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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第9章

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26 盛大なおもてなし


 エンジェルシリカ辺境伯領から国境を越え、馬車に乗って二日ほどで、ルビー帝国の皇都カルブンクルスへ到着した。

 リーチフォレストを超えてから、ずっと気落ちしそうな程、厚くどんよりした雲が空を覆っていた。

 途中で立ち寄った街に活気はなく、いつでも灰になって消えそうなくらい、脆く儚かった。

 街道脇にはよくわからない木彫りの置物を売っている店があったが、店主以外は歩いている人すらいなかった。

 宿場町に近づくにつれ、街道脇にはぽつぽつと今にも吹き飛んでしまいそうなくらいボロボロのお店があったが、何も置いてはいなかった。

 店主と思しき人はただ座って虚ろな表情で空をみあげていた。

 街一番の宿でさえ、隙間風が入り、強風が吹けば、そのままパタンと閉じてしまいそうな程だった。

 ダイアモンド王国の僻地でさえ見た事のない粗雑さに、レオナルドとライオネルは開いた口が塞がらなかった。

 ただ、エテルナとレイチェルとサマンサは、なんて事はないと済ました顔をして過ごしていた。

 「まだ冬には早いと思うのだけれど」

 「そうね。風邪を引かないといいのだけれど」

 「大丈夫でしょ。きっと上手くやるわ」

 三人はギシギシと軋む椅子に座って、唯一の暖となるお茶を飲んでいた。

 窓の外では風の吹く音しか聞こえなかった。


 色褪せた景色に変わり映えはなく、それは皇都に入っても同じだった。

 いや、より酷いと言った方がいいかもしれない。

 ところどころ、剥き出しの導火線が至る所に生えている。そんな雰囲気だ。

 馬車の乗り心地は特に酷く、何度も椅子とお尻が離れ離れになる。

 そして極め付けは皇城だろう。

 聞いていた話によると、全体的に鮮やかな鮮血のような赤に金と黒の装飾。ところどころに青や緑がアクセントの装飾が施された荘厳で派手な城と聞いていたが、燻んだ煉瓦色にしか見えなかった。

 「なんか思っていたのと違うわね」

 「全体的に燻んでるわね」

 レイチェルとエテルナが険しい表情で呟いた。

 サマンサは特に気にした様子もなく、口を隠すように頬杖をついて外を見ていた。

 そして、二、三回程城門で確認の為止められた後は、そのまま中まで馬車で入って皇城の中へ通された。

 中も金の装飾を施されてはいるが、全体的に燻み、真鍮の様にも見えた。

 そして、時期皇帝陛下であるルスランが広間にてお待ちとの事で、そのまま広間へ入った瞬間、サマンサ以外の全員が衛兵に槍で動きを封じられてしまった。


 「随分と盛大なお出迎えね。これが帝国式なのかしら?」

 エテルナが堂々とした態度で言い放つ。

 「お気に召してもらえたかな?」

 「ええ。とても野蛮で愚かだわ」

 エテルナは腕を組んで不愉快さを隠しもしない。

 「ははは。これはこれは…」

 「何がおかしいのかしら?」

 「あなた方ならここまで一日と掛からず来られたのでは?」

 「何が言いたいのかしら?」

 「父と母が昨日亡くなってね。それも急にね」

 「え?」

 「まさかそのような蛮行をされるとは、ね。私も驚いたよ。感傷に浸る暇もありゃしない」

 「な、何を言っているんですか?」

 レオナルドが青い顔をし、ライオネルが白い顔で俯く。エテルナとレイチェルは無表情でルスランを見つめている。

 ルスランは背中を向けて俯く。

 「連れて行け」

 ルスランが腕を上げると、帝国の衛兵に連れて行かれた。

 その場にはルスランとサマンサだけが残った。

 「私は何をすればいいのかしら?」

 コテンと小首を傾げて、似合わない妖艶な微笑みを浮かべた。

 「やっぱり俺が選んだ女だ」

 くつくつと笑いながら振り返るルスラン。

 サマンサはニッコリと微笑むと、ルスランに近づき、ルスランの口唇に人差し指を添えた。

 「女ってやめて。私はサマンサよ。努努忘れない事ね」

 ゾクゾクっと震えながら歓喜に打ちひしがれるルスランは、その場に跪き求愛のポーズをとった。

 「どうか、俺の計画に加担してくれませんか?」

 「中々素敵なプロポーズだ事。いいわ。乗ってあげる」

 「歩く道は茨の道だが、それでも?」

 「だったら真っ赤な薔薇の花を咲かせてやりましょう」

 二人とも暗い瞳に狂気を孕んでいた。

 「では早速いいだろうか? 時間がもう無いのだよ」

 「分かったわ」

 ルスランにエスコートされるまま、サマンサは奥の部屋へと消えていった。

 皇城の広間には誰も居なくなった。


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