33 不満
遡る事、少し前。
これから戦いだというのに、緊張感は一切無かった。
「何で俺らまでメイド服着なきゃいけないんだ」
「何でもドレスコードらしいぞ」
「いやいや。だったら俺らは執事服とかでいーじゃん」
オパールレイン家の男性の使用人達が、渋々メイド服に身を包んでいながらも、延々と文句を言っていた。
「それにしても、お前らのサイズよくあったな」
使用人の一人が庭師三人の体型を上から下まで見て呟く。
「だよな。この短期間でよく用意出来たよ」
「まぁ、パッツパツだけどな」
「いや、これ伸縮性のあるシャツにフリフリ縫い付けただけだぞ」
「そうそう。エプロンの紐の長さ足りなくてな」
「まぁ見えりゃいいんだろ?」
「というかさぁ、何で向こうさんはブーメランパンツ一丁と靴下だけなんだよ。おかしいだろ」
「それな」
あれこれと、自分達の着ている服について話し合っていると、その中の一人が、ふと思った疑問を口にした。
「そういえば、ルイス様っていつから女装始めたんだっけ?」
「クリス様が女装に目覚めた後だけど…いつだったかなぁ…」
「いや、結構隠れてやっていなかったか?」
「いや、やっぱりクリス様が可愛くなられてからだろ?」
「というか、クリス様の場合、元から女の子だったろ?」
「それな」
そして、全員が自身と周りを再度見まわし溜息をついた。
「俺らが着てもなぁ…」
「罰ゲームだよ。ホント」
そんな時、ルイスが呆れた顔で近づいてきた。
「君達、何がそんなに不満なの?」
「この格好が。ですよ」
「何で? メイド服可愛いじゃん」
「そりゃあ、可愛い子が着たら可愛いですよ?」
「俺らみたいなコワモテが来たって可愛くありませんぜ」
「寧ろ犯罪的だよな」
「それな」
「僕は可愛いと思うけどなぁ。最上級に可愛いよ」
「それ、本気で言ってます?」
コテンと小首を傾げるルイス。
「そもそも俺ら斥候とか工作メインの裏方ですからね。戦いとかそんなに得意じゃないですよ」
「そうそう。まぁ、ある程度は戦えますけど、アレと戦って生き残る自信がないです」
「? 大丈夫でしょ」
何がおかしいのか分からないといった様子のルイスに、男の使用人達はそれ以上何も言えなくなった。
その時、準備が整ったのだろう。メイド達がニコニコしながらルイスの元へやって来た。
「ルイス様、メイド服似合ってますよー」
「私達、今日は頑張りますね」
「私達戦闘職なのに、裏方ばっかりでしたから、凄く楽しみです」
「全力で相手をぶっ潰しますねー」
「最近食べてばっかりだったので助かりますー」
これから戦うというのに、朗らかに話をしている。尤も内容は物騒なのだが。
「うちの女どもはホント血気盛んだよ」
「実際強いしな」
「それな」
「だから、俺は嫁とはケンカしないんだ。殺されるからね」
「ウチもだよ。一回やり合ったら骨折したもん」
「ああ、あったなそんな事」
「ははは…。俺のこの顔の傷、妻が原因なんだよ」
「元からじゃないのか…」
懐かしむように話をしていたのだが、一人が身震いして振り返ると、メイド達がじーっと使用人達を見ていた。
「俺、これが終わったら旅行行くんだ」
「そうか…。片道切符にならない事を祈るよ」
「怖い事言うなよ」
「だってさぁ、今俺の背中にクナイが刺さってるんだぜ? まだ戦う前なのにさ」
「お前、嫁の悪口めっちゃ言ってたもんな」
「生きてたら飲み行こぜ。な?」
相手よりもメイド達に恐怖する使用人達だった。
「はぁ…」
「おいどうした?」
「いや、さ。何でこの場にクリス様いないんだろうなって思ってさ」
「仕方ないだろ? 別任務なんだから」
「無事に帰ってくるかな?」
「そりゃあ、大丈夫だろ?」
「あんま言うとフラグになるからやめろ」
「そうだな…。うん、そうだ。俺ぁ必ず戻ってクリス様と話したいぞ」
「俺もだよ。クリス様に庭を見てもらいたいんだ」
「僕もまたクリス様の作るお菓子が食べたいよ」
「じゃあ俺らも頑張んないとな」
お通夜モードから一気に闘志をみなぎらせる使用人達。
「それにほら、クリス様のご学友もいるんだ。無様な姿見せられねぇだろ?」
「それな」




