30 友達
「ところで、どうしてエリー…エンジェルシリカはこのタイミングで反乱なんて」
エリーがそんな事を思いつくとは思えないのよね。
だって王家を守護する四家のうちの一つで、帝国と隣接する広大な東方地域一体を守護している家門だ。
例え独立したとして、ルビー帝国とダイアモンド王国に挟まれる形だし、何より南北に長い領土だ。
いくら辺境伯領の兵士が強いといっても、守り切れるとは思えないのよね。
だから、これはきっと何か思惑があるはずなのよ。
その証拠に、本当に反乱や独立なんて事になったら、もっと焦るはずよ。
こんな和気藹々と話し合いなんて出来ないわ。
そういえば、アンさんといつも一緒にいるクライブさんがいない。
「あの…そういえば、クライブさんいませんけど、アンさんと一緒じゃないんですか?」
「何で私と二人セットの扱いなのよ! …まぁ、そうね。今アイツは自宅にいるわ」
アンさんは掌に顎を乗せて不満を露わにする。
「クリス。多分もう気付いているんじゃないかな?」
もしかして…。いや、でも…そんな事大々的にする訳が…。
「これはね、茶番なんだよ。ルビー帝国の兵士が国境沿いに集結していてね。まぁ、どんだけ集まろうと勝てる訳ないんだけど、戦意を削ぐため。もう一つはさっきの招待状に書いてあったように発散したいんだろうね」
なるほど…。
じゃあ、なんでこのタイミングでルビー帝国は兵士を国境に集めたんだろう?
ルビー帝国前皇帝夫妻が崩御して、お姉様が新皇帝陛下に顔合わせに行った。
王妃様と第一王子と第二王子も外交の名目で行った。
やっている事がチグハグ過ぎる。
きっと、明日皇都で何か起きるかもしれないって予感がする。
「あの、お兄様?」
「何だいクリス?」
「もしかして、明日皇都で何か起きるかもしれないって思ってますよね」
「そうだね」
「もしかして、めんどくさい事になるかもって思ってます?」
「………」
今まで即答していたお兄様が、笑みを消して真顔になる。
「お兄様?」
「ルイス、もう隠せないんじゃない?」
「はぁ…」とため息をついたお兄様はお父様そっくりだった。
「何だっけ…前クリスが言ってたあの…勘のいいなんとか…」
おっとお兄様。そこから先はダメですわよ。
「分かりました。皇都の方は私が行きますから」
「本当かい。いやぁ助かるよ」
パァッと顔を明るくさせるお兄様。
本当に親子ですね。嫌なところまでそっくりですわよ。
「じゃあ、疑問も晴れたところで、いろいろ準備しようか」
なんかハメられた気がする。
応接室を出ると、盗み聞きしていたのだろうか。
そこには、ソフィア、ジル様、シェルミー様、イヴ様、ウィリアムと、他にも沢山の友人達が立っていた。
「私達も手伝いますわよ」
「そうだね。あそこでどれだけ鍛えられたか、試してみたいしね」
「あれを思いっきり試してみたいもの」
いやいや。あなた達はショーのレッスンしてただけでしょう?
まぁ、確かに実戦よりで、本当にショーのレッスンなのかなとは思ってはいたけども…。
「クリス様一人に重荷は背負わせられませんよ」
「ええ。助けていただいた恩も返せてませんからね」
「迷惑かけたお詫びも返せてませんわ」
トミー様、カイラ様、リンダ様と、次々と手伝うと申し出てくれる。
「僕達だってただ守られてるだけじゃないんだよ」
「ええ。直接闘うのは出来ませんが、他の事はお任せ下さい」
「ほら。こんなに言ってくれてんだ。水臭いぞクリス」
テオたん、アーサー、ウィリアムと男子勢もやる気に満ち満ちている。
最後にソフィアがずいっと前に出てきて、ニンマリとした笑顔で口を開く。
「もうクリスったら、そんな抱え込まなくていいわよ。うちで作ったミサイルぶち込めば簡単に解決すると思うわよ」
「ソフィアだけは家でじっとして待っていてほしい」
「何でよ!」
ソフィア一人だけ異常だよ。
拳や剣で戦うって言ってんのに、何で近代兵器持ち出してんのよ。
言わなかったら本当にぶっ放しそうで危ないわ。
「クリス、ご飯まだだろ? 今後の事食べながら打ち合わせしようぜ」
「リアム…」
「いい友達を持ったじゃないかクリス」
「あっ、お兄様…」
振り返るとお兄様も打ち合わせに参加すると言い出したが、みんな制服姿のお兄様に驚いている。
そりゃそうよ。二十歳過ぎてまだ、制服が似合ってるんだもの。驚きよね。
というか、何で着てきたのか誰も質問しないんだけど、どうしてなのかしら?
疑問に思ってる私がおかしいのかしら?
その後、少し遅めのランチを食べながら、明日の事を打ち合わせた。
午後の授業? アンさんがいろいろ手を回してくれたお陰で休講になったわ。




