14 お披露目のパーティー①
「うわぁ…すっごい人ね」
「ねぇ、私場違いじゃないかしら?」
「そんな事ないわ。…そもそも人混み嫌いだからあまり参加しなかったのが良くなかったわね。クリスが萎縮しちゃってるわ」
「そうだね。もう少しパーティー慣れする為にも参加した方が良かったね」
「お兄様は当然の様に女の子ね」
「ずっとこうじゃないか。今更何を言ってるんだい?」
「いや、まぁ…。お兄様がいいなら…」
お姉様って意外とお兄様にだけは強く出られないところあるよね。
今更だけどホントに意外だわ。
お父様にはあんだけ強く出るのに…。
今日は、ルキナ王女の婚約お披露目パーティーへ参加したのだが、見渡す限り人、人、人!
ライブ会場かよってくらい犇めき合っている。
まぁ、会場である王城の中庭は広いから、言う程密度が高い訳ではないけれど、やっぱり多い。
私はお姉様とお兄様と案の定いつもいるソフィアと端っこの方にいる。
端っこと言っても、料理がずらっと並べられていて、既に幾つかの料理はお姉様とソフィアの胃袋の中だ。
その様子を私はお兄様とじっと見ている。
「キャロルとおんなじお腹してる」
「それ、聞こえてないからいいですけど、言っちゃダメですよ?」
ちなみにお兄様の奥様であるキャロルさんは身重なので家にいる。
朝、お兄様のドレス姿に喜びすぎて、貧血で倒れかけたものね。
いつも見ているはずなのに…。まぁ確かに、今日は一段とガーリーだわ。
チラッと中央の方を見ると、王国内の貴族ほぼ全員参加してるんじゃないかしら?
貴族だけなのかしらね?
カリーナちゃんとか居ないのかしら?
ちなみにお母様はお付きとして、王妃様の所へ行っているんだけど、お父様はここ最近見てないのよね。
多分何かの仕事をしているんだと思う。
普段から影が薄いというのはあるんだと思うけと、学園に行く時には既に居なかったのよね。
しかし、パーティーか…。
家で催したパーティーを除くと二つしか参加していないし、いいイメージはない。
一つはレオナルドが勝手に婚約者と発表したのと、もう一つは婚約破棄の演技をした時の二回。
うーん。あんまりいい思い出ないわね。ただ疲れただけだわ。
「おや、こんな所で壁の花になってるなんて勿体無い」
「そうですわよ。と、言いたい所ですが、この人数では致し方ありませんわ」
「そうね。それに、あそこに行ったから何かある訳でもないしね」
シェルミー様、ジル様、イヴ様が私達の元へとやって来た。
ジル様は正統派といった感じの私好みのドレス。
対してシェルミー様はいつも通りの男装だが、イヴ様はゴスロリ風の魔女みたいな格好だ。
王家主催のパーティーのドレスコードってこんなに自由だったかしら?
季節的にもハロウィンが混ざってる気がする。
「ご家族と一緒じゃないんですか?」
「みんなそれぞれ仲のいい人とかと話してるからね。いても仕方ないし」
「でしたら、私達もそういう所にいた方がいいと思いまして」
「別に他の家との繋がりとかあんまり要らないしね」
「そうですわね。就職先も見つけましたし」
「家を継ぐ訳でもないからね」
「そういえば、私の就職先勝手に決められてたんだけどなんで?」
イヴ様はあの後、シェルミー様とジル様に引きずられるようにお母様の元へ連れられ、フリフリの衣装を着せられてレッスンさせられていたものね。
「魔法少女になってよ」という言葉に騙されて、そのまま三人組でデビューに向けて頑張っている。
まぁ、イヴ様の場合お兄様と魔術談義する目的もあるんだろうけどね。
「それにしても、クリス様のそのドレス素敵ですわね。とてもお似合いですわ」
「ありがとうございます」
「ホントにね。秋のこの季節にピッタリだね。…やっぱりもう一度恋人候補に立候補したいよ」
「私はいいかな。…うん。でも確かに似合ってるね。これはレオナルド殿下から? それとも自分で?」
「違うわ。今回は私が送ったのよ」
「え? ソフィア様が? いえ、それよりもクリス様のと…」
「へぇ…。いいセンスだ。ところで、ソフィア嬢も…」
