23 りんご
相変わらずチートね。
エーレクトロン駅を降りると、前より更に発展していた。シ◯シティやってんじゃないのよ?
西口のタクシー乗り場へ行く。
タクシー待ちの行列があっても、タクシーが列を成して待機しているので、次々と乗車していく。
ものの二分で自分達の前にタクシーが滑り込んでくる。
「相変わらずここの街は凄いわね」
アンさんが呆れたような関心したような感じで呟く。
寧ろ受け入れられてる方がびっくりだけどね。
ものの数年でここまで発展するなんて異常よ。
タクシーの助手席にアンさん。
後部座席にソフィア、メアリー、私の準備で乗る。
「ねぇ、私が言うのもなんだけど、慣れすぎてない?」
まぁ、前世でたっぷりお世話になってましたからね。
寧ろ、スムーズに乗れる今の方がありがたいわ。
汽車も座席に余裕があるしね。
満員電車なんて死んでもごめんだわ。
というか、なんで頑なに汽車なんだろうね?
ここまで発展してるなら、電車とかにしちゃった方がいいような気もするんだけどなぁ。
「クリス様、私窓側がいいんですけど」
暫く走ってから、メアリーがそんな事を言う。
「乗る時に言いなさいよ」
「いや、そうなんですけどね」
ソフィアがこっちを見てニヤニヤしている。
「何?」
「つまりね、メアリーは私を信用してるって事なのよ」
「?」
「はぁ…。このニブチン…」
何でそんな事言われないといけないのか分からないわ。
そもそも、ちゃんとシートベルトしてるから、走行中に席移動なんてできるわけないでしょ?
そんなこんなで、十分ちょいで病院に着いた。
「病…院…?」
「そうよ」
「デカすぎない?」
大学病院くらいの大きさがある。いや、もっとかな…?
ぱっと見十階以上あるビルが四棟あり、それぞれ通路が繋がっている。
他にも三階から五階くらいの建物が幾つかある。
病院の敷地も広い。木々が生い茂り、都会の中のオアシスのよう…。公園も兼ねてるのかな?
「父は二号館の四階の病室にいるわ」
その病室へ入ると、ブライアンさんがこっちを見て、いつものつかみどころのない笑顔を向ける。
「もっと広くていい部屋があったのでは?」
「ああいう部屋は高いだろう? 支出は極力抑えたい」
どこかの貴族や日本の政治家に聞かしてあげたいわ。
しかし、ソフィアを見るなり、ブライアンさんは表情を硬化させた。
いや、石化の呪いでも掛けられたかの様に、絶句して固まっていた。
「お父様どうしたの?」
「あ、ああ…。いや、何でもない。ははは。えっと初めましてかな?」
「あっ…そ、そうですね。ソフィア・ウイングドライオン・アンバーレイクです」
「知っているよ。噂はよく聞いているよ。こんな体制で申し訳ない。ギャラン・ボルツ・カーボナード・ブラックダイアンモンド。略してブライアンでいいよ」
ブラックダイアモンドを略してブライアンって言っていたのか…。初めて知ったわ。
しかしなんだろう。二人の間にあるこの独特な空気感は。
つい、アンさんと顔を見合わせてしまった。
「ブラック…ダイアンモンド…」
「ああ。そうだよ」
ふふっと笑うブライアンさんだが、ソフィアの一言で、またぞろ驚いてしまう。
「王家の盾…」
「おや。知っているのかい」
ブライアンさんは現王家を守る為に、王家の盾として暗部の活動しているけど、それを知っているのはうち含めて四家とそこで働く人達だけのはず。
ソフィアが知っているのは、恐らくゲームのシナリオだからだろうか。
でも、ブライアンさんの反応を見ると、違和感があるのよね。
「あ、ああ…すまない。立ち話もなんだね。椅子があるから遠慮なく座ってくれ」
促されるまま椅子に座る三人。
メアリーは後ろで立ったままだ。
「ほら、果物やお菓子もあるからね。食べてくれたまえ」
「でも、それお父様宛に持ってきたものじゃ」
「腹を刺された翌日に食べられる訳ないだろう」
「あー…。そうよね。じゃあ、クリスきゅん、ソフィアちゃんどうぞ」
「では、遠慮なく」
そう言うと同時にりんごを差し出すブライアンさん。
ああ。そうね。お決まりだものね。
渡されたりんごを受け取り、チェストにあった果物ナイフを手に取る。
「何してんのお父様?」
「何って、見舞いの時にはりんごを剥くものだろう?」
「?」
訝しげな顔で戸惑うアンさん。
まぁ、そうよね。病室でりんごを剥くなんて、日本のドラマやアニメとかでしか見ないし、海外ではそのまま齧るから剥くなんてありえないわよね。
……日本?
「あっ、折角だし、私うさぎがいい」
「ははっ…。だそうだよ。できるかい?」
「え、ええ…」
ニコニコしながらソフィアを見るブライアンさんと、この場の雰囲気にあっさり溶け込んだソフィア。
その様子を私とアンさんはただただ戸惑うばかりだった。




