16 おもしれー女
あの後は、みんな微妙な空気になってしまった。
それもそうだろう。だって、レオナルドとライオネル殿下とそっくりの人がルビー帝国次期皇帝だなんて、何かあるに決まってるもの。
他人の空似なんて思えないわ。
みんな思っていても口には出さなかった。
暫くして、ルキナ王女とテオたんは王妃様達と別の場所へ挨拶に向かった。
「レオ様は一瞬に行かなくていいんですか?」
「今日の主役はルキナですからね。それに兄上も別行動してるじゃないですか」
そういえば、ライオネル殿下一行はルキナ王女とは反対の方向に行ったなぁ。
目つきの鋭い護衛みたいな人が一緒にいたけど、見た事ない人だったなぁ。
そもそも、ライオネル殿下と話す機会なんてあんまりないからどういう人なのかも良く分からないのよね。
レオナルドもここにいるという事で、他のみんなも気になっていたのだろう。
次々とレオナルドに質問していく
「あ、あのレオナルド殿下?」
「はい。何でしょうか?」
「先程の方とはご親戚なんですか?」
確かにあそこまで似てたらね。
「いえ、うちはルビー帝国とは親戚でも縁戚でもないですね」
「そうですか…」
「でも、ルビー帝国の歴代皇帝や皇位継承者って、みんな黒髪赤目ですよね?」
「そういえば…そうだよね…」
「じゃあ、あの方は…」
話を聞いていて、始めて知ったんだけど、どうやらルビー帝国の皇族は全員黒髪赤目らしい。
といっても、嫁いだ皇妃は違うのだろうけど、産まれる子供は全員黒髪赤目らしい。
それに、お父様とブライアンさんが一緒にいた事がどうしても気になる。
あそこまでいくと、暗躍とはとても言えない。
それから暫くは、関係ない話も含めていろいろと話していた。
みんなの興味が別のものに移っても、レオナルドは暗い顔をしたままだった。
「うーん…」
「そんなに気になりますか?」
「ええ…」
「あんまり思い詰めない方がいいわよ。考えても答えなんて出ないわ」
そんなレオナルドに声を掛けたのは意外にもお姉様だった。
「ですが…。私だけならまだしも、父上も母上も驚いていたのです。何かあるに違いありません」
ルスラン様の行った方角を見つめながら、レオナルドは考えあぐねていた。
そして、意を決して歩こうとしたところで、お姉様に手首を掴まれた。
「やめておきなさい」
「でも、やはり気になります。向こうも何か気に掛かっていたようですし」
「こんな事言いたくないけど、嫌な思いをするかもしれないのよ?」
「それはそうですが…。そういえば、どうしてクリスとサマンサ嬢のお父上が一緒にいたのでしょうか?」
「それは…」
うん。確かに気になるわね。
普段は何があっても動じないお姉様が、この件に関しては少なからず動揺しているようにも見える。
「よろしいですか? 私は行きますね」
「レオ様…」
流石に一人で行かせるわけにも行かないので、付いていく。
「ありがとうございますクリス。クリスがいれば怖いものなんてありませんよ」
「仕方ないわね。私も行くわ」
「鬼に金棒ですね」
「どういう意味よ」
という事で、三人でルスラン様の元へ行く事にしたのだが…。
ルスラン様は苛立った様子でブライアンさんと話していた。お父様も黙って立っていた。
そして、こちらに気付いたルスラン様は、何事もなかったかの様に振る舞った。
「おや。どうかなされましたかな?」
言葉使いは丁寧だけど、尊大な言い方だわ。
そして、レオナルドがどう言ったものかと言い淀んでいると、ルスラン様は上半身を折り曲げ、顎に手をやり品定めする様に私を見る。
「へぇ…。いい女だな」
すかさず私の前に割って入るレオナルド。
「ちょっ! ダメです。クリスは私の婚約者なんですから」
いや、保留状態…と、言う訳にもいかないわね。
とりあえず、話を合わせておこうかしら?
だが、ルスラン様は予想外の反応だった。
「婚約者…。そうかすまない。女神みたいな美しさだったから、つい…な」
ま、まぁ、確かに私は女神級に美しいけど、面と向かって言われると恥ずかしいわね。
そんなルスラン様は、チラッとお姉様の方も見る。
「こっちはもっといい女だな」
「「「え?」」」
私とレオナルドとお父様が同時に疑問の声を出す。ブライアンさんは笑いを堪えるので必死だ。
「あら。貴方見る目あるのね」
「(ちょっとお姉様…)」
小声で止めようとするが、お姉様はルスラン様の目の前まで近づいて見上げる。
頭一つ分身長差がある。
お姉様には似合わない妖艶な微笑みをルスラン様に向けると、ルスラン様は頬をほんのり朱に染めた。
「あら、なぁに? 私に気があるのかしら?」
指を口元に当て、大人の女性のようなポーズをとるお姉様。背伸びしている様にも見える。
「ああ。灰色だった世界に初めて色が付いたよ」
「「「「!?」」」」
一体何を見せられているのだろうか?
全員が驚き固まってしまう。
息をするのも忘れてしまうくらい、ただただ様子を眺めていた。
「ふーん。貴方に私を扱いきれるかしら?」
「ふっ…おもしれー女」
結局、レオナルドが聴きたかった事は聞かずじまいで、ルスラン様とお姉様のやりとりをずっと見ているしかなかった。
求愛というより罵り合いのように見えるのは気のせいよね?
そして、機嫌が良くなったルスラン様は「また会おう」と言って、去っていった。
「お…お姉様?」
私とレオナルドは呆気に取られたまま立ち尽くしていたが、ハッとなってお姉様に声を掛ける。
あんなやりとりをしていたのに、お姉様はいつもと変わらない表情をしていた。
いや、ほんの少し口角が上がっているのかな?
面白い獲物を見つけた時のような顔だ。
「結局何も分からなかったわね」
「あっ…」
レオナルドも今更になって気付いたようだ。
「あーあ。なんかお腹空いちゃったなー。戻って何か食べましょ。ソフィアが食べ尽くしてないといいんだけど」
どの口で言ってるんだと思いながらも、大事にならなくて良かったなと安堵する。
いつも通りのお姉様の後をレオナルドと一緒に付いて、みんなの所へ戻る。
「今度会った時に聞きましょうか」
「そう…ですね…」
国王様も王妃様もこの件はレオナルドに伝えない可能性もあるしね。
あんまり肯定出来ないけど、レオナルド的には知っておきたいのだろう。
でも、教えてくれるのかしら?
そして、そんな機会は訪れるのかしらね?