「レオナルド殿下っぽくないとは思ってたけど、やっぱり…」
あの後、レオナルドがドレスを贈りたいと言ったけど、急だし間に合わないので、辞退してもらった。
そして、その後こっそりとソフィアがニマニマしながら持ってきたのよね。
だから、ソフィアのドレスと似ているのよ。
色合いもデザインも。
後でレオナルドから何か言われないか気が気でないけど、まぁ、その時はその時よ。
実際このドレス、私好みだし。生地とか細部に至るまでのデザインとかね。
「あら。クリス様達もこちらにいらしたんですか?」
声のする方を見ると、トミー様達一行が近づいてきた。
彼女達も別のグループとして、日々レッスンに励んでいる。
よくお母様の趣味に付き合ってるなと感心する。
バク転したり、アクロバットなパフォーマンスしたりで、そのうち骨折しないか気が気でないわ。
ジル様達よりも激しいパフォーマンスだし、走ったり歌ったりしてるもの。
そのせいか、めちゃくちゃスタイルがいいのよね。
みんなアイドル衣装っぽいデザインしてて、ふんわりしてるけど、前の方が丈が短いスカートだけど、こういう場所で着ていいのかしら?
まぁ、可愛ければいいわよね。
「あんらぁ。クリスちゃん達ったらこんな所で花を咲かせてたのねぇ」
「探しましたわよソフィアお姉様」
骨折の心配の必要がないであろうエリーとマーガレットの二人がやってきた。
気のせいか、急に気温が上がった気がする。
肩出しドレスを着たエリーのドレスは脇の下が既に破けていて、急遽付けたであろう安全ピンは曲がって刺さってるだけになっている。
マーガレットのは、いつほつれてもおかしくないくらいパッツパツになっている。
そしてソフィアの顔も引き攣っている。
以前と違ってエリミネーターみたいになっているからね。仕方ないね。
帰ってきてからも、何でも筋肉で解決できるとか言い出すしね。
ソフィアも、どうやって元に戻そうかと頭を抱えていたわ。
もう少し構ってあげたらよかったんじゃないかしら?
前は百合百合しかったのに、今は強盗犯と人質みたいに見える時があるもの。
「もっと中央にいればいいのでは?」
不意にそんな事を言われてので、肩をすくめて料理の並ぶテーブルを指し示す。
「でも、ここにいる理由を見たら分かりますよね」
「まぁ、いつもの事ですし、逆に探しやすいですね」
「ね。食べ物がある所にいけばいいんだもの」
「何よ。私が食い意地はったキャラだと言いたいの?」
「違うのかしら?」
まぁ壁の花に徹するというよりは、料理の置いてある所でゆっくりしたいとお姉様とソフィアが言うもんだからいるけど、確かに分かりやすくていいわね。
気がつけば、学園での友人達で集まっている。
逆に近寄り難い雰囲気になっているのか、よく知らない人達に声をかけられる心配もない。
それぞれが和気藹々と話し合っている。
イヴ様だけはお兄様と何やら端っこでノートを広げながらうんうん頷きながら何か話している。
こんな所でやる事じゃないでしょうに。
黒いような紫色のようなオーラが見える気がする。
「ホントソフィアちゃんってよく食べるわねぇ。若いっていいわね」
確かに。一体いくつのローストビーフとローストポークの塊を消したのかしら?
ローストチキンも骨しかないし、他の料理もソースくらいしか残ってない。
いや、そんな事よりいつの間にか私の横で、この前のお土産の扇子で口元を隠しながらもニッコリしている王妃様がいた。
全然気が付かなかったわ…。
「お母様みたいに急に現れないでくださいよ。びっくりしちゃうじゃないですか」
「クリスは私の事そういう風に思っていたの?」
お母様もさも当然といった感じでお皿に盛ったお肉を食べていた。そういう所ですよ。
「全くこんな端っこで…って、結構集まってるのね」
レッスンを受けてる人達がお母様と王妃様に挨拶している。
明らかに貴族の子女というよりは、コーチと研修生みたいなノリだ。
こんな場所じゃなかったら、貴族だと言われても信じないでしょうね。




