、目の前が少し暗くなり平衡感覚が失われそうになる。

 何とか閉じそうになる目を、気力を振り絞って、私を助けてくれた人を見つめる。

 そしたら、何を勘違いされたのか謝られる。

 「あ、ごめんね。緊急事態だったから、咄嗟に抱きかかえちゃって…。もう、触ったりしないから、ごめんね」

 違うの。そんな言葉を聞きたいんじゃないの。

 そっと離れようとするクリスティーヌのスカートの裾を自然と摘んでいた。


 クリスティーヌがそれに気付き、不思議そうな顔をする。

 「…ゃ、待って、違うの……。あ、その………。ありがと……。助けて、くれて……ありがと………」

 何とか、振り絞って感謝の言葉を伝える。

 「どういたしまして。無事でよかったわ」

 「あの……」

 続きを言おうとしたら、周りで見ていたらしい聴衆に囲まれてしまい、私はそこから追い出される形になってしまった。


 両手を胸の前で握り、思う。

 ………好き。

 心の音がどんどん大きくなっていくのがわかる。

 きっと、今の私の顔はとてつもなく真っ赤になっているかもしれない。それくらい体が熱い。

 やっぱり、クリストファー様はどんな姿でもかっこいい。

 あんなに、きつく当たった私を気にするでもなく、当たり前のように助けてくれた。あの人はいつでも私のヒーロー。いいえ、ヒロインなんだわ。


 そして、助けてくれた時のあの表情。とても凛々しくて素敵だった。

 夢にまで見たあのスチルと一緒。流石に顔はまだ幼いけれど。私にはそれで十分。

 名前とか、見た目とかどうでもいいじゃない。私はクリスが好き。どっちの名前にもクリスがつくんですもの。これからはクリスって呼ぶわね。そう勝手に心に決めたのだった。


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