20 お見送り
「お姉様…」
「何よそんな顔して。別に一生の別れじゃないし、顔合わせに行くだけよ?」
いや、そうなんだけどね。
なんというか、こう…。相手に迷惑かけないかとか、向こうの姑さんと上手くやれるのかとか、国を乗っ取ったりしないかなどなど不安の要素しかないので、とても心配だ。
主に向こう側への配慮だ。
でもまぁ、少しはお姉様の事も心配してるのよ?
他国。しかも次期皇帝に嫁ぐなんて、並のメンタルじゃ耐えられないものね。
そこは心配してないんだけど、我が強いお姉様が向かうのやり方に馴染めないとか、或いはやりすぎてクーデター起こされないかとかそんな心配。
「まぁとりあえず、向こうには私を知ってもらって、私に合わせてもらうわ」
凄いね。よくそんな事自信満々に言えるね。
お姉様一人で乗り込むんならいいよ?
「どうして私が…」
「地獄行きの片道切符」
「ねぇ、ドッキリなら早くバラしてよ!」
お姉様が学園時代にお付きをしていたフィジーさん、ヒナナさん、マーブルさんの三人も付き合わされている。
不満たらたらだが、まぁ気持ちは分かる。
「という事で、暫く留守にするからよろしくね」
お母様が少し疲れた顔で微笑む。
まぁ、お姉様だしね。そりゃあ気苦労もするわよ。寧ろこのくらいで済んでいるのが奇跡なくらい。
「私も公務として行ってきます。本当はついてきて欲しいのですが、今回ばかりは仕方ありません」
レオナルドも兄のライオネル殿下と共に行くのだそう。
まぁそうだよね。
一伯爵家令嬢とはいえ、帝国の次期皇帝に嫁ぐかもしれない訳で。
つまり、王家にとっても外交上重要な案件なのよね。
更に外交といえばこの人。エテルナ王妃という外交のプロもいるしね。
国王様はそういうので失言や失敗ばかりしているそうなので、次期国王候補のライオネル殿下とレオナルドが行くのね。
王妃様の後ろを見ると結構な人がいる。
通りで官僚や騎士が付いてるわけだ。
この前、ライオネル殿下に付いていた目つきの鋭い人もいるけど侍従とか執事みたいな人なのかな?
そして、騎士団の方はあんまり見た事ない人達だな。第一から第十ニまであるけど、どこの所属なんだろう?
ちなみに私達暗躍部隊は存在しない第十三騎士団所属になっているらしい。
存在しない扱いなのに、所属を作る意味あるのかしらね?
まぁ、偉い人の考える事はよくわかりません。
レオナルドの後ろにはディンゴちゃんとかシャリオさんが護衛として付いている。
ディンゴちゃんは私と話したそうにしてるけど、この場では難しいでしょうね。
というか、出世したなぁ…。
そんな感じでしみじみと見ていた。
それにしてもお姉様はこれから大変なところに行くというのに、随分とラフだな。
格好というよりも、雰囲気なんだけどね。
「お姉様、ハンカチは持ちましたか? ポケットティッシュは持ってますか? お小遣いは300カラットまでですよ? バナナはおやつに入りませんよ?」
「子供の遠足じゃないのよ。というか私を子供扱いしてる?」
「……」
「ちょっと、そこは即否定しなさいよ!」
だってねぇ…。いつまでも手のかかる子供みたいだし。なんなら子供の方がもっと利発…。
「まぁ、ハンカチは持ってきてるわよ」
「ぐしゃぐしゃじゃないですか、もう…。私の貸しますから」
「あらありがとう。すんすん…。クリスの匂いがするわ」
「ちゃんと洗ったやつだから匂いがするわけないでしょ! 柔軟剤の匂いですよ」
「クリス、私にも一つ貸してくださいな」
「レオ様が入ってくるとややこしくなるんですが」
こういう事もあろうかともう一個用意しといて良かったわ。
「はいどうぞ」
「流石はクリス。私の欲しいものを直ぐに出せるなんて流石です。くんくん…はぁ♡ 確かにクリスの匂いがします」
「クリスちゃん、私には無いのかしら?」
王妃様まで…。
「もうありませんし、臭くもないです。ほら、時間でしょ?」
「もうイケズねぇ。まぁそうね。でも、エンジェルシリカまでは汽車が走ってるから大丈夫よ。まぁ、そこから先は馬車移動になっちゃうから大変だけど、移動時間は十分にあるから大丈夫大丈夫」
「エンジェルシリカの馬車って汗臭そうよね」
「思っていてもそんな事言っちゃダメよ?」
「思ったんだけど、ソフィアちゃんの所の車借りられないかしら?」
みんな言いたい放題だな。
でも、確かに帝国までの道の状態を考えたら、馬車は辛そうだよね。
でも、この大人数を運べる車なんて軍用のトラックとかしかないんじゃない?
あれも乗り心地変わらないと思う。というか、速度出る分より悪いまであるわ。
「まぁ、とりあえず、準備も出来たからそろそろ行くわね」
「ええ。お気をつけて」
「お土産期待しててね」
「本当に遠足にでも行くんですか?」
「クリスは本当に面白い事を言うわね。でもまぁ、私にとっては遠足ね」
いつもと変わらない大胆不敵な顔でそう言うが、一瞬顔が陰った。
「まぁ、何かあったらちゃんと迎えに来てくれるんでしょ?」
そう言うお姉様は、珍しく貴族の令嬢みたいにに見えた。
「なーんてね。大丈夫よ。ちゃんと勝って帰ってくるわ」
勝つとは一体…。
しかし、お姉様でも不安に思う事はあるんだな。
みんな話はそこそこに車に乗り込んで出発していった。




