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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第9章

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37 メイド達の楽しみ①


 グレートがエンジェルシリカの兵士達へ向かっていくのを皮切りに、オパールレインのメイド達は嬉々として兵士達の群へと突っ込んでいった。

 彼女達は思う。普段の生活がいかに楽しいかを。そして、それがどんなに得難く幸せであるのかを。だが、彼女達は渇望していた。戦場で戦う事を…。

 元々は王城の近衛騎士として仕えていたのだ。普段のメイド業務や裏方の仕事よりもこうして目の前の敵をねじ伏せる方が性に合っていたのだ。尤も、彼女達全員がクリスの前ではその本性は表す気はないのだが。

 今だけは溜まりに溜まったフラストレーションを発散出来るとエンジェルシリカの兵士達に感謝しながら、それを暴力という形でお返しするのだ。


 「よくそんな大きな獲物を軽々と振り回せるわねぇ」

 男達の一人が引き攣った顔で言う。

 「あら。あなた達にはこのくらいで丁度いいと思ったのよ」

 オパールレイン家のメイドの一人であるプトマは、その華奢な見た目に反して赤黒く変色したクラブを軽々と肩に担いでいた。

 それを見た相手は若干顔を引き攣らせながら、拳を振り下ろした。だが、その攻撃は当たらなかった。プトマの持つクラブにあっさりと弾かれたからだ。

 それでもエンジェルシリカの兵士は並の鍛え方をしていないらしい。クラブに弾かれたにも関わらず、かすり傷一つついてはいなかった。

 両者ともにぃっと笑って互いにクラブと拳をぶつけ合った。それは、ゴブリンのような見た目の相手にゴブリンの持つ武器で応えるようなものだった。

 「あぁっ! なんて楽しいのかしら……」

 軽々とクラブを振り下ろし、鈍い音を轟かせながら男達を吹き飛ばす彼女は、宛らゴブリンを専門に屠る冒険者のようだった。恍惚の表情で一人また一人と意識を刈り取っていった。


 別の場所では、オパールレイン家のメイドであるザスターがハンマーを地面に垂直に構え、シャインがナックルを装備して、拳を突き合わせて男達と対峙していた。二人に対して数十人はいるだろうか。男達は警戒するように左右から囲むようにジリジリと動いていた。

 「そんな事しても無駄なのに」

 「本当にね」

 先に動いたのはシャインだ。ザスターの振り上げたハンマーを足場に垂直に高く飛んだ。そして、ザスターが周りを囲み出した男達を、まるで蚊でも払うかのごとく一薙した。

 その圧倒的な威力とそれによって生じた風圧に気圧される男達。一瞬怯んだのがよくなかった。上空からその勢いのままシャインが男達に拳を打ち下ろしていった。

 地面にめり込むほどの威力で無力化されていく男達。だが、彼らも負けてはいない。一瞬のうちに体勢を整え、数で押し切ろうと一気に襲いかかってきた。

 流石の彼女達も全方向からの攻撃には躊躇した。だが、ニヤッと笑うと、シャインが軽く跳び、ザスターが一回転するようにハンマーを振り回した。

 ザスターが数を減らし、シャインが各個撃破していった。

 男達もどうやって攻略したものかと楽しみながら向かっていったのだった。


 きっと何も知らない者がこの光景を見た時、きっと犯罪の匂いがすると感じるだろう。

 ニタニタと薄ら笑いをする二人の少女を、ブーメランパンツと靴下だけの屈強な男達が取り囲んでいたのだ。

 その場に出くわしたら、きっとおまわりさんを呼ぶべき事案なのだろう。だが、この場では違った。

 男達は、ジリジリと後退していた。なぜならば、二人の少女のいたずらっ子のような表情に悪寒が走ったからだ。

 「あれれ〜おじさんたちどうしたの〜?」

 「そんな情けない顔して恥ずかしくないの〜?」

 明らかに挑発だと分かる。そして普段ならば余裕を持ってエリーに指示されたおネェ言葉で返すのだ。

 だが、彼らに出来ることは、呻くことしか出来なかった。

 「こんなのらくしょ〜だよ〜」

 「ねー。黙っちゃってカッコ悪〜い♡」

 「大人なのに黙っちゃって、なっさけな〜い」

 「あれれ〜? なんか震えてない? もしかして興奮しちゃった?」

 「そうよね。あんな格好してるんだもの変態さんに決まってるよねぇ」

 「そんな変態さんには何したっていいんだよね?」

 「もちろんよぉ。いーっぱいいじめてあげないとねぇ」

 アリスはフレイル型のモーニングスター。メタモは回転ノコギリを装備していた。

 その見た目からは想像できないエグい武器に、男達は退散する選択肢を選んだ。だが、魔王からは逃げられない。

 新しいおもちゃを見つけたかのようにアリスとメタモはケラケラ笑いながら襲いかかった。

 「逃げるなんてだめだよぉ」

 「そんなに怖いの〜? こーんな小さい子にやられちゃうなんて、ほんとざぁこね」

 「よっわよわ。ぷぷっ…」

 「おかしいなぁ。こうしてやられるのが好きなんだよねー?」

 「どうして逃げちゃうのかなー? もっと遊んでよぉ」

 近接で戦う彼らにはあまりにも不利な相手だった。どう避けてもどちらかの武器が迫る。悪魔のような二人の少女に翻弄されながら四桁にも及ぶ兵士たちは無残にも蹂躙されていくのだった。

