20 ソフィア回想する⑤
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一番重要な事を言い忘れていたわ。
私がこの乙女ゲームの悪役令嬢だって事を。
まぁ、断罪フラグのレオナルドと婚約にならなかったから、過去形でしかないのだけれど、正直誰と婚約したのか気になるわ。
だって、私の代わりに断罪されて悲惨な終わり方するんでしょう? 確定ではないにしても、きっとヒロインも性悪の転生者よ。あの手この手を使って悲劇のヒロインを演じるに決まってるわ。レオナルドの婚約者になった人にはかわいそうだけど、感謝しているわ。
まぁ、私が兄達と好き勝手やらなければ、きっと会うことすらなかったのかもしれないけどね。
正直、レオナルドが視察に来るって言われた時は頭真っ白になったわ。どうやって、回避しようってね。まぁ、結果は終始上の空。私のことなんてアウトオブ眼中だったんでしょうね。私もよ、って言いたいくらいだったわ。
でも、何で上の空だったのかしら? ふと疑問い思い、知るはずのないクリスティーヌに聞いてしまったら、何と! とんでもない事を告白されたわ。
「私が、その婚約者なんですが……」
「んん? え? 何て?」
「だから、私がその婚約者になっちゃってるの!」
えぇ…。レオナルドってそっちの趣味があるのかしら? あるいは、気づかずに婚約を申し込んだってこと? ぷぷっ……、マヌケねぇ。まぁ、私もクリスティーヌが男だとは見抜けなかったけれどね。
もし、バレたら最低でも打ち首じゃないかしら? 王家を謀った罪とかで。
でも、こうして話していると、私と話していて全く動揺しないってことは、もしかして、男のほうが好きなんじゃないかしら? 男の子と話したら、動揺するとかないかしら? うーん…………、気になる。
「何で? もしかして、男が好きなの? あ、だから女装しているの? え? 王子は知ってるの? もしかして王子ってそっちの趣味が?」
「知るわけないでしょう! それに、お父様にバレずに婚約破棄頑張って♡ って言われてるのよ。ホント、どうしたらいいのか…」
私が言うのも何だけど、この子以上に伯爵も相当頭おかしいわね。
「そうなんだ。あの、なんかごめんね。ところで、女装してるのと男好きはどういう事?」
「何でそんな考えになるのか分からないけど、別に男好きじゃないわよ。あ、女装は好きでやってるわよ。だって、私かわいいもの」
髪をファサッと後ろへかき上げて、自信満々に微笑むクリスティーヌ。
目の前にいるのが、愛しのクリストファー様でなければ、抱きしめていたでしょうね。それくらい様になっていた。
でも、そうね。一番好きなスチルが潜入時に女装したクリストファー様なんだから、ある意味夢が叶ってるわけで、別にこれでいいのかもしれないけれど、今更意見を翻すわけにもいかないし、詰んだわ。どうしましょう。
意地を張らずに、抱きしめたらいいのかしら? でも、散々突き放してきたのに、いきなり抱きついたら変よねぇ…。
というか、ここまで話していて何だけど、正直、このクリスティーヌとやらが男なのか女なのか判らなくなってきた。
「こんな事言うのあれだけど、様になってるわね。正直私より可愛いまであるわ。悔しくて嫉妬しちゃいそうなくらいに……。……………ねぇ、本当は女の子って事ない?」
「いや、ちゃんと男だって言ったでしょう?」
ムキになっちゃって可愛いわ。男らしさから一番離れたところにいるわね。これは、やっぱり自分で確認しないと、どう向き合ったらいいかわからないわ。
「いいえ、この目で見るまで信じられないわ。研究者としてちゃんと確認しないと!」
そうよ。研究者たるもの、自分で確認しないでどうするの。他人が言ったことをはいはいと鵜呑みしていては、ちゃんとした結果は得られないわ。
そう思うや否や、私はクリスティーヌの前に立っていた。
「私、直接見ないと信じられないタチなのよね」
ソファに座った状態なら、逃げ場なんてないわ。ただ、スカートを捲って確認するだけの簡単なお仕事よ。
別に、女の子だったなら、ごめんなさいして百合ルートに突っ込めばいいし、男の子だったなら、私好みに矯正すればいいのよ。
膝のあたりの生地を掴もうとすると、右の方に飛び退るが、やっぱり、ソファに座った状態じゃ上手く逃げることなんてできない。そのまま勢い余って倒れ込む。
どうやら、鼻を打ち付けてしまったらしい。可愛いお顔に跡が残らないといいけど、今はそんなことより、私の中の探究心を究明する方が先決だ。いざ尋常に!
「研究者としての私の勘が告げている。これは確認すべき事だと!」
スカートの裾を、中のペチコートもろとも上へ放るように捲る。
「膨らみがある……」
ゴクッっと生唾を飲み込んだ。
心のどこかで、きっとこの子は女の子で、別にクリストファー様がいると思っていた。タチの悪い冗談だと思っていた。しかし、この膨らみを見たらそんな気持ちは霧散してしまった。
いや、ワンチャンパンツの中に何か詰め込んでいる可能性もある、例えば貞操帯とか。その可能性にかけて、パンツを下ろそうと縁に手を伸ばす。
「あの、その辺でやめてもらってもいいですかね?」
小さく何か言われた気がしたが、耳には入らなかった。
そして、一気に下までずり下ろす。
…………………………………………………。
見慣れた兄のものより大きいものが露わになった。
「うわぁ…………。本当に男じゃないの!」
この気持ちをどこにぶつけよう。目の前にいる少女がクリストファー様だったことに対して。嬉しいやら悲しいやら、裏切られたような気持ちになる。
無意識の行動だった。だったらなければいいじゃない。
そう思って、目の前のアレを徐ろに掴んだ。初めての感触だった。ちょっと、面白くなってしまったのは言うまでもない。
しかし、クリスティーヌが悲鳴にも似た声を上げるので、名残惜しいが止めることにする。
「ちょっと! 何やってんの! 何で握った⁉️ 何で揉んだ⁉️ 何で引っ張った⁉️」
「いや、何か色々考えたら腹が立ってきて、つい…」
口からでまかせを言ったら、凄むように睨まれた。美少女に睨まれても怖くないのよね。あ、男だったわね。全然怖くないわ。
「いや、触診しないと本物か分からなかったから…。でも、アナタが言う通り、下の方も可愛かったわよ。自信を持っていいわ」
悔しかったので、サムズアップしながら皮肉も言っておいた。
「持てるかバカ!」
「バカって何よ! すんなりたくし上げて見せればよかったじゃない!」
さっきまでのクリストファー様への憧れはなりを潜め、このクリスティーヌに、ついつい姉弟のような接し方をしてしまった。
そんな事を言い合っていると、いきなり扉が開けられた。
「ソフィア、話とやらは終わったかい?」
お父様が、扉を開けて固まっていた。
あら、どうしましょう。あの位置からでは、私がこの子を押し倒してるようにしか見えないわね。なんて言い訳しましょう。




