18 お姉様に婚約の話?
「えっ!? お姉様に求婚? 一体どこの誰が血迷ってそんな事を…。罰ゲームにしたってやりすぎですよ?」
「クリス、よく私の前でそんな事言えたわね。昔はもう少し遠慮してたわよね?」
「いや、だって…ねぇ? お母様?」
「ホントよね。育て方をどこで間違ったかと何回も自問自答したもの」
「お母様まで…。流石の私も泣くわよ?」
お姉様が不満そうに腕を組む。明らかに泣く体勢じゃない。
「僕、サマンサが泣いたところって一回も見た事ないや」
「私も無いわね」
お兄様とキャロルさんも思い出す様に語る。
「私達もありませんね」
「泣かされる事はよくありましたが…」
アンジェさんとミルキーさんも遠い目をして呟く。
「私が普段どう思われていたのか、初めて知ったわ」
「初めて!?」
「何よクリス。どういう意味よ! というか最近また生意気になったんじゃないの?」
「そんな事ないですよ。というか、みんな口に出さないだけで…」
お姉様が私にとびかかり、ほっぺたを引っ張る。
「やめなさいサマンサ。いい歳して何してんのよ」
「だってお母様、クリスが生意気なんですもの!」
「事実なんだから、受け入れなさい」
「お母様!?」
お母様がピシャリと言い切ると、お姉様は呆然とソファに崩れる様に座った。
他のみんなも苦笑いしていた。
まぁ、仕方ないよね。普段のお姉様を見てたらそうなのるよ。
「ところでお母様、一体どこの世間知らずがお姉様に婚約を申し出たんです?」
「お兄様まで…」
「それがね…」
言いにくそうな顔をしている。
ヒョイとお姉様が手紙をひったくると、眉間に皺を寄せた。
「この前の男じゃない」
お姉様に声掛けた蛮勇な人いたかな?
「へぇ…意外と見る目あるじゃない」
嬉しそうな顔でお姉様は手紙を読んでいる。
それ、振込詐欺の手紙なんじゃないの? 或いは投資詐欺とかロマンス詐欺とか。
この歳まで浮ついた話一切聞かなかったお姉様に恋バナなんて、あり得るわけないじゃない。
お姉様に婚約って、病気で意識朦朧としてるか、お酒呑み過ぎて記憶失ってるか、脅迫されて死か結婚か選べとかじゃないとないんじゃないかな?
辛うじてロザリーさんと結婚するかなとも思ったけど、その可能性も最近じゃなさそうだし…。
他のみんなも同じ考えの様で、不審そうに眺めていた。
「それで、誰からなの?」
キャロルさんがこの空気の中、意を決して口を開いた。
「ルスランって書いてあるわ」
「それって…」
「ルビー帝国、次期皇帝ルスラン・インペラートル・ルゥビーン…。あの時の人ね」
お母様意外の全員が立ち上がった。それくらいの衝撃だ。
「ふぅん。まぁ次期皇帝なら私の相手として及第点ってとこかしらね」
ねぇ、どの口でそういう事言ってるの?
お姉様に選ぶ資格なんてないでしょうに…。
申し込まれただけでも奇跡なんだから、もう少し謙虚にした方がいいんじゃないかな?
「そ…それで、お姉様はどうするんです?」
「ん? んーどうしよっかなぁ…。ルビー帝国って寒いじゃん。逆にこっちに来い。みたいな?」
それ、本人いなくてよかったね。いたら大激怒よ?
まぁ、怒ったお姉様に勝てる人なんてそんなにいないけどさぁ…。
お母様と、アンジェさんと、ミルキーさんと…辛うじてメアリーかな?
しかしらなんだかんだ言っても女の子ね。凄く嬉しそうな顔してる。
素直になればいいと思うのよ。ツンデレ拗らせるとこうなるいい見本よね。
「とりあえず顔見せにでも行ったら?」
「そうね。気に入らなかったら、ついでに国を潰してくるわ」
お姉様なら本当に出来そうで怖い。
国際問題になりそうだから、やめてね?
*
急遽学園から呼び出されたと思ったら、まさかお姉様の婚約の話だとは思わなかった。
満更でもない顔をしていたけど、やっぱりちょっと気になったので、お姉様の自室を訪れた。
「お姉様…」
「なぁにクリス? もしかして心配してるとか?」
「いや、まぁ…そうですね」
いくら鋼メンタルのお姉様とはいえ、次期皇帝との婚約は気が重いのではないだろうか?
「そんなに心配しなくていいわよ? 実際嬉しかったのは本当だし」
乙女の顔をしているお姉様。
「まぁ、この国に私と付き合おうなんて骨のあるやつなんていないしね」
もしかして、婚期を逃しているのが、そんなに堪えていたのだろうか?
お姉様は後ろ手を組んで振り返る。
「本当はね、クリスと結婚したかったのよ」
「え?」
「まぁ、ライバル多いしね。流石に私には分が悪いし」
まさか、お姉様がそんな事考えているなんて思わなかったわ。
というか、姉妹で結婚なんて出来る訳ないでしょうに…あ、私男か…。いやいや、それでも無理でしょ。
お姉様の考えてる事は本当に分からないわ。
でもまぁ、お姉様が幸せならいいのだけど、お姉様が絡んでるから、どうにも胸騒ぎがするわ。