 そして、完全に動けなくなった後も、「よっわ♡」「ざぁこ♡」「なっさけな〜い♡」「よわよわ〜♡」「だっさ〜い♡」「かわいそ〜♡」等と他での戦いが終わるまで、ずっと言葉で蹂躙されるのだった。


 普段クリスと共にしているメイド達も例外では無く、内に秘めた狂気を剥き出しにしていた。

 アマベルは自身とほぼ同じ長さのファルシオンを。エペティスは両手にダガーを構えていた。

 それを見て男達は皆顔を顰めた。二人とも小回りの利く近接型だ。自分達は体の大きさ故、どうしても大きな攻撃になってしまう為、間に入られるととてもやっかいだった。男達にとっては相性の悪い相手だった。

 そもそも、他のメイド同様に武器を持ってる時点で諦めていたのだが、力で押し通せると楽観していた。だが、それすらも出来そうにないと判断した。であれば、腰を低くして戦い方のスタイルを変更しなければいけないと全員が理解して、腰を屈めた。

 「あらら。どうやら私達の戦い方を見抜かれちゃったみたいよ?」

 「そうね。でも私達二人なら特に問題ないわよね?」

 「いや、寧ろ問題大有りだわ」

 「え?」

 「だってそうじゃない? 私達の戦いを是非ともクリス様に見てもらいたかったわ」

 「ああ、そう言う事。……確かにそうね。服の好みも合うんですもの。戦い方のスタイルもきっと気に入ってくれた筈だわ」

 「そうよね。そうよね! じゃあ、今度見せるために、もっと極めましょうか」

 「そうね。目の前に丁度いい練習相手がいるものね」

 「私、新しい技試したいのよね」

 「あらいいわね。折角だし私も試してみようかしら。ふふふ…」

 アマベルはニコニコしながら、軽く跳ぶと、両手で持ったファルシオンを斜め後ろから思いっきり振り下ろした。その勢いのまま右に左にと水平に振ったかと思うと、一回転したりと、まるで踊っているかのように戦っていた。

 エペティスも負けじと、腰を低く落とし、両手に構えたダガーを持って男達の集団の中へ突っ込むかのように走っていく。

 回転しながら跳び、互い違いに腕を振り下ろしていく。

 普段、あんなにも動きづらそうなゴスロリを着ているとは思えないほど、軽やかにそしてしなやかに動いていた。まるで、今まで拘束具を付けていたかのように、その動きはとても伸び伸びとしていた。

 男達も負けじと、両腕で振り払うようにしたかと思えば、その腕で刃を受け止め、弾く。まるで、岩鉄のように固く、当たったところから火花が散っていた。

 まるで踊っているかのように戦っており、少し離れた場所にいたものは息を飲むようにただその光景を見ていた。


 クリスと学園で過ごすロココとビシューもその見た目に反して大きな得物を持っていた。

 ロココは自身の倍以上ある槍を軽々と頭上で回転させていた。そして、ビシューは自身の倍以上はあるであろう戦斧を肩に担いでいた。どちらもそれぞれの趣味であるのか、やたらとゴテゴテした装飾が施されていた。

 「そんなおもちゃであたし達と戦うっていうのぉ?」

 「そういうのは、家で飾っておくものじゃないのかしらぁ」

 実用性に乏しいと判断したのか、エンジェルシリカ側では嘲笑うような言葉を口にしていた。

 「じゃあこれが、ただのおもちゃじゃないって事、証明してあげるわ」

 「そうね。泣いて許しを乞うても許してあげないんだから」

 「こんなところ、クリス様には見せられないわね」

 「ホントよ。引かれちゃうもの」

 「何をごちゃごちゃいってるのかしら?」

 「もしかして、重くて動かせないのかしらぁ?」

 尚も嘲る男達に対して二人は冷静に武器を構えた。

 先に動いたのはビシューだ。肩に構えていた戦斧を思いっきり前へ振り下ろした。その瞬間、地面には深い溝が数キロに渡って穿たれた。

 必死の形相で避けた男達は、信じられないといった表情で溝とビシューを交互に見やった。なぜなら、穿たれた溝は赤く焼け爛れていたからだ。

 そして、そんな男達に向かってロココは構えた槍を前方へと思いっきり突いた。男達はその瞬間、脇目も振らずに真横へと飛んだ。その直後まるでレールガンのように紫電が走り、その光の線の通った後には微かに電気の残滓が残っていた。

 流石の男達もこれにあたれば命は無いと、その場にひれ伏したのだった。


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