15 お披露目のパーティー②
「ところで王妃様はどうしてこちらに?」
「そりゃあ、婚約お披露目のパーティーなのよ? いろいろ回ってるの。ほら」
そう言って手で指し示した方向にはルキナ王女とテオたんことテオドールが、それぞれ素敵なドレスを見に纏って手を繋いで立っていた。
あぁ、なんて可愛いの? 今すぐにお持ち帰りしたいわ。
その時、背中を抓られた。
「いたっ! 何すんのよソフィア」
「何で私って分かったし」
「こんな事するのなんてソフィア以外にいるわけないでしょ。というか何で抓るのよ」
「テオを見てニヤニヤしてたから、つい…」
こんなところで嫉妬しないでほしい。
そもそも可愛いものを、ちゃんと可愛いと思う感覚をダメって言われるのはどうかと思うのよ。
しかし、テオたんはこれからルキナ王女に毎日可愛がられるのかと思うと、複雑な気持ちだわ。
そんな気持ちを察したのか、ルキナ王女は私とソフィアを見て舌なめずりをする。
そして、サッと私の後ろへ隠れるソフィア。
「ちょっとソフィア…」
「私、ルキナ王女苦手だわ。なんというか、同族嫌悪?」
まぁ、ソフィアも主導権握りたいタイプだしね。
人の話聞かないで、どんどん先に進めちゃう所はそっくりだと思うわ。
まぁ、ルキナ王女の方が1.2倍くらい強いけどさ。
しかし、テオたんのドレス凄いな。本当にお姫様みたいだ。一体誰が選んだのか知らないけど、グッジョブだわ。
ただ私とソフィアがわちゃわちゃしていたのだけれど、他のみんなはお姉様含めて全員カーテシーをしていたので、慌ててカーテシーをする。
「おや、皆さんお揃いで」
少し遅れて現れたのは、レオナルドとウィリアム。そして、第一王子のライオネル殿下だ。
婚約者を連れているのかな? ライオネル殿下の隣には見知らぬ美人さんがいる。
「初めましてかな? 彼女はジリアン。パパラチアサファイア侯爵家の長女なんだ」
「初めまして。お噂はかねがね…」
ピンク色の髪をした活発そうな人だ。おっとりしたライオネル殿下と丁度いいかもしれない。
いや、ルキナ王女みたいに獲物を狙う目をしている。
「兄上もルキナも婚約者を連れているんですから、やはりクリスも私と一緒に」
「何言ってんのよ。公式には婚約破棄しちゃったじゃない」
「そうよ。もう少し期間を空けないと流石に、ね?」
「そうね。その間に私のお世話係としていろいろ仕込みたいわ」
「あら。とても人気なのね」
「何でこんなに狙われているんです?」
そんな様子をみんなほのぼのしながら眺めていた。
そんな空気の中、秋にしては冷たい。いや、凍える様な凍てつく空気が流れてきた。
そちらの方へ視線を向けると、なぜが、お父様とブライアンさんがいた。
最近見ないなと思ったら何やってたのかしら?
地味だけどしっかりした生地の侍従服を着ていた。それもこの国のものではなく。
お父様は私達を見て、軽くウインクした。
同じくブライアンさんも私達を見て、一瞬顔を強張らせた。
普段から飄々とした感じで捉えどころのない人が、あんなにも顔を険しくさせるなんて一体何を見たんだろうか?
それを確認したかったが、二人の後ろから来た人物に気を取られそれどころでは無かった。
一斉に王族以外の全員が礼をした。
「そんなに畏まらないでくれ。俺は単なる招待客だからな」
そう言われて頭を上げると、私は目を見開いて固まってしまった。
チラッとレオナルド達の方を見ても同じだった。
なぜならその人は、レオナルドやライオネル殿下と同じ髪色、同じ瞳をしていて、顔つきもそっくりだったのだ。
その人も最初は顔に笑みを浮かべていたが、だんだんと硬い表情になっていった。
暫く沈黙していたが、その人が再度微笑みながら口を開いた。
「初めまして。俺は次期ルビー帝国皇帝のルスラン。ルスラン・インペラートル・ルゥビーン。病気の先代に代わってお祝い申し上げる」
何とも不遜で傲然な言い方だ。
レオナルドやルキナ王女は憮然とした表情だが、ライオネル殿下は、ただただ平静を保っていた。
だが、一番驚いていたのはやはり王妃様だろう。
普段の余裕の表情は完全に消え失せて、白い顔で口唇を震わせていた。
お母様も同様に硬い表情で下唇を噛んでいた。
何かあるのだろうというのは分かるが、これは一体…。
「おや、こんな所にいたのかい」
こんな状況でも臆する事なく明るい声で近づいてきたのは、国王様と宰相様だ。
だが、そんな国王様もルスラン様を見るなり、表情を険しくさせた。
「れ、レオン…?」
「!?」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに柔和な顔を作って国王様に挨拶をした。
「これはこれはダイアモンド国王陛下。俺は次期ルビー帝国皇帝になるルスランと申します。以後お見知りおきを」
「あ、あぁ…すまない。なにぶん歳なもんでな…」
明らかに王家の人達は何かを知っているんだろう。
「ふむ…。少々用事を思い出してね。ここで失礼させてもらうよ。改めてご婚約おめでとう」
気まずい空気を察したのか、ルスラン様は踵を返して去っていってしまった。
お父様とブライアンさんは一体何を考えてこんな事したのかしら?
その場に残されたレオナルド達は一様に暗い表情をしていた。




